第102話 念話

(アリステッド男爵<フェイ>視点)


 俺はリィナの助言通りにバリスタで撃つためのモリを数本背負うと、船先に立った。


(ミア、準備はいいか?)


“はい。では念話の強度を上げます”


 普段、ミアとの念話はごく表面的なもので、今の状況に対して今考えた思考に限られている。だから、今の状況をミアがどう感じているかとか、本当はどうしたいと思っているか等といったことは分からない。だが、念話の強度を上げればこうしたことも伝わってしまうらしい。


(まっ、大丈夫だろ、ミアとなら)


 ミアは俺には勿体のないくらい凄い聖剣だ。それに努力家だし、純粋で可愛らしい。まあ、それ故に思い詰め過ぎるところもあるのだが……


(まあ、そんなとこも可愛いよな)


“っ!!!”


 な、何だ! 何か今すぐこの場を離れたい、だけど不思議と悪くないような、不可思議な衝動が!?


“すみません、マスター。動揺しました”


 動揺? あ、さっきの筒抜けだった?


“いえ……光栄ですが、私こそ……いえ、失礼しました”


 何だが、凄いドキドキ感が伝わってくる。どうしたんだ?


“すみません……その”


 何か心の中を覗き見ているみたいで申し訳ないな……ミアも女の子だし、色々あるだろうに。


(まあ、俺はミアに知られて困ることはないけどな)


 だって、ミアと俺は一心同体なん──


“っ!!!!”


 わっ……どうした?


“照れとるだけじゃ。支障ない”


(げ、ネアか!)


 ズン!


 次の瞬間、ネアの気配は消え去った。


“申し訳ありません、マスター。でも……不意打ちは駄目だとリィナ姉様も”


(あ、ああ、悪い)


 不意打ちってなんだ?


“と、とにかく! 今は大王烏賊(クラーケン)に集中しましょう! いかがですか、マスター!?”


(お、おう! 分かった!)


 確かにこんな調子じゃ戦いどころじゃないな。


“では……行きましょう、マスター!”


(ああ!)


 オレはミアの言葉と共に舳先から飛び降りた!


“境界設定……私とマスターの………”


 落下はすぐ止まり、足元に何か硬い感触を感じる。そして、それには傾斜がついており、俺は滑るように大王烏賊(クラーケン)へと向かった。


(ミアの思考が読めるから混乱しないな)


 普通はいきなり滑り出したら慌てるだろうと思うが、今の俺はミアと思考を共有できる。だから、まるで自分が考えたことかのようにミアのプランを理解できるのだ。


“来ましたね”


 急速に迫る俺達に向けて大王烏賊(クラーケン)は五番艦を襲っていた足を戻し、俺達に振り下ろす。


(モリは……不要か)


 こういうときのためにモリを持ってきたのだが、どうやら不要らしいことを理解し、それをミアと共有する。それはつまり……


「〔風刃〕!」「〔七光壁〕!」


 流石だな、二人共!  


“大王烏賊(クラーケン)は船を壊される危険があるというのが一番の脅威なのですが、リィナ姉様やレイアさんがいたら問題なしですね”


 全く規格外過ぎるな、二人共!


“モリを投げて大王烏賊(クラーケン)の足を吹き飛ばすマスターの方が規格外ですよ”


(そうか?)


 そんなやりとりをしながらも俺はスピードを落とさずにそのまま大王烏賊(クラーケン)に突進する。


 スカッ! スカッ! スカッ!


 足が再び襲ってくるが、加速した俺達には追いつけない。


“もう影響が……急ぎましょう!”


 大王烏賊(クラーケン)の足が頬をかすめた時にミアがそう呟く。


(影響……そうか、俺は今……)


 念話の強度を上げた時の副作用、それは自我の混乱だ。だから、普段は最低限のレベルにしているのだ。


(気をしっかり持たないと!)


 だが、大王烏賊(クラーケン)まではあと少しだ!


“眉間を狙って下さい。そこから〔ディバイド〕で両断します”


(分かった!)


 いよいよ終点だ! 俺は大王烏賊(クラーケン)の気味悪い瞳をみながら飛んだ! 


(落下の衝撃も加えて眉間に突きつけ──)


 だが、その瞬間、信じられないことが起こった!


「ガハハハ! 大王烏賊(クラーケン)は俺が貰った!」


 何とイーサンが何処からともなく現れ、大王烏賊(クラーケン)の眉間に剣を突きつけようとしているのだ!


(イーサンを巻き込んでしまう!)


 俺は急遽足場を作り、大王烏賊(クラーケン)の頭上に着地した。


(イタタタ……)


 急に足場を作ったので受け身が不十分だったか。かなりスピードがついていたこともあるが。


“マ、マスター、大丈夫ですか?”


(ミアこそ大丈夫か? 痛みも共有しちゃうんだろ?)


“……大丈夫です、ありがとうございます”  


 こんなやり取りをしている間にもイーサンは大王烏賊(クラーケン)の頭をよじ登り……


「止めだ、大王烏賊(クラーケン)!」


 イーサンは眉間に剣を差し込んだ!

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