第81話


「相変わらず出鱈目だな。エレナは」


俺は何度も何度もカラレス側に落ちる雷を見て、そう呟いた。


戦いを放棄して逃げ惑うカラレス兵は、無様を通り越してどこか気の毒にすら見えた。


「これは……全てエレナさんが?」


「ああ」


信じられないと言った表情で空から何度も落ちる雷を見つめるルーシェに俺は頷いた。


普段エラトール家の屋敷で一緒に生活していると忘れがちになるが、エレナは間違いなく帝国最強の魔法使いの一角なのだ。


たった1人で、戦局をひっくり返すようなことをしてもなんら不思議はない。


「こ、こっちにきますよ…!?」


エレナが降らす雷は、まるで追撃し森に追い詰めるかのように撤退するカラレス兵を蹂躙する。


やがて後退の指示が出たのか、カラレス兵たちがまとまってこちらへと移動し始めた。


「こ、こちらにきますよ!?」


ルーシェが焦ったように言った。


「よし。やるか」


俺は体の中で魔力を熾す。


自領を蹂躙したカラレス兵をミスミス逃したりはしない。


前方からエレナ。


後方から俺の魔法で挟み撃ちにしてやる。


「ルーシェ。お前は周囲を経過してくれ」


「は、はい…!」


ルーシェが魔剣を構えて、緊張した様子で周囲を見渡す。


一方で俺は、前方の騎士たちを見据え、容赦なく範囲攻撃の魔法を放った。


「「「「ぐぁああああああ!?!?」」」」


「よし」


第一撃が命中し、カラレス兵たちが悲鳴をあげる。


「あそこにも魔法使いがいるぞ!!」


「敵だ!!敵が後衛に回り込んでいるぞ!!」


「1人だ!!殺せ!!」


俺の存在に気づいたカラレス兵たちが、俺を仕留めようと突撃してくる。


「ファイア・トルネード」


「「「「ぐぁあああああ!!!!」」」」


そんなカラレスの兵に俺は容赦なく上級魔法を叩き込む。


炎の竜巻に巻き込まれたカラレス兵たちが、空高く舞い上がる。


地面に落ちてくる頃には、みるも無惨な焼死体に変化していることだろう。


「悪いが……容赦はしないぞ」


人を殺すことに気は咎めるが、彼らは侵略者だ。


おそらくこの戦いで領民にも少なからず犠牲が出ているはず。


俺はすでにカラレス兵たちに対して容赦はしないという覚悟を決めていた。


「どこにも逃げ場はないぞ!!カラレス兵ど

も!!」


俺は立て続けに高威力の魔法をカラレス軍に叩き込む。


その度に悲鳴が上がり、こちらへと向かってきていたカラレス兵たちは進路変更を余儀なくされるのだった。



「ふふふ…どこへ行くのですか?逃がしませんよ」


戦場を見渡せる丘の上で、エレナが微笑みながら魔法を連続で放っている。


雷が一つ、落ちるたびに轟音と閃光が周囲を支配し、カラレス兵たちは武器を捨てて逃げ惑う。


「そうそう。逃げなさい、後退しなさい。そうすれば、冒険者たちは孤立します」


撤退していくカラレス兵から、エレナは前線にいた冒険者たちに視線を移した。


「お、おい!?騎士どもが逃げ出したぞ!?」


「腰抜けが!!尻尾巻いて逃げやがった!!」


「俺たちは置き去りかよ!?あの裏切り者どもがああああ!!!」


取り残され後方からの援護を失った冒険者たちが悲鳴のような声をあげる。


「うおおおおお!!いまだ行け!!」


「突撃だ!!」


「冒険者どもを駆逐しろおおお!!」


そして、これを好機と勢いづいたエラトールの騎士たちが一気に数で取り残された冒険者たちを飲み込んでいく。


エレナの働きによって戦局は一気にエラトール側の有利に傾いていた。


「さて…冒険者を倒したら……この機に陣営に攻め入って奴らを完全に駆逐しましょうか」


援護を失った冒険者たちが全滅するのは時間の問題だ。


エレナは前線から、再び撤退していくカラレス兵たちへと視線を戻した。


「数で劣るこちらが攻めに回るのは至難の業です…出来れば混乱している今のうちに勝負を決めたいところですね」


時間が経って周囲に離散したカラレス兵が再び陣形を立て直せば、数で劣るエラトール側は奪われた領地奪還が難しくなる。


よって敵が混乱しているこのタイミングで、カラレスが構築する陣地に攻め入ってしまうのが得策だろうとエレナは考えた。


「さて…私もそろそろ前に出ましょうか」


切り捨てられた冒険者たちは1人また1人と倒れていく。


エレナは自らが前に出て軍を率いるために、丘を降りて騎士たちの元へ向かおうとする。


その時だった。


「「「「ぐぁああああああ!!!」」」」


撤退していくカラレス兵たちの方から悲鳴が聞こえていた。


そして逃げていったはずのカラレス兵たちが、今度は左右に散り始めた。


見れば、カラレス側の後方に炎の竜巻のようなものが見える。


「まさか…」


エレナは見覚えのある魔法に大きく目を見開いた。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る