B-45

 小さな小包を受け取った紡は、ゆっくりと…小包をあけていった…。


「…えっ…り、凌空…?!」

「…な、なんだこれ…?!」


 小包に入っていたのは…父さんからの手紙と何枚かの写真…そして、紡名義の通帳と印鑑…。


 紡は写真に手を取り…俺にも見せてくれたんだ…。

 そこに写っていたのは、父さんと母さん…そして、まだ2歳の俺と産まれたばかりの紡の写真…なんだよ…4人とも、笑ってるじゃないか…。


 その他にも、無邪気に料理をする紡の写真や母さんと父さん、そして俺の3人で写った写真まで…中には納められていて…


 どうして…どうして母さん、父さんは…何も教えてくれないまま俺たちを置いていってしまったのだろうか…。


 全く理解が出来なかったんだ…だって、こんなに幸せそうに…写真に写っているのに…


「…り、りぃ、凌空…ぼ…ぼぉ…く…」


 息を荒らげながら涙を流す紡を…大先生も見守るしか出来なくて…俺は、そっと紡の肩に手を回して…


「…大丈夫…隣にいるから…」

「…大丈夫…離れないし…側にいるから…父さんの思い…一緒に見てあげようなっ…?」


 呼吸を落ち着かせるために何度も何度も優しく肩をポンポンとしてあげたんだ…。


 もう1つ…残された手紙に、俺は手を伸ばし…紡に見せ…


「…父さんの思いと母さんの思いを…俺と一緒に読んでみよう?…一緒に…前を向いて進んでみような…?」


「…ゔっ…ゔんっ…」


 俺は紡の目の前で…手紙を開いてあげた…そこには…誰も知らなかった全ての真実が…綴られていたんだ…。


 ◇ ◇


 大きくなった紡へ


 紡、元気にしてるかな??

 この手紙を読んだ時、もしかしたら父さんはこの世にいないのかもしれません。

 だって、いればこんな手紙を書く必要も無いだろ?何かあった時のために手紙に記します。


 君は今、どんな子を好きになったのかな?

 可愛い女の子かな?負けん気の強い深結みたいな子かな?それとも、頼もしい男の子かな?


 父さんは紡が誰と付き合おうと拒みはしない。ただ、幸せでいて欲しいと願うばかりだ。


 だからもし、男の子と付き合うことになってもその子のこと絶対に傷つけないようにしてあげなさい。

 紡なら…大丈夫だよね?そして相手の人もきっといい人なはずだ。だってお前が愛した人だもんな?


 それと、大切な事を記すよ。

 君には2歳年上のお兄ちゃんがいる。

 名前は凌空、八神 凌空って言うんだ。


 父さんと母さんは、料理で人を喜ばせたい!その一心で2人でレストランを経営し始めたんだ。ただ、思った以上に上手くいかなくて…それと共に借金も出来てしまってね…母さんも身体が弱くて、どんどん経済的に苦しくなっていったんだ…。


 それでも、父さんたちの夢が叶わなかったとしても凌空と紡だけは、幸せに育ててあげたいと父さんたちは思った。


 でも…現実って残酷で…もう首が回らないところまで来ていたんだ…。色々考えたけれど父さんと母さんは離婚することにした。


 別れたとしても、父さんは紡をどんなときも守り抜き、母さんは病と戦いながらもおばあちゃんとともに凌空を守り育て上げようってお互いに誓ったんだ。


 2人を会わせてあげたいとも何度も考えた…でもね…そんな余裕…父さんと母さんにはなかったんだ…。


 恨んでくれてもいい。

 墓参りになんてもう行かない!

 もう好きにすればいいじゃん!

 父さんも母さんも大っ嫌いだ!


 そう思われても仕方ないのは、父さんも母さんも重々承知なんだ…。紡、凌空…幸せに出来なくて本当にごめんなさい…。


 もし、この手紙を受け取った時に…まだ凌空に会えていなければ、きっと2人はどこかで巡り会うはずだから…


 仲良く、手を取って…家族として過ごしてくれることを父さんは願っています…。

 きっと…夏希…そう、紡のお母さんもそう思っているはずだからね…。


 それと小包に少しだけだけど、こっそり貯めたお金を入れておきます…紡の将来に役立てて下さい…。


 最後に…紡…?

 父さんな?お前のこと…本当に大好きだった…なのに、こんな結末で本当にごめんな…?


 これからも…紡にたくさんの幸せが降り注いで来ますように…。


 父さんより


 ―――


「…ううっ…」

「…つ、紡…!」


「…うわああぁ〜ん!!な、なんで…なんで…!父さん…!…置いてかないでよ…!そばに居るって約束したじゃん…!!…と、父さんのこと、恨むわけ…ないじゃん!!やだ、やだよっ!!!」


「…もっと…僕に料理、教えてよ…!!…お願い…僕の側にいてよぉぉっ…」


 紡の口からは、今まで…ぐっと抑え込んでいた父さんへの気持ちがどんどんと溢れ出てきたんだ…


 大先生は、涙を流しながら見つめるしか出来なくて…俺もそのまま…紡をギュッと抱きしめて頭を撫でてあげるしか出来なかったんだ…。

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