第58話
「え、じゃあ連れ子同士ってこと?」
「………うん、そうなんだ」
昼休みの中庭。
僕はあおちゃんと鴉山くん、鴉山くんとお弁当を広げていた。鴉山くんの友だちのカラスのかーくんもいる。
昨日約束していた通り、4時間目のチャイム後、昼休みに入ってすぐ、宗くんはドアのところから僕を呼んだ。明って。
その声にクラス中の視線が宗くんに行って、クラス中の視線が僕に来た。
ざわざわしていた教室が一瞬で、一瞬だけシンってなった。
僕は急いで自分のお弁当と宗くんに作って来たおにぎりを持って廊下に出て、宗くんにおにぎりを渡した。
『3つ?』
『うん。塩と梅とツナマヨ。宗くんなら3つ食べられるかなって』
『………』
『あ、ご、ごめんね。多かった?』
『………違う』
『違う?』
『すげぇ嬉しい』
『………えと、あの、昨日、宗くんツナマヨが好きって言ってたから』
『ありがと』
『つっ………次はっ………こ、昆布のおにぎりも作るね』
『………ん』
ありがとのとこでおにぎりを渡してる手をぎゅっとされてどきんってして、変な汗がどっと出た。
宗くんはやっぱり、僕にはよく分からない。
今日教室に入ったら、すぐに何人かのクラスメイトから聞かれた。昼休みまでにも何回か聞かれた。兄弟なんだって?って。双子ってこと?って。
どこまで説明していいのか悩んで、双子じゃないけど兄弟だよ、とだけ答えた。
どういうこと?ってさらに突っ込まれたけれど、返事はうん、ちょっとねだけにした。
鴉山くんも気になっていたらしく、宗くんとばいばいして中庭でお弁当を広げてから、兄弟なの?って聞かれた。
鴉山くんにはちゃんと話した。鴉山くんになら、話してもいいかなと思って。
「血の繋がらない兄弟、か」
「………うん、そう」
多めに作って来たおにぎりをかーくんにどうぞって差し出して、ありがとうと言っているようにも聞こえる小さな鳴き声にかーくん天才って思いつつ、返事をする。
気持ちが複雑な、返事。
「でもさ、あれだね。連れ子同士なのに、ふたりはすごく仲良しなんだね」
「えっ………?」
「一昨日はハグで今日は手をぎゅ、でしょ?すごい仲良しじゃない?」
「ええっ?………と」
確かに、そこだけを見るなら、そうなのかもしれない。
そこだけを見るなら。
鴉山くんの質問に、僕は何て答えていいのか分からず、視線をかなり下の方に、地面の、気持ち的に地面の下の下の方に落とした。
「………色々、あるか。………うん。あるよね」
僕の落ちた視線から、何かを汲んでくれた鴉山くん。
そう言ったその顔は、びっくりするぐらい、思わず息を飲むぐらい、キレイだった。
「鍔田くんが教えてくれたからぼくも言うけど………」
「………?」
「うん」
「ぼくも、今一緒に暮らして、面倒を見てもらってる『父親』とは………血が繋がってないよ」
「え⁉︎」
「………⁉︎」
鴉山くんの意外すぎる言葉に、あおちゃんとふたり、びっくりした。
あおちゃんは僕のおにぎりを喉に詰まらせたぐらい、びっくりしていた。
「『鴉山』になったのがごく最近で、じつは全然、まだまだ慣れない」
「あ、それ僕も」
「鍔田くんも?」
「うん。僕も入学直前に『鍔田』に変わったばっかりだから、全然慣れない」
「そうなんだ⁉︎じゃあ一緒だね」
ふふふって笑う鴉山くんに、僕も一緒に笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます