第74話

「はい、ボクからふたりへの誕生日プレゼントね。それぞれのリクエストにお応えして、宗くんはチョコブラウニー。明くんはレモンタルト」

「………いただきます」

「ありがとう、実くん」



 ご飯を食べ終えてのケーキタイムは、僕の今日の楽しみのひとつだった。



 前に一緒に暮らしていたおばあちゃんが料理上手で、たくさんのレシピを実くんに伝授していってくれた。その中にはもちろんスイーツ系もたくさん。

 おばあちゃんのレシピはどれも美味しくてどれも大好きで、誕生日にはケーキのリクエスト権がもらえるから、どれにしようって毎年悩む。



 今年の僕のリクエストは、タルト台も手作りのレモンタルト。宗くんはチョコブラウニーにしたんだ。チョコブラウニーもすごく美味しいから、きっと宗くんも喜んでくれるよね。



「まっ………まさかと思うがこれもキミが⁉︎」

「ええ、祖母直伝の手作りですよ」

「………し、信じられない。これが手作り………?キミはもしや天才か?」

「大袈裟ですよ。そんなに難しいものじゃない」



 僕の前と宗くんの前に置かれたお皿を覗き込むようにして、政さんが驚きの声をあげている。実くんは否定しているけど、料理の天才って、そうかもしれない。



 おばあちゃんが書いてくれたレシピを見ながらなら僕にも作れると言えば作れるし、実際に作ったこともある。

 でもどんなに作っても、おばあちゃんや実くんが作るようには作れない。



 と、僕は思っている。



 実くんも冴ちゃんも、そんなことは絶対に言わないけれど。



「いやいやいやいや、大袈裟なものか」

「大袈裟です。レシピ通りに作れば誰にでもできますから」

「………誰にでもって」

「これ。宗くんはホール食いしたいって言ってたから少し小さめでこれ、ワンホールね」

「ん」

「明くんは宗くんのと同じサイズのを作って、これの残りを冷凍してあるから少しずつ食べようね」

「うん」

「冴ちゃんはいつも通り両方を一切れずつ、辰さんと政さんはどうしますか?」



 宗くん、ワンホール食いがしたいって。



 見ると、宗くんの前に置かれたお皿には、確かに小ぶりだけれどしっかりとワンホール分のチョコブラウニーがあった。



 宗くん。ご飯をあんなに………ご飯もお味噌汁もおかわりをして、どのおかずも満遍なくたくさん食べていたのに、このサイズのケーキが食べられることがすごい。どこにそんなに入っていくのか。



 もし僕がワンホールなんて食べた日には、いくらご飯を食べていなくても、いくら実くんのお手製ケーキでも、僕のお腹は絶対それに耐えられない。耐えてくれない。



 宗くんは、チョコブラウニーをじっと、キラキラと目を輝かせて見ていた。



「ま、まさかキミ‼︎もしかしてこのケーキたちを、わざわざ2個ずつ作ったというのか⁉︎」

「はい?ええ、そうですけど………?」

「し、信じられない。いくら弟たちのためとは言え、そんな手間ヒマかかることを」

「だから大袈裟ですって。タルト台は一度に何個か作って冷凍してあったものだし、それぞれ材料をはかって混ぜて焼くだけですから」

「………いや、そんな簡単に」

「だから、簡単ですって。で、どうするんですか?政さんは食べないんですか?」

「何だと⁉︎もしこれで食べられなかったら本気で泣くぞ‼︎俺は‼︎」

「………泣くって政さん。いい大人が何を言ってるんですか………」

「いやいや、泣くだろう。普通に。そして俺も両方。是が非でも両方を頂きたい。って、図々しくもいいだろうか?」

「ええ。泣かれても困るんで、両方用意しますよ」

「ありがとう。嬉しい限りだ。泣かずに済む」

「いちいち大袈裟ですよ、政さん。辰さんはどうしますか?」

「ぼくもぜひ、両方食べたいです」

「分かりました。切って持って来るのでちょっと待ってて下さいね」



 先に食べていいのか分からなくて待っている間、宗くんはずっと、ちょっとおかしいぐらい、じっとワンホールのチョコブラウニーを見ていた。



 おあずけさせられている犬みたいだ。



 まだかまだか、今か今かとわくわくしているのがすごく伝わってきて、意外な一面で、ちょっとかわいいって僕は思った。


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