1.2.結果報告
神託を受け終えたテールは、リバスの反応を気にしながら授かったスキルの説明をした。
すると驚いた表情を見せて、テールに問う。
「……ん? テール。お前……スキルは一つだけか?」
「え? そうだけど……」
「え?」
「え?」
その答えにリバスは勿論、神父ですら難色の声を示す。
スキルとは基本的に複数個与えられるものであり、一つだけというのは絶対にないはずなのだ。
長年ここで働き、数多の子供たちが授かったスキルを聞いてきた神父でさえ、授かったスキルが一つだけという話は聞いたことがなかった。
「一つだけ……?」
「そんなことが……」
「な、なになに?」
「スキルってのは一つだけってことはないんだ。絶対に。最低でも三つ……いや二つはある筈なんだよ」
そういえば昔、リバスがそんなことをいっていた事を思い出す。
一つだけしかスキルを貰えないということは絶対にあり得ないらしいが、事実一つしか貰っていない為、それ以上どうすることもできないのだ。
スキルを再度確認してみるが、やはり研ぎ師スキルしか出てこなかった。
だがそれでいいのだといった風に、テールは満足そうにしていた。
なにせこれからもう一つ貰えるのだ。
「なんてことだ……」
「んー、でも神様はそんなに悪いスキルだとは言ってなかったよー?」
「へ? 神様?」
「うん。ナイラ様が出てきた。メルもそうでしょ?」
メルにそう問うが、可愛らしげに首を傾げるだけでよく分かっていなさそうだった。
「……私、神様に会ってないよ?」
「え、僕だけ?」
「いやそもそも、スキルを授かるときに神様に会ったなんて聞いたことがない。それは本当に神様だったのか?」
「うん。それは間違いないよ。部屋の中にあった神様の像にそっくりだったもん」
神様から授かったものなのだから、そのスキルを貰った神様に一度お礼を言おうと思い、ナイラの像を探して挨拶をしたのだ。
その時にしっかり姿を確認していたため、あの神様は本物だったんだと感動したのを覚えている。
「異例だ……」
「テール君と冒険できないの……?」
メルは悲しそうに呟く。
だが神様曰く、後に剣術スキルを授けてくれると言っていた。
その事をメルに伝えておく。
「神様はこの研ぎ師スキルを極めた後に、剣術スキルをくれるって言ってたよ。でも置いて行かれちゃうかもね」
「本当に!?」
「うん、本当」
メルはそれを聞いてぱあっと表情が明るくなり、とても嬉しそうにクルクルと回っていた。
「じゃ、じゃあテール君が冒険者になる前に私、強くなって色々教えてあげる!」
「あ、いいねそれ! お願いね!」
実際のところ、男の子が女の子に守られるというのはどうなのだろうか、と心の奥底で呟きはしたが、メルは乗り気なので触れないことにしたのだった。
神父とリバスはまだ困惑していたようだが、神父は一度咳払いをして書類を取り出す。
「で、では最後に、二人のスキルを書類にまとめます。それを王都にあるギルドに提出すると、後日貴方たちの職業が書かれた書類が来ますので、その中から一つ選んでまた提出してください」
王都はここから一ヶ月ほど馬車で移動しなければならず、その書類が帰ってくるのは最低でも二ヶ月は待たなければならないようだった。
書類が届いて職業を決めた後は、それを持って一度王都のギルドに行かなければならず、そこで手続きを終えたら職場に案内され、そのまま仕事を始めることになるらしい。
その時に王都ではなく、他の場所に派遣される事もあるらしいが、メルとテールはそのような心配はないと神父は心の中で呟く。
テールは一つのスキルしか授からなかったとして、王都に必ず派遣されることになるだろう。
メルは多くのスキルを所持しているし、剣術と体術スキルを獲得している。
この二つは組み合わせが良く、冒険者ギルドに確実に引っ張られるだろうと神父は確信していた。
「では、改めてスキルを教えてください。メルさんから」
「剣術スキル、体術スキル、農民スキル、鑑定スキル、心理スキルです」
「……分かりました。ではテールさん」
「研ぎ師スキルです」
「……はい、では神託の儀式はこれで以上になります。お疲れ様でした」
書類を書き終えた神父は、二人に労いの言葉をかけたあと、書類を持って奥の部屋に入っていってしまった。
メルは授かったスキルに満足し、テールはスキルにこそ満足はできなかったが、神様から直接渡してくれたということと、あとに剣術スキルを貰って冒険者になれると教えて貰ったので満足していた。
ただ一人、リバスだけは難しい表情をしていたが、その様子に二人が気が付く事はなかった。
◆
白い空間に、二柱の神が居座っていた。
少年をこの部屋から見送った後しばらくの沈黙が続いたが、小柄なローブを着た女性が口を開いたことでその沈黙は破られる。
「ねぇ。ナイア????」
「…………」
「こっちを向きなさい」
「…………」
「コラ」
「はい」
巨大な本を両手で抱えて怯える様にしているナイアは、小柄な女性へと振り向いた。
確実に説教モードの口調だと気付いてしまったので、今からでもこの場所から逃げたいと心の中で叫んでいる。
「なな、なんでしょうか……カテルマリア様……」
「スキルをあとで渡すとはどういうことですか? そんなことは一度も行ったことがないはずですが」
「いや、あの、その……これはですね。神の尊厳……そう! 神の尊厳を守るために重要なことでありまして!」
「貴方にそんな尊厳があるとは微塵も思えませんが?」
「ヒエェ……」
明るく振舞って何とか怖さを誤魔化そうとしたが、淡々と説教口調で言葉を投げつけてくるカテルマリアに完全に怖気づいていた。
また数時間説教コースかと観念したが、今回はこれ以上の叱責は飛んでこなかった。
おや、と思って本から顔を覗かせると、小さくため息をしているカテルマリアの姿が目に入る。
今回ナイアが行った行為は決して褒められるものではなかったが、この六百年探し続けていた人材がようやく見つかったとしてカテルマリアも安心していたのだ。
上手く話をまとめてくれたナイアに今回ばかりは感謝している。
「……お手数をおかけしましたね」
「うぇ!? い、いや……とと、当然のことをしたまでです……」
「にしても、貴方もよく六百年も探し続けましたね」
「他にやることがないものですから……。それに、人間がスキルを手にした時の顔を見ると、私は嬉しくなりますし」
「人間らしくなりましたね」
「かもしれません」
怒られないことに安堵して、落ち着いた様子で語りだす。
この依頼は、カテルマリアからのものでナイアは六百年間ずっと才能のある者を探し続けてきたのだ。
その理由は、過去に救えなかった人間を救済するため。
これを成功させるには、まずテールが研ぎ師に夢中になるように仕向ける必要があった。
向上心がなければ、意味のなくなってしまうものだからである。
極めるには、その道を進み続けなければならない。
テールはこれから、様々な出会いと別れを繰り返すだろう。
別れの引き金を引くのは、テール。
このような運命を背負わせてしまったことを申し訳なく思いながら、カテルマリアは嘆息した。
「……研ぎ師。この世界で使えないスキルとされているということは……説明しなかったんですね」
「騙すようで申し訳なかったですが、やる気にする為には言えませんでしたから。ですが彼なら、不遇職とされている研ぎ師の力を最大限に引き出してくれることでしょう」
「その言葉を信じましょう。貴方のスキルを与える目は信じていますからね」
「目だけですか?」
「だけです」
「あたたた……」
カテルマリアの容赦のない言葉に頭を掻くしかない。
だがこの中で一番神らしくないのは自分だということは自負している。
そう思われても仕方ない事だ。
あと心配なのは剣術スキルをテールに与えた時、そちらの方にばかり集中しないかどうか、である。
これさえクリアすれば、彼は本当に優秀な研ぎ師になることだろう。
もしかしたら、世界が不遇職に対する考えを変えるいいきっかけになるかもしれない。
そんな淡い期待を抱きつつ、ナイアは本を開いた。
中の一枚の写真が動いており、それはリアルタイムで下界の様子を映し出してくれている。
きらりと光る美しい刃が写真の中に移り込んだ。
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