第46話


その後授業は再開され、筒がなく終了した。


「覚えておけよ」


そう捨て台詞を残した魔法講師が悔しげな表情と共に教室を去っていったのを皮切りに生徒たちが俺の元へ駆け寄ってきた。


「すげーな、編入生!!」


「アリウスくん!もう中級魔法を使えるの!?」


「さっきのファイア・ボール!!短文詠唱だったろ!?もうそんな高度なことできんのかよ!?」


「あのラプトンをあそこまでやり込めるとか、お前何者だよ!?」


「正直いけすかないラプトンがあそこまでやり込められて、スッキリした気分だったぜ?」


生徒たちは口々にそんなことを言ってくる。


聞けば、俺の編入を不正呼ばわりしたあの魔法講師は、ラプトンという名前で、生徒たちからはかなり嫌われているらしい。


というのもエコ贔屓が激しい講師で、高い位の貴族の子供はあまりしからずに成績も上方修正したりするのだが、位が低く収める土地が小さな貴族の子供にたちしてはあからさまに傲慢な態度を取ったりするやつらしい。


だから皆、俺がラプトンの難癖を跳ね返したのが痛快だったようだ。


「次は移動授業だぜ」


「急げよアリウス」


「ほら、アリウス行こうぜ」


「マジで痛快だったぞ、アリウス」


生徒たちは俺の肩を叩いてそんなことを言いながら、教室を出ていった。


授業を中断したことをとがめられることも覚悟していた俺は、彼らの反応が好意的だったことにほっと安堵の息を漏らす。


「はぁ…よかった…」


「た、大変だったね…アリウスくん」


「あぁ…そうだな。一時はどうなるかと…ん?」


ふと俺は顔を上げる。


かけられた声に、聞き覚えがあったからだ。


「えっと…私のこと…わかる?」


「あぁ…あんたは昨日の!!」


少女の顔をよく確認して、俺は思い出す。


この子、昨日厄介な貴族に絡まれていた平民の少女だ。


どうやら同じクラスだったようだ。


「さっき俺を起こしてくれたのもきみだったよな…?すまない、隣の席だったんだな」


自分のことで精一杯で今の今まで気が付かなかった。


「あはは。全然大丈夫だよ、私の影が薄いのがいけないんだよ」


少女は頬をポリポリとかきながらいった。


「ええと…名前を聞いていいか?」


「システィです。昨日は助けてくれて本当にありがとう。これからよろしくねアリウスくん」


「おう、よろしく」


システィ、か。


俺は何度か頭の中で反芻して頭の中に入れる。


「あっ…そろそろ行かなきゃ…次、移動授業だよね?」


「そうだな」


俺とシスティは急いで教室を出る。


あらかじめ確認しておいた日程によると、二時間目はそれぞれの適属性に分かれての授業だ。


五つの属性ごとにそれぞれ授業を受ける教室が分かれており、自分の適性がある属性の授業を受けにいくのだ。


「システィは何属性なんだ?」


俺は歩きながら、システィの適属性を確認する。


「私は水属性だよ。アリウスくんは?」


「お、そうなのか。俺も水属性に適性があるから、システィと一緒に授業を受けようかな」


「ん…?」


システィが首を傾げる。


俺の言い方が少し引っかかったようだ。


「水属性に適性がある…あ、ひょっとしてアリウスくんってダブル…?」


「違うぞ。トリプルだ」


「へぇ、そっかそっか。トリプルなんだ」


「おう」


「ふぅん…って、え…」


システィが急に立ち止まった。


ポカンとした表情で俺を見ている。


「今なんて…?」


「俺はトリプルだ」


「トリプル…三つの属性を使えるってこと?」


「そうだ」


「そっか…嘘じゃないよね?」


「まぁ、すぐに信じろとは言わないけどな」


俺も流石にトリプルがどれだけ希少な存在かは自覚しているつもりだ。


システィにすぐに信じてもらえなかったとしても、無理はないと思っていた。


「そっか…アリウスくんはトリプル…三つの属性を使える伝説的存在…」


「システィ…?」


何やらぶつぶつ呟いているシスティ。


俺が顔を覗き込むと、慌てたように飛び退いた。


「わ、私なんかが一緒に並んで歩いてすみませんでしたっ!!」


「えっ」


とおもったらいきなり謝られた。


「それでは…!!」


「し、システィ!?」


俺が戸惑う中、システィは唐突にものすごい勢いで走っていってしまった。


「そんな…」


このまま仲良くなって初めての友人になれるのではと思っていた俺は、がっくりと肩を落とすのだった。



「遅いですよ、君。時間ギリギリです」


「すみません…」


数分後、俺は時間ギリギリで水魔法の教室に滑り込んだ。


小言を飛ばしてくる教師に謝ってから、手近な空いている席に座る。


少し離れたところにシスティが座っているのが見えたが、目があった瞬間ふいっと逸らされてしまった。


「ぐ…」


ぐさっと心に何かが刺さったような痛みが…


「えー、それでは前回の続きから…」


俺が静かに心の涙を流す中、授業が始まった。


魔法講師が教科書を解説していく。


「うーん…この授業もか…」


教科書をざっと見てみたが、先ほどの授業と変わらず非常に退屈な内容だった。


俺は最初の十分程度で、解説範囲を読み込んでしまってから、その後は窓の外の景色などをみて時間を潰していた。


「よし…それでは実際に外に出て実践してみようか」


「ん?」


ぼんやりとしていると、生徒たちが唐突に立ち上がって教室の外に出る。


どうやら授業の後半は、実際に魔法の訓練を行う実技形式になっているらしい。


「ようやく楽しくなってきたな」


小難しい解説が大切だった俺は、少しワクワクしながら生徒たちに混じって移動する。


「あら、あなた。ここの生徒でしたの」


「ん?」


不意に背後から声をかけられた。


「あー!!」


振り返るとつい最近見た顔がそこにあった。


「この間はどうも。助かりましたわ」


「ええと確か…」


俺はこめかみに手を当てて少女の名前を思い出そう

とする。


「ハンセット家のシャクトリア!!!」


「ランセット家のヴィクトリアですわ。ぶっ殺しますわよ」


思いっきり名前を間違えて、殺意のこ持った目を向けられる。


「すすす、すまん!!」


慌てて謝る俺。


というかぶっ殺すって、口が悪いぞこのお嬢様。


「はぁ…一応我がランセット家は帝国五大貴族の一角なのですが…」


「五大貴族…?」


「その様子だと全然知らなかったようですわね

まあいいですわ」


はぁ、とヴィクトリアがため息を吐いた。


「この間は本当に助かりましたわ。改めてお礼を。後日あなたの屋敷にお伺いをしようかと思っていたのですが、まさか帝国魔術学院の生徒だったとは思いませんでしたわ」


「編入してきたんだ。ついこの間な」


「編入…なるほど、帝国魔術学院が編入生をとることが滅多にないことを考えると…何かワケがありそうですわね」


そう言って目を細めるヴィクトリア。


なかなかに鋭い。


「そうなんだ。実は…」


「いいえ、今はいいですわ。早くしないと置いていかれますわよ」


そう言って歩き出すヴィクトリア。


気づけば、俺たちは生徒たちからおいていかれかなり距離が離れていた。


慌ててヴィクトリアの後に続く。


「しかし学院の生徒なら話が早いですわ。エラトール家のアリウス。今日の放課後、時間はありまして?」


「あるが?」


「そうですか。では、放課後に色々と聞かせてもらいましょう。お礼もその時に」


「いや、別にお礼は…」


いらない。


そう言おうとしたが、ヴィクトリアがさらに歩調を早めたために俺は言いそびれてしまうのだった。


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