#54 獅子を継ぐもの

 今日も平穏なライヒアラ騎操士学園。

 相変わらず銀鳳騎士団ぎんおうきしだんに占拠されっぱなしの騎操士学科の工房に、元気のいい声が響く。


「エルくーん!! いい加減におりてきなよー!!」


 アデルトルート・オルターが見上げ、呼びかけているのは工房の一角に安置された一機の幻晶騎士シルエットナイトだ。

 明らかに他の機体とは出自の異なる、独特な意匠を持った機体。意匠のみならず、背に備わった大型魔力転換炉ベヘモス・ハートと、そこから生えた四本の腕がそれを決定的に唯一無二の存在たらしめている。

 銀鳳騎士団長専用機“イカルガ”である。


「今はイカルガに乗る系のお仕事が忙しいので、却下です」


 彼女の呼びかけに応じて、イカルガの操縦席がある胸の辺りから至福に満ちた可愛らしい声が返ってきた。

 専用機であるという以前にあまりにも特殊にすぎる構成から、イカルガに乗れる者はこの世に一人しか居ない。

 それは当然、銀鳳騎士団長であるエルネスティ・エチェバルリアである、のだが。


「うわー……やっぱりダメね……」


 イカルガを完成させてからこっち、とみに最近のエルネスティは完全に駄目な子になっていた。

 日がな一日イカルガを眺めている、気付けば何度もイカルガの装甲を拭き掃除している、さらには頬ずりしたり操縦席に立て篭もって降りてこなくなったりと、彼は片時もイカルガから離れようとしなくなっていたのだ。

 念願かなってのお手製専用機とはいえ、ものには限度というものがある。


「そっちがそうなら、私にも考えがあるわ!」


 差し迫った事情はないとはいえ、かりにも騎士団の長としてあるまじき醜態を見るに見かねて、ついに銀鳳騎士団の勇士が立ち上がった。


「というわけで、これよりエル君を社会復帰させよう大作戦会議を開催します!」


 腕を組み、仁王立ちのアデルトルートが黒板を叩く。

 会議室に集まった各中隊長(エドガーとディー)、そして親方ダーヴィドは今ひとつ乗り気でない中途半端なやる気加減のまま座席に身を沈め、適当な相槌を打っていた。

 委細構わず、アディは気勢をあげる。


「最近のエル君はちょっと目に余ります! あんまり相手してくれないし! そろそろ私たちがなんとかするべき時なのよ!」

「ふむ、多少気になる台詞が混じっていたが、まぁ確かにひどいな。それで具体的な手段はあるのか?」

「ええ、まずはこれ! イカルガ相手に模擬戦を挑んで、エル君を動かす!」

「イカルガ相手は死人が出るな、却下」

「そもそも授業があったら出てくるんじゃないのかい?」

「それもイカルガから出たくないとサボっていたな」

「いや、それは放っておいていいものなのかい?」

「じゃああれだ嬢ちゃんよ、おめぇが坊主を誘って遊びにいきゃあいいじゃねぇかよ」

「うん! 誘ってみたけどイカルガから離れたくないって断られたわ!」

「……こいつは重症だな」


 なんと強敵であることか。もはや万策尽きたかと思われたその時、それまで黙っていたアーキッドがゆっくりと手を挙げた。

 全員の注目を浴びながら、彼は常よりもさらに投げやりな雰囲気で口を開く。


「新しい機体の製作を、頼んだらいいんじゃねー?」


 全員が、顔を見合わせていた。




 フレメヴィーラ王国の第十代国王であったアンブロシウスが、彼の息子リオタムスに王位を譲ってより一ヶ月ほどの時間が経っていた。

 この頃になると王位継承に伴う様々な催しも一通りが終わりを告げ、王都カンカネンも常の穏やかな姿を取り戻している。


 にぎやかな雑踏、多くの人が行き交う王都カンカネンの中央通りに甲高い鐘の音が鳴り響く。その出所は鐘を鳴らしながら進む一騎の騎馬だ。

 その騒々しい音を聞きつけると、それまで大通りに溢れていた人々は素早く端へと避けて道を空け始めた。

 さきほどの騎馬は王都に幻晶騎士を入れるための先触れである。全高一〇mもの巨人兵器である幻晶騎士を歩かせるためには、十分に幅のある通りを使う必要がある。まさにこの中央通りのような、だ。

 同時にそのような通りは住民たちも利用しているものである。そのため乗り入れにはこのように先触れを出すのが慣わしであった。

 ちなみに中央通りを使うのは、民へと騎士の姿を示す見世物的な意味合いも含まれていたりする。


 先触れの騎馬からしばしの間を空け、現れたのは巨大な半人半馬の姿を持つ、ツェンドリンブルであった。

 当初はその異様な姿に慄いていた王都の住民たちも、見慣れてきたことや実際の活躍を聞きつけたこともあり今ではすっかりと馴染んでいる。

 王都に乗り入れるということで武装こそ持っていないが、普通の幻晶騎士よりもさらに巨大な人馬がのし歩く姿を王都の住民が手を振って見送ってゆく。


 堂々と大通りを通り抜け、王城シュレベール城へと辿り着いたツェンドリンブルはそのまま王城に新設された人馬騎士のための駐機場へと誘導されていた。

 機体に駐機姿勢をとらせたところで、幻晶甲冑シルエットギアを着た王城付きの騎士たちが足場を持ってやってくる。ツェンドリンブルの搭乗口は馬体の背中部分にあるため、乗り降りには足場を用いる必要があるのだ。


「そぉーれ!!」


 しかし彼らが辿り着く前に、気合一発、騎操士ナイトランナーが身を乗り出しざま何かを投げ出した。

 それは明らかに人間だ。ツェンドリンブルの背中から落ちてくるそれに、足場を用意していた騎士たちがぎょっとして立ち止まる。


「なんだか今日はいつもに増して乱暴ですね……よっと」


 しかし投げ捨てられたはずの人影は空中で軽やかに回転すると、腰から奇妙な形状の杖を抜き放った。すぐに大気が渦巻き、それを集めてクッションを作ると柔らかく着地していた。

 そんな不満げな表情のエルネスティと、それを追って降りてきたアデルトルートの姿を見て、騎士たちは胸をなでおろしていた。ああ、彼らならば投げ捨てられようと心配することはなかった。

 少し変な方向でエルたちは有名人である。騎士たちも手慣れたもので、すぐに立ち直ると城内へと案内を始めるのだった。



「銀鳳騎士団団長エルネスティ・エチェバルリア、召喚に応じ馳せ参じてございます」

「同じく団長補佐アデルトルート・オルター、まいりましたー」


 王城に入ったエルたちは、謁見の間とは別の場所へと案内されていた。彼を呼び出したのが現王リオタムスではなく、先王アンブロシウスであるからだ。


「うむ、よく来たなエルネスティ、アデルトルートよ。まずは楽にするがよい」


 一礼して席に着くエルとアディ。そんな彼らの頭上から影が射す。首を上げてみれば、二人の前には長身の男性が腕を組み仁王立ちで立ちはだかっていた。

 筋肉質で剛健な体躯が威圧感を撒き散らし、荒々しく撥ねた髪はまるで獅子のごとき印象を醸し出している。エルはふと、目の前の男性と後ろに座るアンブロシウスに、どこか似た雰囲気を感じ取っていた。


「……お前が銀鳳騎士団の長、エルネスティ・エチェバルリアか。噂には聞いていたが、本当に小さいのだな!」

「ええまぁ、左様にございますエムリス殿下」


 そう、フレメヴィーラ王国第二王子、エムリス・イェイエル・フレメヴィーラは日に焼けた顔に愉快げな笑みを浮かべながらのたもうた。

 小柄なエルからすると、エムリスと視線を合わせようと思えば大きく見上げるどころではない。もはや仰け反ってみる必要があるほどだ。

 さすがに見かねたアンブロシウスが苦笑する。


「エムリスよ、その辺に座れ。そのままでは話しにくかろう」


 先王アンブロシウスには三人の子供がいる。内訳は男が二人と女が一人だ。そのうち長男である現王リオタムスが即位した時点で、その息子たち(アンブロシウスの孫)が直系の王子となる。

 つまりリオタムスの第二子であるエムリスは、現第二王位継承者となるわけである。

 そんな彼だったが、ほんの一ヶ月と少しの前までこの国にいなかった。


「殿下は先日までクシェペルカ王国に留学に出ていたと聞き及んでおりましたが、お戻りになられていたのですね」

「親父が位を継ぐからには、俺も国許に戻らざるをえんからな」


 エルも、彼が外国への留学から帰ってきているという話は小耳に挟んでいた。

 これまでは王位の継承に関する様々と、エルの側にもイカルガ開発の様々が合わさって顔を合わす機会がなかった。それが、今ここで初顔合わせとなったのだ。


「しかし俺が少し国を空けている間に新しい幻晶騎士が出来上がっていようとはな! しかもあの最新鋭機、カルディトーレといったか!? 素晴らしいな! 俺も少し動かしたが力強くも繊細で、さすがは我が国の騎士だけはある!」

「ええ、ええ、僕の銀鳳騎士団と国機研ラボ謹製の、傑作ですから」

「だろうな、やるじゃないか!」


 微妙に得意げな様子のエルに相槌を打つと、エムリスははたとひざを叩く。


「そうだ、あの馬モドキがあったな! 面白そうだ、気に入ったぞ。今度貸してくれ、あれで遠駆けに出てみたい」

「ええっ!? えーと、えー、あ、ツェンちゃんはですね、乗りこなすのがとても難しいのでそんなに簡単に貸し出せないといいますか、その」

「そんなもの乗れば何とかなる。だいたい馬だってそうだったぞ、ようは気合だ!」

「えぇー……」

「馬と同じというわけでもないですし、気合だけでどうにかなるわけでは……」


 何故かアンブロシウスは積極的に会話には参加せず、先ほどからエムリスばかりが喋っている。

 それは孫を温かく見守っているというふうでは決してなく、どちらかというと勢いに溢れたエムリスにエルがどんな反応をするかを見ているようである。

 その証拠に、アンブロシウスの表情はなんとも楽しげに緩んでいる。変な方向に。

 それを視界の端に収めつつ、エルはエムリスの話に適当に合わせながら、アディはツェンドリンブルを取られないか冷や冷やしながら、エムリスは勢い尽きぬままに話は弾んでいた。


「それはそれとしまして、本日は何か用向きがあって呼ばれたのだとお聞きしましたが」


 そうしていくらか頃合をみたところで、エルが話を切り上げる。

 わりと放って置くとエムリスはいつまでも話していそうだったからだ。


「おっと、そうであったな。本日おぬしを呼んだのは他でもない、一つわしのための幻晶騎士を作ってもらおうと思うてな」


 やっと本題を切り出したアンブロシウスの台詞に、エルは首を傾げていた。


「しかし、先王陛下は既に“レーデス・オル・ヴィーラ”という素晴らしい機体をお持ちのはずでは」

「ちと違うのぅ、あれはあくまで“国王騎”。王のものであるがゆえに、リオタムスに位を譲った今のわしが勝手に持ち出すわけにもいかんのだ。そこで新たに用意するのじゃが、ならばおぬしに作らせるのが良いと思ってのぅ」


 隠居生活も退屈だしな、などとつぶやくアンブロシウスに、エルは内心でどうやって面白くするつもりか聞いてみたい誘惑に駆られたが、寸でのところで思いとどまっていた。


「承知いたしました。そういうことでしたら尽力させていただきます」

「そのついでに、俺の分も作ってもらおうか! じいちゃんだけ作るなんてずるいぜ」

「そういうわけじゃな、エルネスティよ。二つ用意できるか」

「御意、一つが二つでも問題はありません。それで、どのような機体をご所望でしょうか? 可能な限りご希望に沿ったものを作りますが」


 その言葉にアンブロシウスが口を開きかけるが、それに先んじてエムリスが動く。彼はダン、と椅子を蹴立てて勢いよく立ち上がり。


「そう、まず重要なのは“力”だ」


 と、それこそ力いっぱい告げた。

 エルは腰につけたポーチから小さなメモと、ペンとインク壷を取り出す。どこでも思い付きをメモできるようにと作った携帯用だ。

 カリカリとペンを走らせている間にもエムリスは指折り条件を挙げてゆく。


「そして次に重要なのが“力”だ!」


 まだエルは生真面目に頷きながらメモを取り続けている。


「さらに最後に重要なのが“力”だっ!!」


 エルはメモ帳にでかでかとただ一言“脳筋”とだけ書いていた。メモ帳のページをめくりながら問いかける。


「ええ、それはもうとてもすごく非常によくわかりました。あ、それと外見のほうにご注文はありますか?」

「そうだな……強そうな……あれだ、じいちゃんみたいに“獅子”を名乗れるような、すごく強そうなのを頼んだ!!」


 エルはメモの“脳筋”に花丸をつけた。そのうえなんと二重丸だ、実に力強さに溢れている。


「そのあたりはぬしに任す。まぁよほどかぶいておらぬ限りは好きにして良いぞ」

「承りました。先王陛下と殿下に相応しき機体をご用意して見せましょう」


 横で聞いていたアディすら「ちょっとそれはどうなのよ」と言い出しそうになってギリギリで思いとどまったほどの素敵さに溢れた注文を受け、それでもエルはにこりと、楽しそうに微笑むのだった。



 そんなやり取りがあってからおよそ一ヵ月後、王城に荷馬車キャリッジを牽いたツェンドリンブルが現れる。

 後方の荷馬車に載せられているのは、覆い布に隠された二機の巨人。アンブロシウスとエムリスのために用意された専用機だ。


 到着を聞きつけるやいなや完成をいまや遅しと待ち構えていたエムリスが早速現れ、アンブロシウスすら興味深げな様子を隠しもせず後に続いてやってきた。

 観客は彼らだけではない。シュレベール城を警護する近衛騎士たちもやってきては、荷物へと好奇の視線を注いでいる。

 彼ら全員の視線を受け止めながら、荷馬車にかけられた覆い布が取り払われてゆく。徐々に露わとなる二機の幻晶騎士。

 それらは日の光の下に出るなり、周囲へと燦然たる輝きを放った。


「これはまた……遊んだのぅ、エルネスティ」


 アンブロシウスが努めて笑いを押し殺しながら呟く。彼の言葉の通り、その二機の幻晶騎士は実に仰々しい意匠を備えていた。

 ――片方が持つのは獅子の貌。

 胸の装甲を含む胴体周辺が獅子の顔を模しており、装甲もたてがみを意識したのであろう、うねるような形状をしている。さらに各所が金色に仕上げられており、目立つことこの上ない。

 ――もう片方が持つのは虎の貌。

 こちらは胴体周辺が虎の顔面を模した意匠となっている。それ以外は簡素なものであるが、全体を銀仕立てとした上に黒い縞を入れてあるため派手さでは金色に引けをとらない。

 強烈な外観の二機の登場に絶句する周囲の人間を前に、満足げな様子のエルネスティが大仰な手振りで案内を始めていた。


「いかがでしょう先王陛下、エムリス殿下。これが“金獅子ゴルドリーオ”と“銀虎ジルバティーガ”にございます。殿下のご注文に従いまして両機とも力に優れており、さらに守りにおいても極めて高い能力をもっております」


 先ほどからエムリスは口を開いたまま石像のように固まっている。アンブロシウスは漸う髭を撫でさすると、問いかけた。


「ほう、力はまぁそこの馬鹿孫エムリスがわめいておったが、守りと? それはまたどうしてか」

「それは僕の判断ですが……お二方とも大事な御身にございますので」

「なるほどな。よい、国王騎レーデスもどちらかといえば守りの強い機体であったしな、それも将の習いというものよ」


 満足げに頷くアンブロシウスの横で、遅まきながらエムリスが正気へと帰還した。彼は筋肉の踊る腕を振り上げ、二機の獣へと吠え掛かる。


「うぉぉぉう、こりゃあ予想以上だ!! ははは、いいじゃないか銀の長! 気に入ったぜ!」


 子供のようにはしゃぐエムリスは満面の笑みで片方を指差した。同時に、両機を見比べていたアンブロシウスがふむ、と頷いて片方を指差した。


「じいちゃん、俺こっちの金獅子が……」

「ではエムリスよ、わしが金獅子を……」


 二人は同時に言葉を止めて見詰め合う。張り詰めたような沈黙が両者の間に落ちた。


「じいちゃん……ちいとばかし歳を考えてくれよ。こんなに派手な機体は、全然にあってないぜ?」

「何を言うかエムリス。おぬしなどまだまだ経験が浅く獅子とうそぶくには未熟よ。しかるにわしは元“獅子王”であるからの。まさにあつらえたかのごとしであろう」


 見えない火花が二人の間に飛び散っていた。互いに一歩も譲ることなく、気迫が空気を揺るがす。

 思いのほか本気でにらみ合う二人に、周りの近衛騎士はおろおろと戸惑うばかりで仲裁など望むべくもなかった。


「そうだじいちゃん、一つ稽古をつけてもらえるか? 向こうでの修行の成果ってやつを、見せてやるからよ」

「ほう、己が力でもぎ取ると申すか。その意気や良し。訓練場へゆくぞ、誰ぞ剣を持て!」


 余人が止める暇もなく、二人はものすごい速度で訓練場へと突撃してゆく。

 後には唖然とした表情のエルネスティと、近衛騎士たちが取り残されていた。


「殿下はアンブロシウス様似と聞きますが。生き写し過ぎでしょう」


 間違いなく、それはその場にいる全員に一致した感想だった。




 しばし後、場所は王城に併設された近衛騎士団用の訓練場。

 赤茶けた地面の上を熱気を孕んだ風が吹き抜けてゆくなか、二機のカルディトーレがそれぞれの得物を手に睨みあっていた。


「剣を持てといいながら、どうして幻晶騎士が用意されているのでしょう……?」


 その二機に乗っているのは当然、アンブロシウスとエムリスである。

 先王と王子が模擬試合をおこなうという話はすぐさま城中を駆け巡り、どこをどう間違ったのかあれよあれよという間に幻晶騎士が用意されていたのだ。

 さすがのエルにも良くわからない素早さだった。


「じいちゃん……悪いが、手加減はできないぜ」

「ぬかせ。そもそもだ、ぬしはあれほどよく努めよといわれておきながら、あいも変わらず放蕩生活を送っておるようであるな……一度わしが直々に引導を渡してくれよう! 覚悟せい」

「先王陛下ー、なんだか目的がずれてきてますよー」


 場違いに暢気なエルの声も、熱くなった二人に届いているとは思えない。

 幻晶騎士は機械だが、意外なほどに騎操士の心情を表すものだ。操縦席にいる二人の様子はうかがえずとも、快調に駆動音を響かせる両機を見る限りなかなかに愉快げな様子に猛っているのであろう。

 そんな音の高まりが頂点に達したとき、喇叭ラッパの音が訓練場を駆け抜ける。始まりの合図を受けて、両機はともに駆け出した。


 いままさに成長の階段を駆け上る若獅子と、やや衰えが見えるとはいえ磨き上げられた技を持つ老獅子。

 エムリスは勢いと力を武器に、堂々たる姿勢をもって真正面から斬りこんでゆく。アンブロシウスの技は冴え渡り、時にいなし、時に押し返しながらしかし一歩も退かずにそれを迎え撃つ。

 巨人の歩みが地を揺らし、金属製の巨大な武器がぶつかり合うたびに衝撃が鼓膜を揺らす。互いに温存など考えていないかのような勢いだ。


 共に獅子でありながら違った形を持つ二人の戦い。最初は互角であるかのように思われたが、やがてはアンブロシウスの優勢へと傾いてゆく。

 アンブロシウス機が操るのは槍だ。幻晶騎士の全高を越える長さに、訓練用に刃を潰された穂先が取り付けられている。

 生身の戦いにおいては剣で槍と戦うには相手の三倍の技量が必要である、などともいわれる。人の動きの延長上にある幻晶騎士においても基本は同じこと。

 足捌き、腕の動き、さらには槍を握る位置を素早く調整することによって、アンブロシウス機の槍の間合いは自在に変化する。剣を操るエムリス機は翻弄されてばかりだ。

 今もエムリス機がその間合いを攻略すべく斬りかかっていったが、柄を用いた打ち払いに退けられている。

 エムリス機の姿勢が泳いだ隙に容赦のない突きが迫ってゆく。エムリス機は身を捩り、装甲の厚い部分で受けることで突きを弾いた。

 だがその反動を利用したアンブロシウスが素早く間合いを離し、エムリスは反撃を封じられる。すぐさま、ぐるりと槍を回してアンブロシウス機が容赦のない突きの嵐を放った。さながら歩兵団の槍衾のごとく圧倒的な勢いで面を形成する攻撃に、エムリス機はたまらず防戦に回る。


「さすがじいちゃん! 相変わらずスゲェ腕前だ!!」

「王たる者の嗜みである」

「違うと思います」


 離れて観戦しているエルのツッコみは彼らに届かないが、ツッコまずにはいられなかった。


「とはいえ先王陛下の槍捌きは驚異的ですね。あの方、本当にもうすぐ六〇歳なのでしょうか」

「先王陛下は将であられた時にも、なんというか前に出るのが好きなお方だったからな。兵に混じって槍を使ったのが始まりと聞いているが……このお歳でいまだ健在であることを思うと、当時はどれほどのものだったのか」

「国に双りと無い腕前だったのではないでしょうか」


 エル以外にも、観客席には多くの近衛騎士たちが詰め掛けている。彼らは両者の打ち合いの激しさに思わず唸っていた。

 いかな“騎士の国”だからといって王族が直接強くある必要などないが、二人の実力は並みの騎士を上回るほどのものだ。

 特にアンブロシウスはかつて国中に武を轟かせた“獅子王”であったとはいえ、この歳になってもいまだ実力を保っているのは驚異というほかない。

 さらにはその血を濃く受け継いだ孫は、身から溢れ出る力を勢いに変えて挑みかかっている。

 自らが戴く主が見せる堂々たる戦いぶりは、彼らからの尊敬の念をより深くしていたのだ。


 近衛騎士がそうして心服している間にも、戦闘はいっそう白熱した空気に包まれていた。

 完全に相手に間合いを握られたエムリス機は思うように攻撃に移れない。彼も決して弱いわけではないのだが、武器の相性と年季の差がもろに出た恰好である。


「動きは中々じゃ、しかしまだまだ踏み込みが甘い。一刀たりともわしに届いてはおらぬぞ」

「じいちゃんこそ、息が上がりはじめてるぜ! 歳には勝てないんじゃないか!?」

「吠えるのぅ! そら、足元が疎かになっておるぞ!!」


 おもむろに、アンブロシウス機が背面武装バックウェポンを起動して法弾を放つ。

 訓練用の威力が低いものであるとはいえ、足元を揺らす一撃にエムリス機が怯んだ。そこへと、容赦なく槍が追撃をかける。


「まだまだぁっ!!」


 この攻撃は避けれない。直感的にそれを悟ったエムリス機が驚くべき行動に出た。

 崩れたバランスを逆手に取り、ショルダータックルをかけるような体勢で無理矢理前進したのだ。装甲の表面をガリガリと火花を散らしながら穂先が滑り、エムリス機は槍の間合いの内側へと踏み込んでゆく。

 さらにエムリス機は、今しがたいなした槍の柄をがっちりと抱え込んだ。自由に振るわれるからこその変幻自在。ならば動きを止めればよいのである。


「これでどうだっ!!」

「言うておろう……」


 これで剣の間合いに入ったエムリス機が有利だ――そう考えたのは当のエムリスだけではないだろう。

 そんな、全員の考えを蹴り飛ばしてアンブロシウス機は一瞬の躊躇もなく“槍を手放した”。そうして自由になった彼はむしろ前進してゆく。

 剣よりもさらに内側の間合いへ、仕掛けた策を逆手に取られたエムリスがぎょっとして行動に迷いを見せた。

 瞬間、アンブロシウス機が沈み込んでゆく。スライディングをかけるような姿勢で、電光石火の脚払いがエムリス機の脚を襲う。

 槍を抱え込んだためにむしろ行動の選択肢を狭めたエムリス機は、対応するもままならずあっけなくバランスを崩していた。


「……足元が留守であると」


 エムリス機が倒れこんだ隙に素早く槍を取り戻したアンブロシウス機は、再び嵐のような突きを繰り出す。

 エムリス機は、無理矢理転がってそれを避けるとがむしゃらに背面武装を発射した。自棄気味に撃ち放たれた法弾を、アンブロシウス機が冷静に弾いてゆく。

 そうしてなんとか距離を取り直し、エムリス機はゆっくりと立ち上がった。状況は再び振り出しに戻ったのだ。


「……こいつはやべぇ、すげぇわじいちゃん、たまんねぇな」


 エムリス機の外装はあちこちに傷を負い、倒れ転がったことにより歪んだところもある。背面武装はまだ使えるが、転がった衝撃で照準がずれてしまっていた。

 結晶筋肉クリスタルティシューが損傷を負っていないのは幸いというべきだろう。見た目は少々ぼろくなっていても、エムリス機はまだ十全に動くことができる。

 エムリスは操縦桿から返ってくる応答の力強さを確認して、顔を笑みの形にゆがめた。


「よしよし、本当にコイツはいい機体だ。まだまだ、楽しめる……!」


 多少目的がずれてきた感はあるが、彼の闘志は全く衰えていない。むしろよりいっそう燃えあがっているといっても良かった。

 そんなエムリスの闘志を機体越しに感じながら、アンブロシウスは操縦席の中、獰猛そのものの笑みを浮かべていた。


「ふむ、根性だけは一人前であるな。しかし結果がついてこぬのでは、意味はないぞ」


 拡声器から漏れ聞こえる言葉を耳にしながら、エムリスは必死で猛る心を静めていた。

 挑発に応じている場合ではない。アンブロシウスの槍を攻略せねば、このままでは彼に勝ち目はないのだ。

 その強みは単に間合いが広いだけではない、その間合いの中ならばどのような攻撃にも対応してくることにある。どこかに隙はないか、何か有効な手はないか、彼は睨み合いの時間の裏で思考し続け、やがて決断を下した。


「……あーやめだ、やめだ! 考えてばかりじゃあ、答えなんてでない。答えは剣の中にあり!」


 即決即断、答えは行動の中で見つける。それがエムリスという男であった。

 予想通りの行動に出た孫の姿にアンブロシウスが密かに苦笑しているとも知らず、エムリス機はがむしゃらに前進する。

 それは周囲の人間からは先ほどの二の舞であるように見えた。変幻自在のアンブロシウスの槍によってエムリスは押し返される、誰もが同じ結果を想像する。

 だが現実は予想を裏切った。


 前進するエムリス機を迎え撃つべく、アンブロシウス機が槍を突き出す。いまだ剣の間合いのはるか外、槍が一方的に攻撃できる間合いだ。

 エムリス機がただ甘んじるわけはない。剣を両手で構え、振る。次の瞬間、火花が生まれるとともに訓練場に甲高い衝突音が響き渡った。

 もちろん剣の間合いにはまだ遠い。ここでエムリス機が狙ったのは“槍”――アンブロシウス機の、武器だ。

 剣による斬り払いが槍の穂先を弾く。槍は大きく横にそれ、エムリス機はその制圧圏内へと滑り込んでゆく。

 応じるアンブロシウスもさるもの、長柄の武器であるというのに槍が信じられない速度で旋回し、次は石突がエムリス機に襲い掛かった。

 エムリス機は前進しながら、再び槍を打ち払った。ひたすらに、執拗に、絶えず前進しながら槍を打ち払う。


 槍の利点が間合いならば、剣の利点は小回りであろう。その動きは最小限で鋭く、その上で重く速い。エムリスは想像を絶する愚直さをもってただ前に出る、その時彼は他に何も考えていない。

 ある種なりふり構わない一途な前進に、さしものアンブロシウスも圧されはじめていた。


「おぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「ぬぅっ!?」


 ここに至ってエムリス機の武器は剣ではなく、機体そのものであった。ぶちかましのような勢いで突っ込んできたエムリス機の一撃を、アンブロシウス機が真正面から受け止める。

 両手で剣を振り下ろしたエムリス機と槍の柄でそれを受け止めるアンブロシウス機。互いの魔力転換炉が出力を上げ、吸排気音が雄叫びのように高まる。結晶筋肉が軋みをあげながら伸縮し、相手の攻撃を少しでも押し込もうと大量の魔力を力へと変換してゆく。


 全く同じ幻晶騎士同士で力比べをした場合、勝敗を分けるものは何か。それは“騎操士の気合”である。

 少しでも気迫に劣った者が押し込まれ、敗北する。最後の最後に、馬鹿馬鹿しいほどに単純な要素が決め手となるのだ。

 互いの力を一転に集約し、両機とも相手を凌駕せんと力を振り絞った。踏ん張った両脚が大地に食い込んでゆく。


「うおっりゃああああああ!!」


 エムリスが咆える。渾身の力をこめて踏み込み、互いの武器の間に溜められた力が爆発するように解放され――そして。


 槍が、宙を舞った。


 互いに相手の武器をそらそうと力をこめた結果、力負けをしたのはアンブロシウス機だった。徒手空拳となったアンブロシウス機の喉元へと、エムリス機がじっと剣を突きつけている。

 勝敗は、決したのだ。


「うむ、見事である。なかなかよき鍛錬を積んでおるようじゃのぅ」

「……じいちゃん、今、手加減したな?」


 エムリスの口からは疑問ではなく断言が漏れ出でた。

 直に剣を交えていた彼だからこそ、こんなに容易く勝てるような相手ではないと、その身で理解していたのだ。

 彼が即座に手加減と判断したのも無理なからぬことであった。


「馬鹿者が、ぬしに手加減など必要なものか。……しかし我が身も老いたことよの、抑え切れなんだとは。まぁよい、ぬしは結果を示した、かの機体は持ってゆくがよい」


 それだけ告げると、アンブロシウス機は身を翻す。果たしてそれを敗者と呼んでよいものか、彼の堂々とした姿には全く陰りがない。

 その背中へ向けて、エムリス機が静かに深く礼の姿勢をとった。ともにその場にいた近衛騎士の全員が姿勢を正し、一礼していた。



 訓練場を後にしたアンブロシウスはカルディトーレより降り立ちながら、全身の凝りをほぐしていた。


「やれやれ、久方ぶりの試合で肩が凝ったわい。やはり鈍っておる、少々鍛えなおさねばいかんか。しかし馬鹿孫エムリスめ、老骨相手に手加減抜きできおって。あの馬鹿正直さは一体誰に似たものやら」

「間違いなく先王陛下ご自身でしょう」

「おぬしまでそのようなことを……さてエルネスティよ。“金獅子”はくれてやったとはいえ、“銀虎”もひけはとるまいな?」

「元よりご心配には及びません、というか、正直に申し上げて外見以外は同じものですから」


 それは安心よ、と呵々と笑うアンブロシウスの背後で、珍しくエルが溜息をついていた。




「おお……」


 戦いを終え、同じく訓練場を後にしたエムリスは、勝利の証である金獅子の前へとやってきていた。

 獣の貌を意匠に備えたその機体は、派手さと力強さ、荒々しさを内包しながらもどこか気品と風格を備えている。

 さらには、守りを重視し装甲を厚めにしてあるがゆえの重量感が機体に迫力を与えていた。


「良い、すごく良いぞ……」


 加えて、エムリスにとっては金獅子は単なる幻晶騎士というだけでなく祖父アンブロシウスより勝ち取った、彼の名の証ともいえるものである。

 それを思えばエムリスは疲労感を全て吹き飛ばして、全身に力が漲るのを感じていた。


「じいちゃんから勝ち取ったこの俺が、格好悪い姿なんて見せれないしな。こいつは気合が入るぜ……!!」

「(もしかして、先王陛下はそれを見越しとったんかな)」


 感動に打ち震えるエムリスの姿を見ながら、エルはふと思いつく。

 話した時間は短いが、エルの見たところエムリスの気質は非常にまっすぐだ。些かまっすぐすぎるほどである。

 さらにはなんだかんだと言いつつも言動の端々にアンブロシウスへの尊敬が見て取れる。その彼が、アンブロシウスから機体を勝ち取ったとなれば。


「(殿下自身の誇りが、殿下本人の行動を磨き上げる……言うほど上手くいくかは知らんけど。まぁなんにせよ、喜んでもらえるのはええこっちゃ)」


 うんうん、と頷いてからエルはそっとその場を離れる。

 いくらか予想外の騒ぎはあったもの、専用機を受け渡すという目的は達している。彼はライヒアラへと戻るべくツェンドリンブルの元へと歩みながら、ぽつりと呟いた。


「うーん、僕も、もう少しイカルガを動かしてあげようかな?」


 今のところエルがやったことといえば飾って愛でただけだ。それはそれで彼にとっては楽しいことであったが、いつまでもそうしているわけにはいかない。

 彼は割合に深刻な表情で悩みながら、駐機場へと向かっていった。




 ライヒアラ騎操士学園の中央に位置する時計塔から、鐘の音が鳴り渡る。澄んだ響きが晴れ渡った空へと吸い込まれていった。

 普段の授業の始まりと終わりを告げる短いものではなく、長く反響する鐘の音が今日が特別な日であることを示している。


 この日、ライヒアラ騎操士学園では卒業式がおこなわれていた。

 ライヒアラ騎操士学園に限らず、フレメヴィーラ王国における教育制度は自由度が高いものとなっている。

 卒業者の中には教育課程を修めていないものも大勢含まれており、初等部、中等部、高等部と学年も問わず、今日この日をもって学園を去る者たちを見送るための式となる。


 そんなライヒアラ騎操士学園中等部を卒業する者の中には、エルネスティ、アーキッド、アデルトルートの姿もあった。


「少し雲行きはあやしかったですけど、無事に中等部を卒業できましたねー」

「あれだけ好き放題やっておきながら卒業資格が出るとはなぁ」

「わりともう出てけって感じもしたけどねー」


 しみじみと呟くエルの言葉に、キッドも苦笑を返すほかない。

 思い返せば在学中の彼らは縦横無尽好き勝手にふるまっていたわけであり、到底まともな学生であったとはいいがたかった。

 全く関係ない授業を受けるなど序の口で、突然新型機を作り始めてみたり挙句学科を一つ占拠したりと、事件の枚挙に暇がない。それこそ創立以来前代未聞の問題児軍団であったことだろう。


「まぁすでに騎士団を率いていますし、“オルヴェシウス砦”も完成したことで、銀鳳騎士団も本格的に引越を始めましたしね」


 およそ二年強の時を経て、高等部の学生たちの砦も完成していた。今頃銀鳳騎士団は引越の準備でおおわらわになっているはずである。

 彼らも式が終了しだい合流する手はずとなっていた。


 卒業式はつつがなく進行し、証として徽章を受け取った生徒たちが大講堂からぞろぞろと外に出てくる。

 あとは正門より外へ出たところで式は完了である。明日より生徒たちはそれぞれの人生へと分かれ、歩んでゆくことであろう。

 そんな風に、彼らがいくらかの感傷をもってゆっくりと門へと歩んでいると、どこからかズシリと響く足音が聞こえてきた。


 出所を探すまでもなく、すぐにその場に幻晶騎士の一団が現れた。予定にない流れにその場にいる全員が戸惑いを見せる。

 困惑する彼らを前にして現れた部隊は停止し、正門から広場の間に等間隔で立ち並んだ。

 騎士は背筋を伸ばした綺麗な姿勢で整列し、一糸乱れぬ動きで互いに向かい合う。丁度そこには両側に並んだ幻晶騎士による道ができあがっていた。

 行列の先頭に立つのは白と紅の幻晶騎士、アルディラッドカンバーとグゥエラリンデだ。片側には銀鳳騎士団第一中隊。白い十字模様に塗装されたカルディトーレが続き、もう片側には同第二中隊、紅い十字模様に塗装されたカラングゥールが立ち並ぶ。

 騎士たちは全くの同時に腰の剣を抜き放った。右手に剣を、左手は鞘に残し、そのまま剣を高く差し上げて正面同士で交差させる。次いで静かに剣を引き、頭部の前へ。全機が剣に祈るような格好をとって静止する。

 卒業生たちが当惑しているうちに、先頭に立つアルディラッドカンバーより声が響いてきた。


「卒業おめでとう、後輩諸君。我々も近くこの場所より立ち去る側だが、せめて今日は見送りくらいはさせてもらおう」


 まるで彫像が立ち並ぶ回廊のごとく、おごそかな光景。

 鋼の巨人騎士による最後の花道を、卒業生たちは緊張した面持ちでくぐってゆく。

 その中から、彼らを追い越してエルが真っ先に走り抜けていった。彼は実に幸せそうな様子で正門まで走ると、そのままくるりと振り向いた。


「うふふふふふふ、いいですね、幻晶騎士の見送り、すごくいいです格好いいです。あ、そうだ、僕もイカルガで参加します!」

「え、ちょっと待て、イカルガは見た目的にあれだ、とにかく待て、考えなお……待てって!」


 問答無用で駆け出すエルの背を追って、慌てた様子のキッドが走る。止める暇もあらばこそ、エルは手加減なしの全力疾走でイカルガの元へと急ぎ。

 制止する団員たちの必死の努力も空しく、その後強烈な咆哮をあげながら現れたイカルガによって、せっかくの演出が大混乱に叩き込まれることになる。

 だが、その式は多くの人の記憶に強烈に残ったことであろう。色々な意味で。




 時に西方暦一二八八年、正式にライヒアラ騎操士学園と分離した銀鳳騎士団は独立組織として本格的な活動を始めた。

 彼らはライヒアラ学園街近郊を拠点としながらも、国内の各地で様々な活動をおこなってゆく。

 時折、その中に金色のド派手な機体と、銀色のこれまた派手な機体が暴れている姿があったという。


 あけて西方暦一二八九年。

 彼らのあずかり知らぬところで起こったある出来事により、世界は激動の時代を迎える。

 鉄と炎の気配は、すぐそばまで忍び寄っていたのだった。

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