第31話
『『『グギャァアアアアア!!!』』』
俺が魔剣を一振りするたびに、火属性の上級魔法が発動し、たくさんのモンスターたちが一気に屠られていく。
「そこ、逃がさないぞ」
俺に恐れをなしたのか、モンスターたちは俺を避けるようにして領地の方へ向かって進んでいこうとするが、それには俺が直接魔法を放つことで対処する。
「ファイア・アロー!!ホーミング!!」
追撃モードの炎の矢がモンスターたちをどこまで追い詰め、蹂躙する。
前方のモンスターを魔剣で。
左右のモンんスターを魔法で。
「すごいな…魔剣と魔法…合わせるとこんなにも強いのか」
俺は改めて魔剣の威力…付与魔法の強さを実感していた。
威力、というよりも手数が圧倒的に違う。
魔剣があることで、ほとんど全方位に対して攻撃を行うことが出来るため、俺はクロスケやクロコと協力し、数百匹のモンスターの進軍をなんとか食い止めていた。
「はぁ、はぁ、はぁ…」
やがて立っているモンスターは一匹もいなくなり、周囲は静かになる。
俺は肩で息をしながら当たりを見渡した。
『グルゥ…フゥ…フゥ…』
『ハァ…ハァ…ガルルゥ…』
立っているのは俺とクロスケ、クロコだけのようだった。
あれだけいたモンスターのほとんどが死体となって地面に転がっている。
まだ息のある個体もちらほらいるだろうが、時期に絶命するだろうと思われた。
「よくやった、クロスケ。クロコ。こっちに来い」
俺は荒くなった息を整えてからクロスケとクロコを呼び寄せて魔法で傷を治療する。
あちこちから血を流していた二匹だったが、俺が最上級の光属性回復魔法を使うと、傷はあっという間に癒えた。
「もう大丈夫だ」
『ワフッ!!』
『ガルッ!』
傷が完治してすっかり元気を取り戻した二匹は、嬉しげに俺の周りを走り回った後、二匹揃って勝利の遠吠えを上げる。
『『アオーン!!!』』
「ははっ…死ななくて本当によかった…」
群れの中には上級モンスターもいたため、二匹がどうなるか心配だったが、二匹とも命を落とさず無事だったようだ。
この数のモンスター、流石に俺一人だと食い止められなかっただろう。
モンスターの領地の侵入を許せば、領民に被害が出る。
それを防げたのは二匹のおかげだ。
「本当にありがとうな。何かお礼をしてやりたいが…しかし今はこのことをアイギスに報告しないと…」
俺は二匹にお礼を言ってからすぐにその場を立ち去った。
あの数のモンスターが領地に侵入しようとするなんて、明らかに異常事態だ。
一刻も早くアイギスに報告する必要があるだろう。
「モンスターの大群が?」
「はい」
屋敷に帰った俺は早速アイギスに事実を報告する。
執務室にいたアイギスは、俺の話を聞いて目を細めた。
「数は?どのぐらいだ?」
「ざっと見た感じ、三百匹くらいでした」
「さ、三百だと!?」
アイギスが大声と共に立ち上がった。
「た、大変だ…!!すぐに騎士たちを招集して討伐を…!」
「大丈夫ですよお父様。すでに殲滅しました」
「どうしてそんな数のモンスターが一挙に…?まさかスタンピード…?だとしたら、強力なモンスターが森の中に…ん?今なんて?」
「すでに倒しました。モンスターは」
「は…?」
ポカンとするアイギス。
何を言われたのかわかっていないと言った表情だった。
「お父様。安心してください。モンスターは俺が全部倒して起きましたから」
「…え、本当に?」
信じられないと言った表情でアイギスが聞き返してくる。
「はい。本当です」
俺は頷いた。
「ちょっと待ってくれ…」
アイギスがこめかみに手を当てて何かを考え出す。
その姿は、信じられない現実を必死に飲み込もうとしているようにも見えた。
「うーん…そのだな…」
やがてアイギスが口を開く。
「と、とりあえず人を送っていいだろうか?数百匹の…モンスターの死体を確認したい」
「構いませんよ」
どうやらアイギスは俺の言葉が信じられていないようだった。
それから半時間後、馬に乗って現場を確認しにいった騎士たちがアイギスに報告をし、アイギスは俺が数百のモンスターを掃討したことを知ることになる。
「いやあの…お前、何者なんだ?」
「あなたの息子ですけど」
仮にも息子に対して化け物を見るような目を向けるものではないと思う。
モンスターによる襲撃があったその翌日。
討伐体が組まれることになった。
アイギス曰く、数百匹のモンスターが領地を襲うなんてことは今までにない異常事態だそうで、もしかするとスタンピードの予兆かもしれないということだった。
スタンピードとは、モンスターの大暴走のことで、この世界に存在する災厄の一種だ。
様々な要因により生活領域を奪われたモンスターたちが、数千の大群で大移動をする。
その道中にある村や町はモンスターたちによって蹂躙される。
スタンピードが一度発生すると、場合によっては数千から数万人レベルの死者が出るらしく、これはなんとしてでも未然に防ぐ必要があるらしい。
そういうわけで、アイギスは領地を普段防衛している騎士の八割を招集して森へ討伐体として派遣することにした。
モンスターたちが大群となって暴走を始める前に今のうちに駆除しておこうという魂胆である。
そういうわけで急遽編成されたモンスターの討伐体に…俺も参加することになった。
「本当に参加されるのですか?アリウス様」
「ああ。俺も領主の息子として領地が襲われるのを防ぐ義務があるからな」
「ですが…万一のことがあれば…」
「大丈夫大丈夫。君たちは俺に構わなくていいから」
「しかし…」
森へ向かう数百名の騎士。
その中に混じって俺が森へ向かっていると、周りの騎士たちが心配そうに俺にそんなことを言ってきた。
騎士たちからは、頼むから屋敷で大人しくしておいてくれという雰囲気がひしひしと感じられる。
討伐隊に参加した俺に万一のことがあってアイギスから責められるのが嫌なのだろう。
だが、俺も一応帝国魔道士団エレナに一流と認められた魔法使いだ。
討伐の役に立てる自信があった。
「俺がトリプルだって言うのは聞いてるだろ?回復魔法だって使える。だから護衛はいらない」
俺の周囲には、俺を守るようにして十数名の騎士が配置されていた。
だが、俺としては魔法が満足に放てないため邪魔だった。
なのでさっきから何度も護衛はいらないと言っているのだが、騎士たちは聞いてくれない。
「あなたは次期領主となるお方なのですから…護衛は必要です。万一のことがあっては困ります」
「うぅん…」
これ一体どうやって説得したらいいんだろうか。
俺が困り果てている中、一行はようやく森の入り口へと辿り着いた。
「こ、これは…」
「じょ、冗談だろ…?」
そしてそこに広がっていた光景に、騎士たちが足を止めて唖然とする。
「うっ…臭いな…」
漂ってくる腐臭。
そこには、昨日俺が掃討したモンスターたちの死体がいまだ散らばっていた。
魔法を惜しみなく放ったため、周囲の木々は根っこから吹き飛んでいて、森の入り口の一部が更地と化している。
「こ、これを全部…」
「あなたが一人で…?」
騎士たちが恐る恐ると言った感じで俺を振り返る。
「ああ、そうだが?」
俺が肯定すると、騎士たちは顔を見合わせた後、俺の周りから離れていった。
どうやら俺に護衛はいらないと判断したようだった。
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