第114話

 初めて見た剣道の、毎年行われているという夏の大会。宗くんが出た団体戦。

 宗くんがいるチームは、見事3位だった。

 しかも宗くんは、惜しい引き分けはあったものの、負けなしだった。



 午後から合流した実くん、辰さん、政さんも一緒に表彰式まで見た。

 体育館を出ると、光一さんと天ちゃんさんが光くんを迎えに来ていて、光くんとはそこでありがとうって別れた。



 そして、団体戦の全部が終わって出て来た宗くんに、みんなでおめでとうとお疲れさまを伝えて、まだ明日の個人戦があるから、いつもより早い時間に来てもらって、おめでとうと明日も頑張って会をしようということになった。




 5時半過ぎに辰さん、政さん、宗くんが来て、まだ早いし冴ちゃんもまだだけど先に食べようって、6時過ぎから夕飯を食べ始めた。

 冴ちゃんを待たなかった理由は、宗くんのお腹が延々と爆音をかき鳴らしていたから。



 今日のメニューはカツ。

 勝負と言えばカツでしょって、実くんが急遽スーパーに買いに行って揚げた。



 宗くんは2人前ぐらいのカツを、それはそれは美味しそうに平らげた。



 ご飯の後にはケーキも食べた。



 と言ってもこれは宗くんに用意したものではなく、我が家にいつもストックしてある実くんお手製のケーキを冷凍してあったもの。



「今度改めて宗くんの好きなケーキ作るよ。何がいい?」



 カツを2人前食べて、さらにケーキを美味しそうに食べる宗くんに、実くんが聞いた。

 宗くんはもぐもぐしながら少しの間考えて、そして。



「明は?ケーキ作れる?」

「………え?」

「明も作れるなら、明に作ってもらいたい」

「うん。じゃあ、そうしよ」

「みっ…実くんっ‼︎宗くん⁉︎」



 突然のフリに焦る僕。



 確かに作れなくはない。作ろうと思えば作れる。でも。



「だって明くん作れるし、他でもない宗くんからのリクエストだし」

「ほう、明くんも料理が達者なのか。素晴らしいな」

「羨ましい限りですねぇ」

「ぼっ…僕はそんなっ………実くんみたいにはっ………」



 でもそう。僕が作ったところで実くんには到底敵わない。



 しかも僕は実くんより格段にレパートリーが少ない。久しく作ってもいない。

 だから絶対実くんに作ってもらった方が。



「明」



 今日はまだ冴ちゃんが居なくて、いつもと違う並び順。



 僕の横に居る宗くんが、ふんわりと僕を呼んだ。



 ふんわり、だった。

 それは、ものすごく心地良い声。耳に、心に。

 大丈夫って無条件で思える声。今までの宗くんと、全然違う声音。



「作って」

「………」



 そのままの声で宗くんは言った。

 しかも宗くんは、あの目をしていた。



 好き以上、大好き以上の、気持ちの目。



 僕は、宗くんの口元についていたケーキを取って、うんって言っていた。言ってしまっていた。



 イヤだなんて、これで言えたらすごいよ。



「………宗よ」

「あ?」

「ひとつ確認してもいいだろうか」



 僕が宗くんの口元から取ったケーキを、宗くんがまたぱくりと食べて、宗くん‼︎って変な汗をかいていたところに、政さんの神妙な声。



「何だよ」

「気のせいだろうか。俺にはふたりの関係に進展があったように見えるのだが………」



 政さんの言葉に、僕はどきりとした。

 進展………をしているだけに、何て答えたらいいのだろう、と。



「あ、政」

「何だ、宗よ」

「俺やっぱ親父と住むから」

「何?」

「おお、考え直したということですね。………と、いうことはつまり」

「俺と明は、親父と母さん。太郎さんと冴華。そして親父と冴華だ」



 辰さんと亡くなった宗くんのお母さん。

 たろちゃんと冴ちゃん。

 辰さんと冴ちゃん。



 宗くんと僕がそれということは、宗くんと僕が。



 そんなことをここで堂々と言っていいの?



「むっ…宗くんっ………‼︎」



 思わず大きい声で宗くんを呼んだ僕に、宗くんはにやって笑うだけだった。

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