第103話 大渦潮(メイルシュトローム)
プス……
イーサンは勢いよく剣を振りかぶったが、何故か剣を止め……いや、違う。大王烏賊(クラーケン)の皮膚に刺さらなかっただけか?
「くっ……コイツまだ俺のことを警戒して……厄介な固有能力だべ──!」
バシンッ!
イーサンは大王烏賊(クラーケン)の足の一撃を受け、海へと叩き落された。
(一体何なんだ……?)
“錯覚か妄想でもしていたのでしょう……愚かな”
恐らく妄想とは、大王烏賊(クラーケン)にダメージを与えられないのは相手が自分の力を封じる能力があるからだみたいな妄想かな。
(さて、どうするか)
スピードを乗せた一撃で倒すつもりだったが、計画はパァだ。ミアのギフトもかなり使ってしまったし、どうしたらいいか……
“来ます!”
大王烏賊(クラーケン)が足で薙ぎ払おうと足を振りかぶる。さっきのイーサンみたいに俺を海へ叩き落とすつもりだな……
ブンッ!
しなりながら迫る大王烏賊(クラーケン)の足……モリを投げるには近すぎる。なら……
ズバッ!
反射的に聖剣を振る。すると、何と大王烏賊(クラーケン)の足が真っ二つに切れた!
「ぐぺっ!」
足が海に落ちると蛙が潰れたような声がするが、気に留めている余裕はない。大王烏賊(クラーケン)の足はまだまだ向かってきているのだ!
ブンッ! ズバッ! 「プゲッ!」
ブンッ! ズバッ! 「はぎャッ!」
ブンッ! ズバッ! 「ぎゃぃん!」
ブンッ! ズバッ! 「がぺぺ!」
攻撃が止んだ時には辺りは大王烏賊(クラーケン)の足だらけ。ん……あれは……イーサンとか言う奴だ。何であんなにボロボロになってるんだ?
“運悪くマスターが切り落とした大王烏賊(クラーケン)の足の下敷きになったんでしょう”
なんかそれは申し訳ないな……ってミア、その姿は!?
“はい、マスターの助けになれるようにと”
何とミアの刀身がまるで物干し竿のよう──いやもっと長いか──に伸びていたのだ。
(楽に大王烏賊(クラーケン)の足を切れたのはミアのおかげだな)
“滅相もありません! マスターのパラメーターがあるからこそ今の私を振り回せるんです!”
そ、そうなのか?
“それに大王烏賊(クラーケン)の皮には独特の弾力があって、相当な剣の腕がないと刃を通すことは出来ません。まるでバターのように易々と切り裂いてしまうマスターは流石です!”
あ、そうなのか。確かにちょっと慣れはいるかもな。
(あ、だからアイツの剣はあまり刺さらなかったのか)
波間に浮かんだイーサンは完全にグロッキー状態。浮いてるからまあ命の危険はないか。
「№§€¢©®!」
足の大半を失った大王烏賊(クラーケン)が、奇声を発しながら俺を睨みつける。怒り心頭と言ったところか。
ゴォォォ!
残った足で攻撃してくるのかと思いきや、大王烏賊(クラーケン)は足を海中から出さずひたすら俺を睨みつけている。コイツ一体……
“マスター! 大王烏賊(クラーケン)は大渦潮(メイルシュトローム)で全てを海中に引きずりこむつもりです!”
なっ……
周りを見れば、五番艦は既にボロボロ。俺達の乗ってきた一番艦はそんな五番艦の乗組員の救助に当たっていて、とても状況の変化に対応出来る感じではない。
(早く止めを指すしたない!)
俺は素早く移動し、眉間に聖剣を突き刺した!
「№§£€¢$#@&‰!」
斬撃と共にミアのギフトが炸裂し、大王烏賊(クラーケン)が断末魔の声を上げる。それと同時に辺りの海水が渦を巻き始めた!
(これがミアの言ってたやつだな……)
だが、規模はかなり小さい。これなら一番艦と五番艦は影響を受けないだろう。
ゴゴゴゴ……
渦が速度を増していく! 間もなく大渦潮(メイルシュトローム)が完成しそうだな。
“マスター! 海水と私達の間に境界を設定します”
(たの──待ってくれ、ミア!)
イーサンが渦に呑まれている! あのままでは海底行きだ!
(先に彼を!)
既に俺の体も渦に囚われている。だが、イーサンの方が渦の中心にかなり近い。まだ、俺には余裕があるはずだ。
(あのまま海底に引きずり込まれたらタイラーさんが悲しむよな)
俺個人としては良い印象も悪い印象もない。だが、色々とお世話になったタイラーさんが悲しむのは出来たら見たくない。
“でも──いえ、分かりました!”
ミアが〔ディバイド〕で境界を設定すると、イーサンの体が海中から五、六メートル浮いた。
“急いで境界を───ッ!”
何だ!? 急に渦が加速した!
“アアアッ! マスター!”
圧倒的なスピードで回る渦の中で為す術もない。次第に周りから音が消え、色が消え、そして………
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