第一話 『変身術』
『『変身術』について知りたい?』
質問すると姉は俺の質問を繰り返した。
『かなちゃん、『変身術』に興味があるの?』
「興味っていうか」
俺はスマホを持ち直して言った。
「ただ、知らないから教えて欲しいだけなんだけど」
『ふーん』
「で、どうなの?」
『別にいいけれど』
姉はそう即答した。
『でも、何について知りたいの? 答えられる範囲でなら答えるけれど、私に訊くより、リアやさつきに訊いた方が、詳しく教えてくれると思うけれど?』
「うーん……魔術師は自分が扱う魔術について話したがらないって聞いたから、訊いてないんだよね……姉ちゃんに訊いた方がたぶん、説明わかりやすいし」
『……なるほど』
姉は納得した声を出す。
俺がわざわざ電話を掛けて訊いた理由に、納得がいったらしい。
ダムッ――と目の前でボールが跳ねた。
『じゃあ何から説明しようかしら? 性能? 歴史? それともやっぱり弱点から?』
「……うーん」
『ちなみに正式名称は『多重装甲型駆動結界』よ』
「何。その漢字だらけの正式名称」
言われてもよくわからなかったので、適当に説明するように俺は頼んだ。
『『変身術』――正式名称『多重装甲型駆動結界』』
姉は言った。
『かなちゃんは魔術について知らないことが多いだろうから、『変身術』の歴史については省くけれど、まあ、正式名称に結界って付いていることからわかるように、その本質は結界なのよ』
「結界」
『そう。結界……言っといてなんだけれど、結界って何かわかる?』
「んー……まあなんとなく」
キュッ――とバッシュで止まる音がした。
そのあと、カシュッ――と、ボールがネットをくぐる間抜けな音がする。
「漫画やアニメの知識だけど――バリアーみたいなものでしょ?」
『うーん……近いけど違うわね』
まあイメージ的には合ってるからいいけれど――と姉は言った。
的確ではないが、俺の想像は合っているようだ。
『ちゃんと説明したら違うんだけれど、混乱しちゃうかもしれないからこのまま話を進めるわね――『変身術』の本質は結界。『変身』と違って一時的に別の存在に昇華しているんじゃなくて、『外から人体を強化する魔術』なのよ』
「……鎧ってことでいいんだよね?」
『それも近いけど違うわね』
姉は訂正した。
『鎧だったら『外から人体を守るだけ』でしょ? 確かに『変身術』にはそういう効果もあるけれど、『外側から人体を強化』……つまり筋力や肉体の耐久力を強化したり、人の肉体に熱さや寒さ、毒、呪いに耐性を振ったりすることができる。それが『変身術』の特徴ね』
ここまで付いてこれてる? ――と姉は確認してくる――正直わからない――と俺は返した。
『うーん……そうね――じゃあかなちゃんの身体で説明しましょうか』
「俺?」
『そう――かなちゃんの吸血鬼の身体』
ダムダムッ――とまたもやボールが跳ねる音がした。
『かなちゃんの身体は、『
「まあ……そうだね」
『けれど、今は違うでしょ? 三つの能力が使える以外に、通常の状態でも普通の人間より、いくらか身体の強度が上がっているはず――これって言ってしまえば、『吸血鬼化したことによって、かなちゃんの身体は内側から強化された』ってことなのよ』
「……ああ、そういうこと?」
言いたいことがわかった。
『わかった? そう。つまり、かなちゃんに限らず吸血鬼は『内側から身体の強化』をしているのに対して、『変身術』を習得している殲鬼師は『外側から身体の強化』をしているってこと――人為的な吸血鬼化、と勘違いされる場合もあるけれど、そうじゃなくて、『人を人のまま、身体を吸血鬼と同等の戦闘能力値まで引き上げる魔術』が『変身術』なの』
姉は言った。
『だから高温耐性とか、低温耐性とか、さっき言ったように毒とか呪いの耐性とか、空中浮遊とか水中を高速移動するとか、とにかく色んな能力を付与、強化をできるのが『変身術』の特徴なの。しかも割と自由に。制限なく……術者の力量さえあれば、無限に――ね』
「なるほど」
薄々気付いていたが、やはり『変身術』は割と反則級の魔術だった。
知り合いの二人の殲鬼師に言ったら、『あんたの方が反則でしょ』とか言われそうだが、『ただの人間でも習得できる』ことを考えたら、俺は『変身術』の方が、俺が持つ能力よりも価値があると思う。
『まあ色んな能力を付与できると言っても、吸血鬼レベルの再生能力を付与することはできないんだけれど……技術的に。人類が扱える魔術に、そこまで再生に特化した魔術は存在しないし』
「そうなの?」
『そう。だから『変身術』は代わりに『防御力』がものすごく発展しているわね。……まあ、『誰でも吸血鬼と同等の戦闘能力値にする』ために生み出された魔術だから、そこに特化しているのが当たり前と言ったら当たり前なのだけれど』
一応、魔力が持つ限りは、核にも耐える防御力を持つと言われているわ――と姉は言った。
ダムッ。
ダムダムッ。
キュッ。
バンッ。
カシュッ。
よっしゃー……と、少し離れたところから声が聞こえる。
「核か……そりゃ凄いな」
『理論上はね? 実際は色々と問題があるのだけれど……』
と、姉はそこまで言ったところで、一旦黙った。
まるで耳を澄ませるように。
その間に――ドンッ。カシュッ。キュッ。ダムダムッ。へいパース……など、色んな音がする。
そのあと姉が訊いた。
『かなちゃん、今どこにいるの? なんか、色んな音がするけれど』
「ん? ああ、体育館だよ」
俺は言った。
「今、ゆーき達とバスケしてるからさ」
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