第58話


「はぁ…はぁ…はぁ…」


「システィ!!遅いですわよ!!追いつかれてしまいます!!」


「わ、わかってる…!!」


「頑張るのですわ!!なんとしてでも逃げ延びるのです…しかし…最初の会敵が上級生徒だなんて運がないですわ」


システィとヴィクトリアが森の中を走っている。


追ってくる三人のチームから逃げているのだ。


5分以上も続く闘争劇にシスティは荒い息を吐きながら必死に地面を蹴り、比較的余裕のあるヴィクトリアは、自分達の運のなさを呪う。


生存と撹乱が役目の2人は……アリウスと別れてから十分と経たないうちに他チームと遭遇した。


しかもそのチームは、全員が上級生の格上のチームだった。


もとより正面からの戦いをするつもりのない2人は相手が上級生チームだとわかるや否や全力でその場から逃げ出し、上級生チームがそれを追うという構図が出来上がったのだった。


「はぁ…はぁ…もう…足が…」


「システィ!!足を止めてはなりません!!捉えられたらおしまいですわよ!!頑張るのですわ!!」


ペースの落ちているシスティを鼓舞したヴィクトリアは直後…


「…っ!?来ますわね!!」


背後から魔力の気配を感じ取る。


「ウォーター・シールド!!」


咄嗟に、水のシールドを自分とシスティの体を覆おうようにして展開する。


バァアアン!!!


直後、飛来した三つの魔法が盾に吸われて消えた。


アリウスとの訓練によって鍛えられたヴィクトリアの守護魔法は、上級生の魔法攻撃を完璧に防ぎ切った。


「す、すごい…!」


感心するシスティの手を引っ張ってヴィクトリアは走り出す。


「ほら、足を止めている場合じゃないですわ!!」


上級生たちの姿ははっきりとは見えないが、追ってきているのは確実だった。


「…っ(一体どうすれば…このまま追いかけっこを続けていてもいずれは体力か魔力が尽きてしまいますわ…)」


いつまでも逃走劇が続くとは思えない。


ヴィクトリアはこの追われる一方の状況をどうにか打開しようと思考を巡らせる。


「…っ!!」


そんな時、不意に感じる前方からの敵の接近の気配。


ヴィクトリアは嬉々として前方に向かって進路をとり続ける。


「な、なんか前からも来てない!?」


遅れて前方からの敵の接近に気づいたシスティが焦り出す。


「ええ、来てますわ!」


「に、逃げないと…!!」


「いいえ、このまま突っ込みますわ!!」


「ええっ!?」


驚くシスティだが、ヴィクトリアに半ば強引に引っ

張られるようにして前方に向かって走り続ける。


「ここですわ…!!」


もう少しで前方の敵の姿が見える。


そんな距離まで接近したヴィクトリアは直後、直角に進行方向を曲げて、右手に向かって走り出した。


「こ、今度はこっち!?」


システィも慌ててヴィクトリアの背中を追う。


「ここまでこれば大丈夫かと」


右手に進路をとったヴィクトリアは、十分に距離が離れたのを確認してから木陰に身を隠す。


「ほら、システィ。あなたも隠れるのですわ。きっと面白いものが見れますわよ」


「え…?」


システィが、言われた通りに体を隠しながらヴィクトリアの指差した方を見る。


「あっ…」


そして思わず小さな声を漏らす。


そこでは自分達を追ってきた上級生のチームと、前方から接近してきていたチームが見事にぶつかっていたのだった。

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