第55話
長期休暇の前に行われる魔導祭に、俺とシスティとヴィクトリアの三人で出場することが決まった次の日から、俺たちは優勝のための特訓を開始した。
魔導祭にはヴィクトリアの考えた二手に分かれるという作戦で挑むことになった。
システィとヴィクトリアの2人、俺1人の二手に別れ、役割を分担する。
俺はとにかく制限時間内に1人でも多くの生徒を撃破する役目を、そしてシスティとヴィクトリアは場の撹乱および、脱落しないよう試合終了時間まで生き延びる役目を担うことになる。
それにあたり、まずはシスティとヴィクトリアが生き残るための魔法の特訓をすることになった。
俺自身の訓練に関しては、この学院の生徒の魔法戦のレベルからしてほとんど必要はないだろう。
だから、今日から本番まで、とにかく俺はシスティとヴィクトリアを全力で鍛え上げることにした。
「水の盾よ…我を守護せよ!!」
放課後の訓練場にヴィクトリアの詠唱が響き渡る。
「頑張れ」
「頑張ってヴィクトリアさん!」
俺とシスティが見守る中、ヴィクトリアが水属性の守護魔法の詠唱を完了させる。
「顕現せよ、ウォーター・シールド!!」
次の瞬間、ヴィクトリアの目の前に水の盾が出現。
大きさ、厚みともに申し分のない盾だ。
「わあっ!?すごいですヴィクトリアさん!!」
魔法発動の成功にシスティが興奮した声を上げる。
「なかなかだな」
俺もヴィクトリアの守護魔法に感心していた。
あとはこれを維持さえでいれば完璧なのだが…
「くっ…もう限界ですわ…」
ヴィクトリアが苦しそうな表情で腕を下ろした。
水の盾は霧散し、消えてしまう。
「ダメですわ…どうしても長時間の維持となると…
魔力が足りなくて…やはり私には才能が…」
「おいおい、そう悲観するな。最初の頃に比べてかなり上達してきているぞ」
落ち込むヴィクトリアを、俺は励ます。
「維持できないのは、魔力や才能が足りないだけじゃなくて、単に魔力の使用効率が悪いだけだ。何度も練習すれば、少ない魔力で魔法を維持できるようになる」
「そ、そうなのです?」
「ああ。俺自身そうやって魔法の練度を上げていったんだ。ヴィクトリアにだってできる」
「わかりました…もう一度やってみますわ」
「エナジー・ヒール…よし、これで頑張れよ」
俺は魔力を回復させる魔法をヴィクトリアに使う。
「やってやりますわ!!」
ヴィクトリアはすぐに元気を取り戻して、魔法の練習を再開させる。
「さて…次はシスティの魔法を見せてもらおうか」
ヴィクトリアが魔法の発動を繰り返しているのを横目に、今度は俺はシスティの訓練に付き合うことにした。
「えっと…私は回復魔法を練習するんだよね?」
「ああ。システィはダブルだからな。回復魔法を担当した方が効率的だ」
システィとヴィクトリアの役割は、場の撹乱と逃亡。
ともかく戦わずに逃げに徹すれば生存確率は格段に上がるだろう。
だが、魔導祭は魔法の実力がはるかに上の上級生たちが多く参加する催しだ。
もしかしたら逃げる背中をとらえられ、負傷するかもしれない。
そういう時に、システィとヴィクトリアのどちらかが回復要因としていた方がいい。
そして、システィは光属性に適性があるダブルだ。
だとしたら、ヴィクトリアが守護、そしてシスティが万一の際の回復というように役割分担をした方が生き延びる確率は上がると思ったのだ。
「わかった…魔導祭までに、回復魔法を頑張る
ね!!」
「頼むぞ…じゃあ、まずは現時点での実力を見せてくれ」
俺は訓練場に配置されている剣を使って、自らの腕に薄く切り込みを入れる。
「…っ」
鮮血が流れ出し、システィがたじろぐ。
システィは血を見るのがいまだに苦手なのだ。
「頑張れ。これも練習だ」
「う、うん…!!任せて!」
俺が背中を押すと、覚悟を決めたように頷いたシスティが魔法を発動する。
「癒しを!!ヒール!!」
光が俺の腕を包み込み、傷が治る。
「やった!!」
システィが歓喜の声を上げる。
「おぉ…」
前回の訓練からかなり上達している。
回復魔法に関しては、システィはすでに実戦レベルの実力をつけてきていると言っても過言ではないだろう。
だが…このぐらいで満足してもらっては困る。
「次はもっと大きな傷を治してみよう」
そう言った俺は先ほどよりも深い傷を腕につける。
「えええっ!?アリウスくん!?」
「前にも言ったが、俺も回復魔法を使えるから大丈夫だ。それよりもほら…血が流れてるぞ。早く治療してくれ」
「わわわ、わかった…!!ま、任せてよ…!!」
システィが慌てたように回復魔法を発動させる。
俺たちはそんな感じで当日まで放課後にひたすら訓練する日々を送ったのだった。
〜あとがき〜
新作のラブコメ連載始めました!!!
タイトルは、
『デブで陰キャな俺が彼女を寝取られたことをきっかけにダイエットして自分磨きした結果→学校一のモテ男になったんだが』
です。
そちらの方も是非よろしくお願いします。
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