第118話

 2時近くに帰ってきた実くんが、いつもならいるはずのあおちゃんの不在に、あれ?あおちゃんは?ってきょろきょろした。



 僕は台所で、夏休みなのに毎日実くんが用意してくれているお昼ご飯をまだ食べているところで、何かあった?って。



 何か。



 ケンカと言えばケンカなのかもしれない。

 でも、何故そうなったかって、それはあおちゃんが。



「………何か変で………あおちゃん」



 あおちゃんは宗くんを敵視している。

 だから気に入らない?僕が宗くんと………が。



 本当にそれだけなのかが分からなくて、僕は持っていたお箸をお皿に置いた。

 気になり過ぎて食欲がない。



「ん?あおちゃんはいつも変だよ?」

「そっ…そうだけど、そうじゃなくてっ………」



 実くんも実くんだけど、僕も僕のこれは失言。

 あははって笑いながら手を洗いに行った実くんが戻ってきてから、僕はあおちゃんが変だったさっきのことを、実くんに話した。






 途中、ごめんねご飯食べながらでいい?って、朝出勤前に冴ちゃんのお弁当と、僕のお昼ご飯と一緒に準備している実くんのお昼ご飯をレンジでチンして、食べながらの話になった。



 ふたりでゆっくりご飯を食べながら、何だろうねって。



「分かんないけどさ、もしかしたらやきもちとか嫉妬とかの類かもね」

「………え?」

「明くんいいなあ、羨ましいなあって。それはボクも思うし」

「え?」

「思うよ?あおちゃんの気持ちとはまたちょっと違うかもしれないけど、ボクはね、明くんいいなあ、羨ましいなあって」

「ええ?」



 何でもできて、カッコよくてキレイで優しくて、老若男女問わず人気の実くんが。

 僕の最大の憧れであり、ある意味絶対にこえられない壁的存在の実くんが。



 びっくりして実くんを見ていたら、実くんはご飯を一口ぱくっと食べて、ふふって笑った。



「ボクも出会いたいからね。明くんにとっての宗くんのような相手に。それがボクの夢だから。だからいいなあって思うよ?すっごい思ってる」

「………うん」

「ずっとずっとそれを願って夢見てるボクがまだで、そんなこと全然言ってるのを聞いたことがない明くんがもう出会っちゃった。手に入れちゃった。神さま何で⁉︎って」

「………あ、ご、ごめんなさい」

「うん、でも、これって謝ることでもないよね。明くんだって狙ってそうしたんじゃないんだし、むしろボクが執着し過ぎて叶わないんだろうし」

「執着?」

「そ、執着」



 まあボクの話は置いといてって、目を伏せて笑う実くんは、キレイで少し、寂しそうだった。



「明くんは昔から身体が弱くて、普通とは少し違うでしょ?」

「………うん」

「あおちゃんも、趣味がアレだから普通とは少し違う」

「………うん」

「お互いに普通とは少し違うってことで安心してただけに、多少の置いて行かれた感はあるんじゃない?」

「………」

「しかも宗くんだし?」



 何て言っていいのか、そもそも何て思ったらいいのか分からなくて、僕は卵焼きを見て黙っていた。



 全部が偶然。そうなっただけ。

 僕がどうこうしようとしてこうなったわけでは。



 ………そうか。



 もしかしたら、だからもどかしいのかもしれない。



 自分でどうにもできないところで、何かの意図でも意思でもあるかのように何かが重なってこうなった。だから、何で?って。



「あとは役目を取られた感?」

「………?」

「あおちゃんは昔から、明くんを守るお姫さまだからね」



 実くんの言葉に、僕を守るお姫さま⁉︎ってなったのは一瞬で、一瞬の後に納得する僕がいた。



 ………いつも横にはあおちゃんが居たなって。



 いつも横に居て、いつも僕の体調を気遣ってくれて、僕の顔を見ただけで体調が悪いことや、体調を崩しそうなことに気づいてくれたり。



「………そんなの、これからだって変わらないよ」



 思わず呟いた僕に、実くんは笑った。

 やっぱりいいなあ、明くんはって。



 僕には僕の何がいいのか、全然分からなかった。

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