第5話 柊亜美は超ブラコンである

 部活をしたくないから部活を作る。

 文字の配列だけで見れば、まさに矛盾である。

 部員集めを始めてから四日が経った。

 結論から言うと、まだ一人も集まっていなかった。


「……たった一人なのに、全然集まらない」


 朝七時のアラームが鳴るのと同時にアラームを切る。

 もう部員集めを始めてから四日が経ったのに、最後の一人が全然見つからない。

 そのせいで瑞希は朝から不機嫌だった。


「……たった一人で良いのに見つからないなんて……ここまで苦戦するなんて予想外だったわ」


 最初瑞希は一人ぐらい余裕で見つかると思っていたのだが、現実は甘くはなかった。


 でもそれもそのはず。


 瑞希は友達がいない。


 そのため、自分の部活に誘う人がいなかったのだ。

 これではたった一人でも見つけるのは不可能である。


 そのことに瑞希は気づいていなかった。


「おっはよー、瑞希ちゃーん。朝でちゅよー」


 ノックもなしに思いっきり扉が開かれる。


「姉さん、入る時はノックしてって言ってるでしょ」


 ノックもしないで自分の部屋に入って来た姉をガチで怒る瑞希。


「えへへ、ごめんね、瑞希ちゃん」


 だが残念なことに、いくら本気で怒っても姉の亜美には効かなかった。

 亜美は頭をかきながら笑顔で謝っている。

 誰が見ても反省していないことは一目瞭然だ。


 それもそのはず。


 この姉は超が付くほどのブラコンなのだ。


 つまり、瑞希だったら怒られようとも喜びに変えてしまう変態である。

 だったら嫌えば良いと思う人もいるかもしれないが、それはそれでまた面倒なことになるで、朝からストレスはためたくない瑞希はその選択肢を選ばなかった。


 柊亜美。


 瑞希の十一歳年上の姉である。ちなみに、担任の尚美とは高校の同級生である。

 身長百六十前半と瑞希とほとんど同じ身長である。

 茶髪のストレートロングで、後頭部に一部髪を編み込んでいる。

 超ブラコン以外はとても優秀な姉で顔も可愛いし、薬剤師として経済力もあるし、性格も優しい。

 胸もかなり大きく、服の上からも分かるぐらい大きい。

 推定Gカップはあるだろう。


「ちゃんと起きてるから、もう出て行って。着替えるから」

「分かったわ。瑞希ちゃんが着替えるの手伝ってあげる」


 この馬鹿姉は日本語が通じないのだろうか。

 瑞希が着替えるから亜美を部屋から追い出そうとすると、亜美がニコニコした表情を浮かべながら瑞希の着替えを手伝うと言ってきた。


 瑞希だってもう高校一年生の男の娘である。


 もう姉に着替えを見られるのは恥ずかしいお年頃である。


 ちなみに姉の亜美はそういう羞恥心がないらしく、普通に瑞希の前で着替えをしたり裸でよくお風呂から上がってくる。


 弟の立場からすると本当に迷惑なので止めてほしいのだが全然止めてくれない。


 だから瑞希はそこに関しては諦めた。


「ほら、朝は忙しいんだから邪魔しないで」

「あ~ん、瑞希ちゃんが冷たい。これが反抗期なのかしら。お姉ちゃん寂しいわ」


 瑞希は物理的に亜美を部屋から追い出し、重量のあるカラーボックスをドアの前に置く。


 亜美はなぜか嬉しそうに瑞希の反抗期を楽しんでいるようだったが、別に反抗期ではない。


 異性同士の姉弟なのだから、家族と言えども裸を見られたくないのは当然である。

 だからこれは姉弟として普通の反応であり、決して反抗期ではない。


「別に姉弟なんだから良いじゃない」

「姉さんが良くても私が恥ずかしいからダメなの」


 扉の向こうで悲痛な声で叫ぶ亜美。

 もう二十六なのだから分別を付けてほしいと思う。

 その後、パジャマから制服に着替えてからリビングに向かう。


「そう言えばおはようがまだだったわね。おはよう瑞希ちゃん」

「おはよう姉さん」


 朝のあいさつをしていなかったことに気づいた亜美が今更朝のあいさつをしてくる。


 あいさつは例え家族の間でも大事なものだと教えられてきた瑞希は適当ではなく真面目にあいさつをする。


「もう朝食はできてるから食べましょう」


 リビングに来た時から焼けたパンの匂いや香ばしいウインナーの匂い、そしてコーヒーの匂いがまだ寝ぼけている朝の脳にガツンと響く。


 その後、二人で朝食を取り、食後のコーヒーをすする。


 ちなみに親は海外出張のため、家にはいない。


 でも亜美の収入で家計は成り立つし、親も毎月少なくはない額のお金を振り込んでくれているおかげで、生活は支障はない。


 家事は二人で分担しているため、特に問題はない。


「瑞希ちゃんももう高校生なのね……大きくなったわね」

「それを言うと凄く年より臭いから止めた方が良いと思うよ」

「ガーン、まだ二十六なのに……そうよね、高校生からすれば二十六なんてもうおばさんよね」


 ただそんなことを言うと年より臭いと言っただけで、おばさんとは一言も言っていない。


 しかし、亜美は瑞希が思っている以上に年齢に敏感らしく、俯きながら落ち込んでいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る