第6話 柊亜美と黒川尚美は幼馴染である
「別におばさんとは言ってないから」
瑞希は面倒だなと思いながらも亜美にフォローの言葉をかける。
「そうよね。私はまだお姉さんよね。まだ二十六だもん」
俯きながら落ち込んでいた亜美が一瞬で顔を上げ嬉しそうな表情を浮かべる。
喜怒哀楽が激しい姉である。
「それで瑞希ちゃんは高校生活には慣れた?」
「別に普通だよ」
亜美は瑞希の全てを知りたいらしく、しつこいぐらい瑞希の高校生活について聞いてくる。
それが面倒くさい瑞希は適当に返事をして濁す。
「瑞希ちゃんも高校生だもん。まさに青春ね」
高校生の時、リア充だった亜美は高校生というだけで青春と言うタイプの人間である。
だからどうして大人は高校生=青春と勝手に決めつけるのだろうか。
高校生の全員が青春を謳歌しているわけではない。
もし、高校生活が青春なら誰も不登校にはならないし、学校に来ているはずである。
でも現に高校生で不登校の人間はいる。
だから高校生=青春の等式は成り立たない。以上で証明終了。
「そう言えば瑞希ちゃんが通ってる高校に尚美ちゃんいるよね。学校での尚美ちゃんってどうなの?」
一人青春で盛り上がっていた亜美は、今思い出したかのように話を変える。
「別に普通だよ」
「普通じゃ分かりませーん。もっと詳しく言ってくださーい」
普通と答えたら、亜美が大人げなく唇を尖らせて駄々をこねてきた。
子供かっ。
「学校の時の尚美ちゃんは先生だもん。あまり話さないから分からない」
「そうなんだ。てっきり二人は仲が良いから、学校でも仲が良いと思ってた」
瑞希と尚美が学校ではあまり話さないことが意外だったのが、亜美は拍子抜けをした声を出す。
余談だが、亜美と尚美は高校の同級生だ。
つまり、その弟でもある瑞希とも面識はある。
もし仲が良いかと言われれば普通だが、良いか悪いかの二択だったら良いと答えると思う。
昔は一緒にお風呂にも入った仲だがもう、そんなお年頃ではない。
それに学校では生徒と先生という関係である以上、深くかかわることをお互いが忌避している。
別に幼馴染ということがバレても問題はないと思うが、バレると贔屓しているとか陰口を叩かれそうで嫌だった。
だから、瑞希と尚美はお互いが幼馴染ということを学校では隠している。
もちろん、プライベートで会うと普通に話す仲である。
ちなみに、瑞希の顧問を引き受けたのも幼馴染として最大限の配慮だろう。
だから尚美には感謝している。
「あまり先生と生徒が個人的に仲が良いとあまり良く思われないから基本、学校では他人のフリをしてる」
「えぇーそんなの寂しいじゃん」
学校では他人のフリをしてると言った瞬間、亜美はまるで自分のことのように悲しんでいる。
こういう、感受性の豊かなところは亜美の長所である。
だから亜美には友達が多いのだろう。
「やっぱり生徒と先生だからね」
「そうなんだ……それじゃー逆に先生という立場を利用して意地悪とかされてない?」
亜美は心配そうな表情を浮かべながら瑞希の顔を覗き込む。
亜美は超ブラコンだから瑞希のことが心配なのである。
「別にされて……いや、部活に入りたくないから帰宅部に入りたいって言ったら凄く怒られた」
あれは先生として仕方なく言っていただけかもしれないが、あれでストレスが溜まったことは事実だ。
だからそれを亜美に愚痴てみた。
さて、どんな反応をするのかな?
「なんてひどいことをするのかしら尚美ちゃんは。私の大事な瑞希ちゃんを怒るなんて。お説教よ。泣いて謝るまで許さないんだから」
尚美に怒られたことを愚痴ったら、予想以上に亜美がキレた。
瑞希には決して見せいないぐらい怒りに燃え、スマホを取り出す。
あの表情は知っている。
あれは本気でキレている顔である。
基本、亜美は穏やかで滅多なことで怒らないのだが、瑞希の話になるとまた別である。
覚えていないのだが、亜美が高校生の時、瑞希を馬鹿にした女子高生たちが亜美にお説教され泣いて土下座した逸話が残っている。瑞希はもちろん、眉唾だと思っているがあながち全部作り話だと思えないのが怖い。この姉ならそれぐらい本気でしそうである。
「ごめん嘘。尚美ちゃんは悪くないから落ち着いて」
「……瑞希ちゃんがそう言うなら良いけど、もし尚美ちゃんになにか嫌なこと言われたら私に言うのよ。二度と瑞希ちゃんにそんな口を聞けないように言い聞かせるから」
さすがに尚美が可哀そうだと思った瑞希は、亜美のスマホを奪い制止させる。
亜美は瑞希の意思が第一優先だ。その瑞希が止めろというなら亜美は素直に止める。
でもその表情はかなり渋い表情をしていたが。
本当に瑞希のことになると怖い姉である。
過保護の亜美は瑞希を守るようにハグをする。
女の子の良い匂いや柔らかさがダイレクトに伝わってくる。
もし血の繋がった姉でなかったら、少し興奮していただろう。
「姉さん、恥ずかしいから離れて」
「あぁ、瑞希ちゃんの良い匂い。ずっとこのままでいる」
「それじゃー学校に行けないから。姉さんも仕事にいけないでしょ」
瑞希を抱きしめながら瑞希の匂いや体温、感触を堪能する亜美。
瑞希はそんな亜美を振りほどこうとしたが全然離れてはくれなかった。
その後、亜美が離れるまで十分の時間がかかり、ようやく解放されたのであった。
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