第5話 手が繋げない初々カップル
放課後の繁華街は人で溢れていた。
早苗たちと同じように学校終わりに遊びに来た高校生。仕事終わりの社会人。健康のために外を歩いている老人。
そんな人混みの中を早苗たちは歩いていく。
「放課後って楽しいんだけど、すぐに夜になるから寂しいよね」
「なら今日も泊まりに行くから寂しくないでしょ」
「うん」
沈む夕焼けを見て、早苗は寂寥感に襲われる。
学校終わりの放課後は楽しいのだが、それと同時に友達と別れなければならないので寂しい。
そんな寂しがる早苗を見かねた茜は早苗に優しい言葉をかける。
今日もずっと茜と一緒にいることができ、早苗は笑顔になる。
「今日は茜ちゃんの家に泊まりたいな」
「はいはい。どっちでも大丈夫だよ」
昨日は茜が早苗の家に泊ったので、今日は茜の家に泊まりたかった早苗はさらに我がままを言う。
茜も早苗の我がままにはなれているようで、嫌な顔一つせず了承する。
「……何度も思うけどあれで付き合ってないんだから驚きよね」
「……ボクから見れば完全にカップルそのものだけどね」
後ろでミチルと渚が早苗たちのことについて話しているが、そんなにカップルに見えるだろうか。
早苗からすれば、茜とは幼馴染だし昔からお互いの家に泊まり合うのは日常茶飯事である。
だからなぜ、ミチルと渚がそんなことを言うのかいまいち分からなかった。
「ミチルちゃんや渚ちゃんはお泊りとかしないの」
「するわけないでしょ。まだ付き合って二日目だし。……それにお泊りなんてまだハードルが高すぎるし」
「そうだね。まだ付き合ったばかりだからないけど、ボクはこれからミチルとはお泊りをしたいとは思ってるよ」
「馬鹿。そんな破廉恥なこと言わないでよ」
「おや、どうしてだい。カップルならお泊りぐらいなにも破廉恥じゃないよ。もしかしてミチルはそれ以上のことを期待してたのかな……いたっ」
「渚の馬鹿」
早苗がミチルたちに聞くと、ミチルに全力で否定されてしまった。
早苗からすればお泊りなんて日常茶飯事だからハードルが低いと思っていたが、ミチルからすればハードルが高いことだったらしい。
渚はミチルとお泊りすることに前向きだったが、なぜかそれを聞いたミチルが恥ずかしがる。
渚はエッチなことを考えたミチルをからかうと、真っ赤に顔を染めたミチルに罵倒され叩かれた。
「さすがに言いすぎたよ。ごめんねミチル」
「分かれば良いのよ。それと叩いてごめん。痛かったよね」
渚もミチルも少しやりすぎたと思ったらしく、二人で反省する。
二人ともすぐに自分の非を認め、謝ることができる優しい高校生だ。
だからこそ、そんな二人はお似合いだと早苗は思う。
二人とも優しいからきっとお互いがお互いを思いやれるカップルになれるだろう。
「あぁ~、イチャイチャしてるミチルちゃんも渚ちゃんもかわい~」
「カップルになってさらに二人は仲良くなったみたいだね。可愛い」
二人の初々しいやり取りを見てにやける早苗。
付き合う前から仲の良かった二人だが、付き合ってさらに距離感が近くなった。
茜もイチャイチャしている二人を見て微笑ましく見つめている。
「うっさい。それにイチャイチャしてるのはあたしたちよりも早苗たちの方でしょ。なに自然に手なんか繋いでるのよ」
照れているのかミチルは頬を赤くしながら、照れ隠しするかのように声を荒げる。
「だって茜ちゃんと手を繋ぎたいんだもん。茜ちゃんと手を繋ぐの好きだし」
「あたしもそれで早苗が喜んでくれるなら嬉しいし、あたしも好きだから」
茜と手を繋いでいたらなぜかミチルに目くじらを立てられる。
茜と手を繋いでいる理由は、茜と手を繋ぎたかっただけだしそれ以上でもそれ以下でもない。
昔から茜と手を繋いで歩いていたので、茜と手を繋いで歩く方が落ち着くし、茜も嫌がっていないから、この習慣は今も続いている。
「二人が好きでやってるんだからミチルも目くじら立てないの」
「……分かってるよ」
渚に諭されたミチルは罰が悪そうに答える。
「本当はミチルもボクと手を繋ぎたかったんじゃないの」
「べ、別にそんなんじゃないから」
「ミチルは素直じゃないんだから。ボクたちも付き合ってるんだから手を繋ごうか」
「……渚が手を繋ぎたいなら手を繋いでやってもいいけど」
「ありがとう。素直じゃないミチルも可愛いよ」
本当はカップルでもない早苗と茜が手を繋いでいて羨ましかったらしい。
それを察した渚がミチルに手を繋ぐことを提案する。
ツンデレなミチルは素直に了承しないものの、それが照れ隠しだと分かっている渚はミチルと手を繋ぐ。
ツンデレなミチルを渚は愛おしそうに見つめ、渚は照れくさそうに渚から顔を背けている。
今まで感じたことのない、二人の甘酸っぱい雰囲気に当てられて早苗は改めて二人はカップルなんだと再認識した。
「ツンデレなミチルちゃんも可愛いし、リードする渚ちゃんも可愛い~」
「前とは違う甘酸っぱい雰囲気でなんだか新鮮ね。二人ともとっても幸せそう」
手を繋いでラブラブな二人を見て、早苗も茜も幸せな気持ちになる。
二人のラブラブな姿を見て早苗は顔がにやけている。
「早苗も茜もちゃんと前を見て歩きなさい。それに早苗はニヤケすぎて顔が気持ち悪いから」
「全く、ミチルの照れ隠しはいつも毒舌だね」
「ミチルちゃんに気持ち悪いって言われた~。慰めて~茜ちゃ~ん」
「よしよし。早苗は気持ち悪くないよ。可愛いあたしの幼馴染だよ」
「えへへ、ありがとう茜ちゃん。だーい好き」
「あたしも好きだよ早苗」
初々しくイチャついている二人をニヤニヤしながら早苗たちが見ていたので、ミチルは恥ずかしさを隠すために毒舌を吐く。
その隣では渚が呆れているも、愛おしそうな表情を浮かべていた。
ミチルに毒舌を吐かれた早苗は茜の左腕に抱き着く。
早苗に甘い茜は頭を撫でながら慰め、早苗は落ち込んでいたのが嘘のように一瞬で元気になる。
ミチルと渚が付き合ったことにより、前よりもラブラブで甘々なグループになったのであった。
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