親友
「それで、後ろの二人は?」
「紹介するよ。剣士の方がマリオンさんでこっちの子はブレア。蓮天道の
「え、マジで? 蓮天道の人間が何で? ……ま、いいや。何か話したいことがあんだろ? 茶ぐらいは出すから来いよ」
そう言ってボサボサ頭のミルドレッドは奥の部屋へと引っ込む。
通された部屋は錬金用の実験道具や床に魔法陣が描かれていたりと、先程の部屋より魔法使いらしさを感じる部屋だ。……依然として雑然としてはいるものの。
「ま、適当に座ってくれ」
「座れと言ったって……」
床にはぎっしり平積みされた本と使い道の分からぬ道具が転がっており、マリオンとブレアが戸惑っているとアズがどこからか椅子を持ってきた。かつて知ったる何とやらである。
「ミリー。錬金具でお湯を沸かすのは止せって言ってるだろ?」
「へーきへーき。これ使ってないやつだから」
「洗ってないの間違いだろ? ……俺が淹れ直すから、ミリーは茶菓子でも出してくれよ」
「ふ。俺の家にそんな上等なもんがあると思うか?」
「……自慢げに言うことじゃないだろ。はぁ、外に採った薬草を積んであるから、それで要るのと要らないのを分けておいてくれよ」
「お、マジか⁉ いやー、やらなやらなと思ってたんだが面倒でなー。サンキュー」
「五割は貰うからな」
「ご──っ⁉ おま、それは取り過ぎだろ⁉ せめて三割だろうが⁉」
「換金してきてやるって言ってんの。家賃、滞納してんだろ?」
「……オネガイシマス」
ゴチャゴチャの中でアズはどこに何があるか分かっている動きでテキパキと動いている。
その間も久しぶりにあった友人との会話は続けている。
(なんだかアズさん、嬉しそうですね)
(親友と言っていたからな。まぁあんなものだろう)
アズの用意してくれた椅子に腰掛け部屋の隅、マリオンとブレアはコソコソと会話をする。
忙しなく動くアズの横顔は文句を垂れつつも嬉しげで、そのことに胸がモヤる二人。
アズに言われた薬草の分別に、ミルドレッドが面倒そうに頭を掻きながら館を出ていった。
「なんか、すいません。あんなヤツで」
申し訳無さそうな言葉と共にアズが茶を渡してきたので受け取るマリオンとブレア。
ブレアがちびりと一舐めすると、味は変哲のない紅茶であった。
「だらしのないヤツでして。魔法の知識と腕だけは確かなんですけど」
「……人格の方はどうなんだ?」
先程ミルドレッドが館を出る際、目の前の二人を通り過ぎる際に向けてきた横目は、アズ以外には一切の興味を持っていないという目だった。
「えー、まぁ。変わり者、ですかね? 悪党ではないですよ」
もしミルドレッドの態度がアズとそれ以外で明確に異なるなら、アズの評価はフィルターが掛かっている可能性が高い。
マリオンはお茶を傾けながら、もう一度部屋の中を見回す。
(何をしている人物なんだ?)
壁中に貼られたメモはミミズののたくった様な字で解読が出来ない。
そして整理整頓という言葉が辞書に無いのだろう。部屋の惨状から、興味の有る無しで熱意そのものが変わる男の性格を垣間見た。
そんな二人の物珍しげな視線にアズが気付く。
「アイツは確かに過去冒険者をしてましたが、普段は研究者をやってまして」
「どういった研究なんです?」
「うん……、それが俺もよく分からなくてね。魂と波動の関係? それが魔法に及ぼす力だとか」
「アズさんでも知らないんですか?」
「と言うより分からない、かな。何せ魔術学会でも異端認定されて追放されてるようなヤツだし」
「それは……、大丈夫なのか?」
魔術学院を卒業した者の大半が所属する学会を追放されてるとは、随分穏やかじゃない話だ。マリオンは眉を潜めた。
「ハハ。それがミリーのヤツは「頭の固い老害どもが、魔法の発展を阻害してると何故分からん!」ってブチギレて自分から出ていった身でして」
笑いながらアズは茶を啜る。
聞けば聞くほどに変人である。
「うへー、久々に運動したわ。おーアズよ。出て右側の方の薬草は持っていって構わんヤツだからな」
「うん、分かったよ」
そうこう話していると、手を泥で汚したミルドレッドが戻ってきた。
そう成ることが分かっていたアズがミルドレッドにタオルを渡す。彼は当然のように受け取り手を拭くと、当然のようにポイと投げ捨てた。
そしてこれまた当然のように腰掛けて当然のようにアズの茶を受け取る。……家主なのだから最後に関してはおかしくないのだろうが、横暴が過ぎないか?
マリオンはこの時点でミルドレッドという男を好意的には見れなくなっていた。
「ミリー。お前まだあの馬鹿高い家賃を払ってるのか? 絶対ボラれてるぞ?」
「そうは言うけどなぁ。王都でこうまで好き勝手させてくれる人は他にいないぜ?」
「……本題に入ったらどうだアズ」
久々の親友との再会である。
積もる話もあるのだろうが、放っておくとまた世間話に花を咲かせそうな流れを感じ取り、マリオンは舵を修正する。
マリオンの口調に僅かな不機嫌を感じたアズは、面目無さそうに苦笑した。
(くっ! 違うんだぞアズ⁉ お前が悪くないのは分かっているが、……ここの空気はあまり長いしたくない)
嫌悪感を抱くマリオンと違い、好奇心旺盛なブレアは未だ目を輝かせて部屋を眺めていた。御山に篭っていた少女には、ただでさえ世俗の物が珍しく映る。この部屋は彼女にとってお宝が沢山転がっているように見えるに違いない。
「そうだな。話したいことは沢山あるけど早速本題に入らせてもらうよ」
「なんだよ、せっかちなヤツだなぁ。久々の再会なんだからもっと会話を楽しもうぜ?」
アズの茶を啜りながら、ミルドレッドはぶー垂れる。
それをゆっくりと、アズは首を振った。
「ミリー。俺のパーティーに入ってくれないか?」
「あん?」
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