第56話


「き、緊張するね…」


「気張る必要なんてないですわ、システィ。私たちの作戦は完璧で、魔法の訓練だってあれだけ頑張ったでしょう?」


「そ、そうだよね…!!うん、頑張ろう…!」


表情をこわばらせるシスティを、ヴィクトリアが励ます。


今日は、帝国魔術学院における一大魔法イベント、魔導祭の当日だった。


馬車で帝都の端にあるフィールドまで移動した俺たち参加者の生徒たちは現在、等間隔で森の中に配置されている。


あとは開始の合図である大砲の音が聞こえれば、魔導祭が始まるのだ。


「絶対に優勝しますわよ、システィ。賞金も学院からの評価も、全て私たちのものですわ」


「う、うん…!!」


意気込むヴィクトリア。


システィもヴィクトリアの自信げな態度に感化されて、少し表情が軟化していく。


「最終確認だ。俺はただ制限時間がくるまでひたすら他の生徒を撃破すればいいんだよな?」


大砲の音が鳴るのを待つなか、俺はヴィクトリアに最終的な作戦の確認を取る。


「ええ、そうですわ。そして私とシスティの役目はフィールド内の撹乱と制限時間終了まで生き延びることですわ」


「頑張れよ、2人とも」


「う、うん…!!アリウスくんがあれだけ練習に付き合ってくれたんだもん…!2人で絶対に生き延びるよ」


「そうですわね。防御は私が、そして万一の際の治療はシスティが。役割分担もバッチリですわ」


「よし、これなら行けそうだな」


しっかりと作戦をたて、そして練習もたくさんしてきた。


人事を尽くして天命を待つではないが、あとはとにかくそれぞれの役割を果たすだけだな。


ォオオオオオン!!


「お、始まったか」


そうこうしているうちに大砲の音が遠くから鳴り響いてきた。


魔導祭がスタートしたのだ。


「では…一旦ここでお別れですわ。アリウス。あなたのご武運をお祈りしますわ」


「頑張ってね、アリウスくん!!」


作戦通り、俺たちは早速二手に別れようとする。


だが、直前で俺が止めた。


「ちょっと待ってくれ、2人とも。これを」


俺はポケットから小振のナイフを2本取り出して、システィとヴィクトリアに渡す。


「これは?」


ヴィクトリアが首を傾げる。


「お守りみたいなもんだ。もしピンチになった

ら……相手に向かって振ってみてくれ」


俺がそう言った瞬間、ヴィクトリアが目を見開いた。


「も、もしかして…魔剣ですの?」


「え、魔剣…!?そんなのありえないよ!!」


システィがヴィクトリアを諭す。


「魔剣や魔道具の持ち込みは禁止だよ?もしこれが魔剣なら、絶対に探知水晶に引っ掛かっているはずだよ」


この魔導祭に、魔剣や魔道具などの持ち込みは一切が禁じられている。


出場者は、この森のフィールドに配置される前に一度探知水晶によって検査を受け、魔剣などを所持していないかを確認されている。


ゆえに魔剣をフィールド内に『持ち込むこと』は出来ない。


「そ、それもそうでしたわね…」


システィの言葉に、ヴィクトリアがむねをなでおろした。


「よくわかりませんが、一応頂いておきますわ」


「ありがとう、アリウスくん。何か縁起のいいものなのかな?」


ナイフを受け取ってしまう2人。


俺はしっかりと2人がナイフを受け取ったのをみてから、踵を返した。


「それじゃあ、今度こそお別れだ。お互い頑張ろう。生きて魔導祭を終えるんだ」


「ええ、もちろんですわ」


「うん!!頑張ろう!!」


俺たちは最後に一度互いの顔を見てから、別々の方向に向かって歩き出したのだった。

 


「さて…厄介なのが監視の目だよな…」


2人と別れた俺は、気配を探りながら森の中を練り歩く。


俺の役目はとにかく1人でも多くの生徒を撃破すること。


そのために、あまり力の出し惜しみはしたくはない。


とはいえ…


「木の中に埋め込まれているのか…?地上からは見えそうにないが…」


森の中には監視の魔道具が張り巡らされており、戦いの様子などは映像として帝都の至る所で中継されてしまうらしいのだ。


だから、俺はこの魔導祭で全力を出すことはできない。


そんなことをすれば、俺がトリプルであることや学院の生徒として明らかに逸脱した実力を持っていることがバレてしまう。


それはなるべく避けたい。


「まぁ…とはいえ全力を出す機会なんてないだろうがな」


学院の生徒とエレナに鍛えられた俺ではあまりに実力差がありすぎる。


おそらく俺が全力を出さざる絵を得ない状況は訪れないといえるだろう。


俺はそこそこの力で生徒たちを殺さないよう気をつけながら撃破し、チームを優勝に導けばいい。


「お…早速…」


そんなことを考えていると、前方に気配を感じた。


距離にして三十メートルと言ったところだろうか。


向こうもこちらの存在に気づいているのか、真っ直ぐに向かってくる。


数は三つ。


どうやら俺たちとは違い、チームで行動しているようだ。


まぁそちらの方が正攻法だし、当然だな。


「さて、やりますか」


俺は腕まくりをする。


一応漁夫の利を狙うチームがないか、周囲を警戒しながら距離を詰めていき、ついに正面から相対する。


「お…お前か…」


そこにあった顔ぶれが知っているものだったため、俺は少し驚く。


「なっ!?貴様はアリウス・エラトール!!」


「エンゲル…まさかお前と会うとはな」


「様をつけろ!!弱小貴族が!!」


俺の最初の会敵は、傲慢貴族エンゲルが率いるチームということになった。










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