第4話 部活は人生の無駄
「それは白鳥も同じだろ」
そう、別にクラスで一人でいるのは瑞希だけではない。
撫子もまた、他人と群れることなくクラスで一人で過ごす人の一人である。
「そうね。だからなのかしら。柊さんの名前はすぐに覚えたわ」
「それはどうも」
皮肉を込めて瑞希は撫子にお礼を言うものの、きっと伝わっていないだろう。
「それで柊さんは本当に部活動を作るの?」
「そうだな。本当は心外だけど作るしかないよな……。既存の部活は先輩や顧問がいるからさぼったら怒られそうだし、適当に部活を作って黒川先生を顧問にして適当に活動報告すれば良いだけだからな。白鳥も部活をやりたくないクチだろ。もちろん入るでしょ」
「確かに既存の部活は先輩や顧問がいるからさぼったらかなり面倒よね。だから本当は私も部活には入りたくないけど、入らないと永遠に先生に説教を食らうことになるし、柊さんが作った部活に入るわ。一番楽そうだもの」
いくら活動をあまりしていない部活だからと言って、全く活動していないわけではない。
瑞希も撫子も、部活に価値を見出せない側の人間である。
部活は人生の無駄である。
それに、既存の部活に入部したら活動がある時は必ず参加しなければならない。
なぜかって。
それは暗黙の了解だからだ。
入ったからにはやりたくなくてもやらなければならない。
これを人は暗黙の了解と言う。
それに部活をさぼったら先輩や顧問に怒られるのは目に見える。
そんなことでストレスを感じたくはない。
人のストレスの大半は人間関係だとも言われるぐらい、人間関係はストレスになりやすい。
「ありがとう白鳥」
「むしろお礼を言うのは私の方よ。これでやりたくもない部活に入らなくて済むわ」
入部してくれた撫子にお礼を言うと、逆に撫子にお礼を言われた。
確かにやりたくもないことに時間を割く行為は、人生において無駄でしかない。
人間の命は有限である。
有限である以上、やりたくないことに費やすよりやりたいことに費やす方が有意義である。
「これで残り一人ね」
「そうね。でも意外だったわ。まさか私と柊さんがこんな形で関わるなんて」
「そうね。確かに意外だったわ。別に私は誰とも関わるつもりはなかったから」
「それを目の前で聞く私はどんな反応をすれば良いのかしら」
撫子は肩をすくめながら、瑞希をからかう口調で言ってくる。
人のストレスを大半は人間関係だ。
だから、瑞希は極力クラスの人とも関わりたくないと思っていた。
面倒だし。
そのことを目の前で言われた撫子は、困り顔で瑞希を見ている。
「こういう時、つくづく思うわ。どうして部活は強制なのだろう。確かに好きで部活をしている人は良いかもしれない。けど私たちのように部活をやりたくない人だっているのに。それなに『入らない』という選択ができないなんて不合理よ」
撫子は憂いた表情を浮かべながら廊下の窓側に近づき校庭を眺める。
校庭からは吹奏楽部の練習の音色が響いており、遠くてどこかの運動部の掛け声が聞こえてくる。
部活に精を出して頑張る高校生。
これを人は青春の輝きと呼ぶのだろう。
「それには同感だな。それに、部活を入ってないと内申点が低くなるのもおかしいと思うけどな」
瑞希も撫子が見てる校庭の方を見ながら悪態をたれる。
部活動強制もおかしいが、なぜ部活を入っていないだけで内申点が下がるのか分からない。
そんなに高校生活において部活は大事なのだろうか。
瑞希はそうとは思わない。
そもそも大事なものなんて、人によって違うし、他人の価値観を押し付けないでほしい。
「それは私も思ったわ。部活をやっている人とやっていない人の間で、そこまで人間の優劣が決まるものなのかしら。私はそうは思わないけど」
窓の外で部活に励んでいる生徒を見ながら、この世の不合理を嘆く撫子。
もし、部活をやっている人の方が部活をやってない人よりも優秀なら、ほとんどの中学校や高校は部活強制だから日本はとても優秀な国となっているだろう。
でも現に日本でも多かれ少なかれ犯罪が起こっている。
結論、部活をやっているからと言ってその人が必ず優秀だとは限らない。
「とりあえず私たちの目下の目標は残り一人の部員を集めて部活を作り、先生たちに文句を言われないようにする」
「そうね。私たち二人だけでは部活を作ることはできない。顧問は黒川先生になってもらうとして幽霊部員でも良いからもう一人部員が必要ね」
今、瑞希たちがやらなければならないことはとにかく部活を作り、その部活に入部することである。
それをしないと永遠に先生から小言を言われ続けることになる。
そんなのは絶対に嫌だ。
そして撫子の言う通り、入部する生徒は幽霊部員でも良い。
つまりただ名前を借りるだけで良いのだ。
むしろ、名前だけ借りる方が瑞希にとって楽だった。
だって、部活したくないし。
「私も部活に入ってくれそうな人を探してみるから白鳥もお願いできるか?」
「もちろんよ。私の方でも探してみるわ」
「そう言ってもらえると助かるよ」
「別にお礼を言われるようなことではないわ。それじゃーお互い頑張りましょう」
部員集めを協力してくれる撫子に瑞希がお礼を言うと、首を横に軽く振りながら撫子は謙遜する。
そして最後、瑞希に向けた撫子の笑みは夕焼けに照らされていたせいもあってか、とても儚く美しい笑みだった。
その後、二人は家に帰るために昇降口へと向かう。
廊下には二人の影が細長く伸びていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます