B-41

 俺は、大先生に食堂へ通されテーブルに2人で座った。


 そこからは、子どもたちと紡がワイワイとご飯を作る姿が見えて…そんな紡と俺も目が合って笑顔で手を振ってあげた。

 何とも微笑ましい光景だったんだ…。


「大先生…?お話って…」


 大先生のハッとした顔がどうしても気になってしまって… 珍しく俺から切り出していた…。


「…さっきはハッとしてしまってごめんなさいね?」


「…いえ」


 大先生はゆっくりと話し始めてくれたんだ…


「あなたの顔を見て…驚いてしまったの…紡のお父さん、松本 大輔さんは知ってる?」


「はい…最近、知りました…」


「そう、ちょっとビックリしたのはね?あなた…大学時代の彼にそっくりなのよ…」


(やっぱりっ!…そんなに…似てるんだ…)


「そうでしたか…似てる事は、紡にも言われた事がありました…大学時代をご存知ということは…大輔さんはよくここに来られていたんですか?」


「よくでもなかったけれど…大輔くん達がいた料理部のみんなは、という名目で色んな児童養護施設に顔を出しては、子どもたちに料理を振舞ってくれていたの…」


「その時の印象が忘れられなくて…今でもその時の写真を大事にしているの…忘れもしないわ…あの笑顔と温かい優しさ…」


「…そうですか…」


 父さんの心は、紡のような温かい心を持った人だったんだな…誰からも好かれるような優しい気持ちの持ち主…紡のまんまじゃんか…。


「…あまりにもそっくり過ぎだから…ビックリしちゃったの!」


「…大先生…」


「それと…大輔くんの近くにいつもいたのは夏希ちゃん、八神 夏希ちゃんだったの…2人とも…ほんとに仲良しだったわぁ!」


(…やっぱり…間違ってなかったんだ…)


「あ、ごめんなさい!私…なんか変なこと言っちゃったかしら…?」


「い、いえ…その…大輔さんと夏希さんはお付き合い…されてたんですよね?」


「そうよ?夏希ちゃん、ここに来てくれた時から身体が弱くて…それを子どもたちに悟られんばかりに強気でいたけれど…それを支えていたのは大輔くんだったみたい…」


「…2人とも幸せそうだったわ〜!結婚する時までちゃんと報告してくれたんだもの!」


(………)


「なのに…大輔くんが亡くなっちゃって…夏希ちゃんとも連絡が取れないし…前は2人で来てくれていた施設に…舞い戻ってきたのは紡だけだったから…」


「私が知っている2人は…ここまでで止まったままなの…」


 大先生の言葉が切なくなっていって…俺の手も自然と震えていた…そして、大先生は俺たちが兄弟ってことまでは…知らないんだ…。


 大先生には、事実を伝えないといけない気がしたんだ…そして父さんと母さんも…きっとそれを望んでいる…


《大先生…!僕たち、私たちの…子供たちなんです!》


 父さん、母さん…?きっとそうやって本当は…大先生に紹介したかったはずだよな…?


「凌空くん…?大丈夫…?」


 心配そうに俺の顔色を伺ってくれて…俺は勇気を振り絞って…言葉を紡いだ…。


「…大先生…」


「…うん?なに??」


「…驚かせてしまうかもしれませんが…俺の名前…八神…八神 凌空といいます…」


「…っえ…っ…」


「…八神 夏希の…息子なんです…」


「…えぇっ…!…う、うそっ…」


 俺が母さんの子だと知った瞬間、大先生は身体を震わせながら…


「…な、夏希ちゃん…夏希ちゃんはどうなったの…?」


「…俺が12歳の時に…亡くなりました…」


「…う、嘘…そ…そんなっ…!!」


 そのまま…大先生は、両手で顔を覆いながら涙を流したんだ…。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る