第60話 ……キスしちゃったね

「どうしてこんなにも仲も良くて、一緒にいたのに気づかなかったのだろう。早苗のことが恋愛的な意味として好きだということに」

「それはきっと、私と茜ちゃんがあまりにも近くにいすぎたからだと思う。近くにいすぎたせいで気づくのが遅れたんだと思う」


 早苗のことを恋愛的な意味で好きだと自覚した茜は、どうして今まで気づかなかったことに驚いている。


 その理由を早苗は自分なりの考えを茜に教える。


「本当は私たち両想いだったんだよ。昔から」

「そうだね。あたしたちは両想いだった。でもお互い近くにいすぎたせいでそれに気づかなかった」


 早苗と茜はとっくの昔から両想いだったのだ。


 しかし、あまりにも近くにいすぎたせいで、両想いということに気づかず遠回りをしてしまった。


「そう言えば答えがまだっただね」


 早苗は茜に告白されたことを思い出し、穏やかな表情で返事をする。


「私も茜ちゃんのことが大好きです。これからは彼氏としてよろしくお願いします」

「あたしこそ、これからは彼女としてお願いします」


 昨日早苗は茜に告白しているのだから、返事はもちろんオッケーだ。

 早苗と茜は照れくさそうにお互いお辞儀をする。


 そして顔を上げた後は、なんだか甘酸っぱくて照れくさそうに笑みを浮かべる。


「私たちカップルになったんだね」

「うん。これからは幼馴染ではなくカップルだね」

「もうカップルだけどあまり変わらないね」

「そうだね。まだ付き合って数秒だからね。実感ないかも」

「だったら私、茜ちゃんとキスしたい。そういえば、唇にはキスをしたことなかったよね、私たち」

「そうだね。頬にはたくさんしてたけど、唇にはしたことなかったね」


 幼馴染からカップルにランクアップした二人だが、まだカップルになって数秒ということもあり、お互いカップルに実感がなかった。


 その実感を得ようと早苗は茜に唇にキスをねだる。


 そしてこの時、早苗も茜も頬には何度もキスをしたことがあるが、唇には一度もキスをしたことがなかったことに気づく。


「やっぱり唇は特別だからね。無意識に避けていたんだと思う」

「そうだね。唇は特別だよ」


 早苗も茜も唇にキスをするのは特別だと意識していたらしく、無意識に避けていたらしい。


「でも、もう私たちカップルだから良いよね」

「うん。カップルだから良いと思う」


 茜が早苗の隣に座る。

 早苗たちはもう幼馴染ではない。


 厳密に言えば、幼馴染であるということは付き合った後も変わらないのだが、それは一旦置いておく。


 早苗と茜はお互い見つめ合い、手を絡ませ静かに目を閉じ、優しくキスをする。


 茜の唇はしっとりしており、なにより頬とは比べ物にはならないぐらい柔らかかった。


 味は汗のせいか少しだけしょっぱかった。


「「……」」


 今まで頬には何度もキスをしていた二人だが、唇は特別だったらしくお互い照れて顔を真っ赤に染める。


「……キスしちゃったね」

「うん、したね」


 早苗も茜もなにを話せば良いのか分からなず、当たり障りのないことを言い合う。


 今も唇に茜の温もりが残っている。


「……今日はずっと一人で寂しかったから、今夜はずっと茜ちゃんと一緒にいたい」

「うん良いよ。今夜は早苗の家に泊まるね」


 一日中寂しい思いをしていた早苗は、早速茜に甘える。


 早苗の庇護欲をそそるお願いに、茜は嬉しそうに承諾する。


 その後、二人は付き合って初めて早苗の家にお泊りをするのであった。

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