第5話

「明くん、部屋まで頑張って」



 二階建て、部屋数全部で6部屋のちょっと古い3DK賃貸マンションが、僕たち一家の家。 

 場所は、受験した高校からバイクで10分ぐらい。都会でもなければ田舎でもない。適度に便利で適度に不便なところ。



 僕は学校からのその10分の帰り道、実くんの背中にしがみついて泣き続けた。



 昨夜の冴ちゃんの『できちゃった』発言。試験のあまりの不出来。でも終わったことによる安堵。実くんの手を煩わせるばかりの自分。



 そういうメンタル的なものか、単純に10分泣き続けたせいか、その両方か、僕は過呼吸気味で、バイクからおりるのも実くんに助けてもらいながらだった。

 支えてもらっておりて、そのまま抱きつくみたいに実くんにしがみついた。泣いた。



 苦しい。

 過呼吸になったらゆっくり息を吐くようにって、できるなら呼吸を止めるようにって、言われている。

 でも苦しいから吸う。吸っても吸っても苦しいなら更に吸う。そしてどんどん気持ち悪くなる。



 ゆっくり吐くんだよって、実くんが背中をさすってくれる。



「頑張ったね、明くん。でもごめん。あと少し頑張って。明くん細いけどボクと身長変わらないから、さすがにもう担げない」



 そうだよ。こんなところで倒れたら。



 僕は実くんから腕を離して、ぜぇぜぇしながら、肩を借りながら、玄関に足を向けた。



 一階で良かったと、本気で思った。






 目を開けたら自分の部屋の天井だった。

 視界がぐるんって一回転。派手なめまい。

 それにまた目を閉じて、おさまるのを待つ。



 めまいは少ししたらおさまって、もう一回目を開けた。



 ………部屋がもう薄暗い。



 今日は入試だった。実くんに送り迎えをしてもらった。駐輪場で限界を迎えた。

 なんとか部屋まで辿り着いてベッドに突っ伏して、その後の記憶がない。

 記憶がないけど、僕はパジャマになっていて、ちゃんと布団を着て寝ている。



 ってことは。

 


 ………ってことだ。



 ブルって寒気がすごくて身体が震えた。ゾクゾクする。寒い。布団に入っているのに。

 いつもだけど、いつもに増して手も足も冷たい。バイクで冷えた。冷え切った。



 この、3月って言ってもまだ寒いこの時期に、バイクに乗ったらこうなるってことは、実くんも僕も分かっていた。バイクは基本、うちでは夏限定の乗り物。



 それでもバイクで送り迎えしてくれたのは、そうしないと間に合わなかったからと、僕への元気づけ。実くんの優しさ。



 ブルってまた、寒気が走った。



 その時部屋のドアが小さくノックされて、ドアが開いて。



「明くん、ちょっと熱計らせてね」



 実くんだった。

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