はじめてのダンジョン
魔物の数の把握は当然として、冒険者の乱獲によって
管理費用は税金から捻出されており、
一人当たり銀貨八枚。馬鹿に出来ない出費だ。駆け出しの冒険者であれば、かなりの背伸びをしなければ入場すら出来ないこの金額は、彼らを守るための措置でもあるらしい。
オーソドックスな洞窟タイプか? 溶岩地帯や雪原地帯などの自然の要害か? はたまた人の手で作り出したかのような古城タイプかもしれない。
正解は──。
「王都の
一から一〇階までは石壁で覆われた迷路である。ゴブリンやバットなど、魔物もそれほど強くはない。
一一から二〇階からは密林となる。熱気と湿気、そして視界の悪い中を獣人の魔物が奇襲を仕掛けてくる。
三〇階までは溶岩地帯だ。密林以上に熱さ対策が必要で、火に強いリザードマンやラヴァゴーレムなどが生息している。
そこを越えると今度は白銀の世界が広がる。雪と氷に覆われた幻想的な世界だが、イエティやフロストドラゴンなどの強力な魔物が跋扈している。
「そして四一階から最下層までなんだけど──なんと古代遺跡が広がってるんだ」
「古代遺跡ですか?」
アズがたっぷり勿体ぶって最下層までの説明をするも、反応は今一だ。
古代遺跡というのがどんなものか想像出来ていないのかもしれない。
肩透かしを食らったアズがミルドレッドを見る。彼(彼女?)は肩を竦めると、どたぷんと巨乳が揺れた。
「ううむ、アズすまない。恥ずかしながら古代遺跡は知っているが、
マリオンが己の無知を恥じるように告げる。
「いえいえ、そんなこと無いですよ。冒険者でもやってなきゃ、あんまり縁がありませんからね」
「は! 不勉強じゃねぇのか?」
「ミリー! ……そうですね。行けるとしてもまだ当分先になりますが、古代遺跡について説明しましょうか」
「はいっ、お願いしますっ!」
ある程度知識のあるマリオンと違い、知識が皆無のブレアが元気よく返事をした。
「ブレアは知っているか分からないけど、実は今の人類が栄える前に、今以上に栄えていた文明が存在したんだ。それを古代人と称し、彼らの技術は古代文明と呼ばれている」
「んー? すっごく昔の人達なんですよね? その人達の技術、ですか?」
そんな古いものをどうするのと、ブレアの顔にはありありと浮かんでいる。
「あぁ、アズが言ったろ。古代人は今以上に栄えていたって。チビっ子のように古い技術だが、その大半は今でも再現不可能な
「うわっぷ……! もうっ、乱暴に撫でないでくださいっ」
「
ブレアの頭を乱暴に撫でるミルドレッド。
女になって身長が縮んだとはいえ、未だ一番小さいのはブレアだ。それに彼女の柔らかい髪質は癖になる。ふと撫でたくなる気持ちも分からないでもない。
「ふむ。時折話題になるな。古代遺跡から使用可能な遺物が見付かったと」
「そうなんですよマリオンさん。そこなんです。古代遺跡は世界中にあれど、よっぽど昔のことですからね。状態の悪いところが多くて、ほとんどは原型をとどめていません」
「……うん、話が見えてきたぞ。
「はぁー。それじゃぁ五〇点だぜマリオンちゃんよ」
「ほう……。ではどうすれば満点なのだ?」
どうしてこう二人は喧嘩腰なのか、アズは頭痛を覚えた。
ミルドレッドはマリオンを小馬鹿にしつつも説明を続ける。
「いいか?
「そうか! であれば
「えぇ、そういう事になります。……ただ現実問題として四一階層まで降りるには大規模な遠征隊を組む必要がありますから。一介の冒険者では二〇層──森を抜けられれば上出来ですね」
「ううむ。そう美味い話など転がっていないということか」
厳しい現実を突きつけられマリオンが溜め息を吐く。
「はは。それじゃぁ
そうして一行はギルドを後にして
王都は
初め
万一の
その一番外壁部、入場を監視する衛兵に入場料を払い、四人は壁内部に入った。
「うわぁ! 凄い活気ですね!」
外壁と内壁に囲われたそこは多くの冒険者が闊歩し、彼ら向けの店が揃っていた。
武器防具屋に、中には食事処や宿屋まで見える。決して安くはない入場料は、どんな理由であろうと一度出てしまえば再入場時に発生する。であれば中に居続ければ金は発生しないと、そう考える輩が生まれるのは必然であり、それを相手どろうと様々な店が出店され、気付けばこんな有様であった。商魂たくましい話である。
目を離すとどこかへ行ってしまいそうなブレアにアズは苦笑した。
尤も、見た目以上にしっかりしている彼女が迷子になる事はないが、何せブレアには前科がある。自分とマリオンに何も告げず、森へと出掛けた前科が。
「ここの商品は基本割高でね。何せ冒険者じゃなくても入場料を取られているから」
「ま、基本潜り続けるヤツら向けって訳だな。しかしまぁ、熱心だねぇ」
ミルドレッドが冒険者たちに呆れた視線を向ける。労働を苦役とまで言う彼からすれば、
「……アズ。ここの人間は礼儀がなっていない者ばかりなのか?」
既に入念な準備を済ませていたアズらにこの辺りは用は無い。
内壁を目指しているとマリオンがそんなことを言った。
言っている意味が分からず彼女を見ると、マリオンばかりかブレアとミルドレッドまで険しい顔をしている。
理由はブレアの口から語られた。
「……見られてますね」
「あぁ。感じるな、粘っこい視線が」
これでもアズは中堅以上の冒険者である。殺気や気配といった物には人一倍な自信があった。だのにアズは、ミルドレッドが言う粘ついた視線を感じなかった。
(……待てよ。俺だけ感じない?)
アズは改めて仲間を見る。
絶世の男装美女、マリオン。
子供と見紛うほど小さく、可愛らしいブレア。
退廃的な色香を撒く、雰囲気美女のミルドレッド。
──人目を引く訳である。
「……こんな所はさっさと抜けてしまおう──と、どうしたアズ?」
「いえ、自分の場違いさを感じまして……」
向けられた視線が何を意味するのか、一番に理解して提言をしたマリオンが目にしたのは遠い目をしたアズだった。
「それじゃぁ、まずはお互いの実力を知る所から始めましょうか」
内壁を越え遂にアズら一行は
一層は酒場でも説明した通り、石造りの迷路となっている。
縦横が悠に一〇メートルはあるため息苦しさは感じない。
剣を鞘に納めたまま、振るに問題無いか確認するマリオン、物珍し気に石壁を触るブレア、退屈そうに欠伸をするミルドレッドの三人に向けてアズは言った。
この中で三人の実力をきちんと把握出来ているのはアズだけである。
何が出来て、出来ないのか。互いに把握することは重要である。まぁこんな所でやらずに外で済ませておけという話だが何分、ミルドレッドは面倒を嫌う。理由もなく魔法をひけらかすような真似はしない。
「待てアズ。そういうことならミルドレッドの腕前を見せてもらいたい」
「あぁ?」
故にマリオンがそう言うのは想定内であった。
このパーティーの一番の問題は、マリオンとミルドレッドの不和である。
その解消として、実力だけでも背中を預けるに値すると思ってくれれば幸いであった。
「アズは言うがな。私はまだお前を認めた訳ではない。アズが! どーしてもと言うからだな! こほん。アズの為、アズの為に嫌々貴様と組んでいるのだ」
「あーはいはい分かった分かったよ」
ちらりと、マリオンに何かを期待する目線を向けられたが、アズは意図を理解していないようで、マリオンはがっくしと肩を落とした。
「はぁ……」
「くく、残念だったな。──んじゃま、久々の実戦だ。軽く肩慣らしといくか」
そう言ってミルドレッドはマジックバッグから、大きさ以上の長い杖を取り出した。
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