第37話

 入学式当日、またしてもびっくりな事件は起こった。



 当日の朝もトイレとお友だちだった僕は、それでも何とかあおちゃんとあおちゃんのお母さんが一緒に行こうって来てくれた時間には何とかなっていた。

 そして、どうしても今日仕事を休めなかった冴ちゃんの代わりに休みをとってくれた実くんと家を出た。



 真新しいブレザーの制服が、中学の学ランと違って高校生って感じ。

 似合うよ、明くんって実くんが言ってくれた。

 早番で、僕が着替える前に出勤していった冴ちゃんに送るからって、入学式の看板の横で写真を撮られた。



 クラス発表を見たら、奇跡的にあおちゃんと同じクラスで、僕は心の底の底からほっとした。その奇跡のおかげで少し緊張も解れた。

 桜は少し散り始めていて、ところどころ葉桜になっている。

 それでも、ピンクが青空の下に映えていて、風が吹くとピンクがひらひらと舞って、日差しもあたたかで、こういうのを入学式日和って言うんだろうなって思う少しの余裕も、あおちゃんのおかげでできた。



 とはいえ、体育館は僕にとっては寒かった。



 カッターシャツの下に長袖、長袖の下に半袖も着てきた。なのに寒い。

 これはもしかしたら風邪をひくパターンかもしれないと、長い入学式、寒さにぶるぶるしていたときだった。事件は起きた。



「新入生代表、鍔田宗」

「はい」

「………っ」



 新入生代表、鍔田宗。



 え、今、鍔田宗って。



 宗くん?

 そんなわけ………って思いつつ、返事をして立ち上がった男の子に恐る恐る視線をやってよくよく見てみたら、壇上に向かって姿勢良く歩く、宗くんが。宗くんが。



 ………居た。



 聞いていない。こんなの聞いていない。僕と宗くんが同じ高校だなんて。一言も。

 どこの高校に行くのか、聞かなかったのは確かに僕だけど、多分、きっと、うちも辰さん一家も誰も、それを話題にしていない気がする。もし話題にしていたら、話題になっていたはず。でも僕は今の今まで知らなかった。

 と、言うことは、話題にされていないということで。



 え、ちょっと待って。



 じゃあ今日ここには辰さんか政さんも居て、僕たちは3年間同じ高校に通って、しかも僕は辰さんの息子になっているから………。



 想定外の事件に頭がくらくらして、僕は宗くんの代表挨拶が、何ひとつ耳に入って来なかった。




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