第32話


「すごい数の死体だ…」


「これをアリウス様が一人で…」


「なんてお方だ…」


「トリプルだと言うのは知っていたが…」


俺が倒したモンスターたちを見てから、なんか周りの騎士たちの態度が急によそよそしくなった。


さっきまでは絶対に傷付けてはいけない庇護対象という感じだったのが、急に下手に扱ってはいけないというか、若干畏怖の対象になりつつあるような気がする。


まぁ、ちょっと怖がられるのは納得いかないがともかく邪魔な護衛がいなくなってくれるのは好都合だ。


周囲を人に囲まれたままだと満足に魔法が使えないからな。


「進むぞ。一刻も早くモンスターを減らして、なんとしてでもスタンピードを防ぐんだ。大暴走が始まってからでは手がつけられん」


「「「はっ!」」」


団長っぽい人の号令で一行は、森の入り口から森の中へと足を踏み入れてくる。


「はぁ!!」


『グギャァアア!!』


「とりゃあ!!」


『グォオオオオ!!!』


森の中に入ってから、騎士たちは問題なくモンスターたちを倒していく。


見ていると、中級程度のモンスターなら数人の騎士で取り囲んでほとんど苦労せずに倒せるようだった。


さすが領地防衛のために日々訓練をしているだけはある。


騎士たちの腕前は俺の予想以上だった。


「ええと…どうしよう…」


嬉々として討伐隊に加わったはいいものの俺の出番が今の所ない。


まさか俺っていらない子…?


「前に出るか」


俺がなんとか役に立とうと前に出ようとしたところで、前方から声が上がった。


「オーガ・キングだ…!上級モンスターが出たぞ…!!」


「何!?」


「すぐに討伐陣形を成せ…!!人数でかかる

ぞ…!!」


前方の騎士の報告と共に、騎士たちが陣形を成し始める。


『オガァアアアアアアアアアアア!!!』


それと同時に前方から、空気を震わせるような咆哮が聞こえてきた。


どうやら上級モンスター、オーガ・キングの出現らしい。


流石の騎士たちでもオーガ・キングは侮ってかかるわけにはいかないのか、隊列のようなものを組み始める。


「俺に任せろ…!」


俺はというと、この機を逃す手はないと、喜び勇んで前に飛び出していく。


「あ、危ないですよアリウス様…!!」


「上級モンスターです!下がってください…!」


騎士たちの制止の声が響くが俺は無視して突っ込んでく。


『オガァアアアアアアアアアアア!!!』


前方から巨体が迫ってきた。


上級モンスターの最強格の一種、オーガ・キングだ。


数年前まではエレナの手を借りないと倒せなかったこいつだが…


「ライトニング・シールド」


現在なら余裕を持って一人で倒し切ることができる。


バァン!!


『オガァアアアアアアアアアア!!!』


光の盾に侵攻を阻まれたオーガが悲鳴をあげて後退する。


「エクストラ・ウィンド・カッター」


俺は全力の突進を受け止められ怯んだオーガ・キングに、風属性の切断魔法を叩き込む。


斬ッ!!!


風を切るような鋭い音が鳴った。


『オガ…』


オーガ・キングが動きを止める。


その太い首筋に、ゆっくりと線が入っていった。


『…』


すううとスライドするように切断された頭部が滑り、ボトっと地面に落ちた。


メキメキメキ…


ズゥウウウン!!!


それと同時に、勢い余って切断してしまった周囲の何本かの木々が地面に落ちた。


「おっとと、やりすぎたな…」


いつものエレナと戦う感覚で魔法を放ってしまった。


回避の技術が優れているエレナに対する攻撃は、いつも範囲攻撃だったからな。


その時の癖がまだ抜けていなかった。


オーガ・キング一匹を仕留めるだけだったら、これほどの威力は必要ないだろう。


この辺の力の調整も今後覚えていかないとな。


「よし、オーガ・キングは倒した。先に進もう!」


俺が活躍できたことに安堵しながら背後を振り返ると


「え…?」


そこには口をぽかんと開いたままこちらを見て時を止めている騎士たちがいた。



「なぁ俺たちっていらなかったんじゃ…」


「もうアリウス様一人でいい気がする…」


「オーガ・キングをほとんど一瞬で倒すとか規格外すぎる…」


「俺の半分以下の年齢であの強さ…将来はどうなってしまわれるのだ…?」


あちこちから騎士たちのそんなつぶやきが聞こえてくる。


やりすぎた。


俺はそう反省していた。


エレナとの訓練のせいで感覚が麻痺していたが、オーガ・キングは世間的にはかなり強い部類のモンスターだ。


そんなオーガ・キングを一瞬で屠ってしまったせいで、周りの騎士たちからますます怖がられるようになってしまった。


もはや俺の半径二十メートル以内に騎士たちが寄りつこうとしない。


俺には護衛どころか、支援すらいらないと判断されたようだった。 


「まぁ、いいんだがな…」


俺としては一人の方が動きやすいし、ある意味で臨んだ展開とも言えるだろう。


なんか仲間はずれにされている気がしないでもないが、俺は気を取り直してモンスターがいないか周囲を警戒する。


と、その時だった。


「た、大群がくるぞぉおおおおお!!!」


悲鳴のような声とともに、馬に乗った騎士が一人、前方から引き返してきた。

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