第63話
「それで明くんは今日、ご飯が食べられないのね」
「………うん、ごめんなさい。ちょっとお腹いっぱいで」
冴ちゃんの言葉に頷いて、僕は謝った。
帰って来てから数時間経ったのに、僕のお腹はいっぱいのまま。
お腹いっぱいの理由は、僕が光くんとあおちゃんと、光一さんが働いているカフェで米粉パンケーキを食べたから。
突如現れた鴉山天さんっていう、派手な光一さんと光くんの親戚のお兄さんにそれなら大丈夫と言われて、恐る恐る。
僕の身体は虚弱軟弱で、実くんとおばあちゃんのご飯しか受け付けない。
外食なんてしたら胃もたれとお腹くだしでそれはそれは大変なことになる。ひどいと吐いたりもする。
だからうちは外食はしない。僕のために外では食べない。お惣菜も買わない。すべて実くんの手作り。なのに。
「それはいいんだけど、本当にお腹大丈夫なの?」
「それがね、不思議なことに本当に全然大丈夫なんだよ」
「何で分かったのかしらね。不思議ね」
「ね。でも良かったね、明くん」
「うんっ」
実くんが作るご飯は美味しい。本当に美味しい。大好き。
でも、あおちゃんとカフェに行って、メニューやあおちゃんが食べているのを見て、食べてみたいなって思うこともやっぱりあった。
一口ぐらい平気かなと、一口もらうこともあった。
そしてその一口を何度も後悔して来た。
………なんてことを、天ちゃんさんが知るはずないのに。
もちろん、光くんが話しているという可能性はある。僕の虚弱軟弱ぶりを。
でも、それにしたって。
今日食べた米粉パンケーキは、本当に美味しかった。
厚みのあるふわふわのパンケーキで、お米の甘さがしていて。
本当なら生クリームが乗っているらしいのを、光一さんがなしにしてくれた。そのかわりにお皿にはイチゴが乗っていた。
胃もたれするかな、お腹壊すかな、電車の中で吐いたらどうしようっていう心配は、ただの心配で終わった。
天ちゃんさんは、あおちゃんがよく食べることも知っていたっぽかった。
それももちろん、光くんが話しているから知っていた可能性は大いにある。
あるんだけれど。
米粉パンケーキなら大丈夫って、何故分かった?それに。
………それに。
『君の心そのままの繊細なその身体は、これから段々強くなって行くから大丈夫。あと少しだよ。このまま頑張って』
天ちゃんさんが言ったその言葉が、僕は気になって仕方なかった。
「あ、今から出ますって」
「うん、分かった」
台所で、ダイニングテーブルのところで話してて、冴ちゃんがテーブルの上のスマホをチラッと見て実くんにそう言った。
無音のスマホの、画面にうつったメッセージを見て言ったんだろう。
今日は、今から辰さんが来る。
僕がうっかり実くんにパンケーキを食べて帰ることを伝えそびれて、僕の分のご飯が余っているから。
それ明日食べるよ、は、残念すぎることに僕には禁止されている。
だからそれを、辰さんか宗くんかにどうだろうという話になって。
「ちょうど話したいことが色々あったの」
なんて冴ちゃんの言葉もあって。
実くんが辰さんの到着に合わせてすぐにご飯が出せるよう、準備のために立ち上がった。
話したいことって何だろう。
カフェで楽しかったっていう気持ちが、一気に心配と不安に変わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます