A-42

 ―数分後


 気持ちが落ち着いた僕は、時間を確認したくてそっと携帯に目を向ける。時間は、12時半前で部長から連絡も来ていた。


《凌空の歌声、素敵だったわね、流石よね…!ブースまで聴こえて来ていたわ!さて、看板息子ちゃん!落ち着いたら戻ってきて頂戴!お昼時で忙しくなってきて手が回らないわ~!》


 ああ、やばいやばい!!お昼時だもん、1番忙しい時に穴を空けせてもらっちゃってたんだっ!


「洸、ごめん僕、ブースに戻らなきゃ!」


「お、そうか!昼時だもんな!」


「今日もそばで支えてくれてありがとう…」


「気にすんなって!後で灯里やみんなで紡めし、食べにいくからよっ!美味しいの大盛りで頼むよぉ~?」


「わかった!ブースで待ってるね…!…じゃあいくね?」


「おう!!頑張ってこいよ!」


 僕は、涙をしっかり拭ってブースまで戻る事にした。急いで戻ってみるとライブ終わりに流れ込んできたファンや生徒がブースに押し寄せていた。


 こ、これはまずいぞ…?!僕は、急いで運営側に入り、エプロンと手袋を身につけて臨戦態勢に移ったんだ。


「看板息子ちゃん!やっと戻ってきた…!」


「部長、遅れてごめんなさい…!」


「大丈夫よぉ♪さぁ、頑張るわよ!」


 僕は、食べにきてくれるみんなへ精一杯、料理の提供し始めた。

 来てくれる人の中には、僕を肉まんちゃんや看板息子ちゃん呼びする人、僕目当て(?)の人も居たようでブースは大繁盛。


 い、いつから、ぼ、僕の印象って…こんな風に、なったんだろうか…と考えてる暇は全くなかったんだ。


 それでも、タッカンマリを食べて温まる~♪と顔が綻ぶ人やカップルでアーン♪なんて食べさせあっている光景。


 ジューシーを一口でパクッ!と食べちゃう男子生徒や持って帰ってからゆっくり食べよっ♪と嬉しそうに友達と話す光景。


 僕が見たかった光景が今、目の前で現実となっている。そう、みんながご飯を食べて美味しいと幸せな顔をしてくれる光景を僕は、ずっと見たかったんだ。


 僕は、その光景が嬉しくて疲れも知らずにピークが過ぎるまで食事の提供を続けていった。


 ◇ ◇


 ―ピークも過ぎ、体育祭もいい頃合いまで進んでいた。


「さ、流石に疲れたわね…」と疲れきった部長に僕は「本当に、ありがとうございました」と頭を下げたんだ。


「礼はいらないわ。紡のそういう礼儀正しいところもまた、可愛いってみんなから思われるのかもね?」


 なんて部長は、クスッと笑いながら僕を茶化してきた。もう!部長…!少し休んでてください!と頬を薄ら紅潮しながらも、ブースの受付を代わってあげたんだ。


 ―その数分後


「あー!!あそこじゃない!?」


「うんうん!紡~!!!!」


「もうだめ、腹減って死にそう…」


「はぁ…お前ら、大袈裟だな…」


 ブースに軽音部のみんなと洸が楽しそうに向かってきてくれた。


 みんな!いらっしゃいませ!と、僕は満面の笑みでみんなを受け入れたその時、僕は先輩とばっちり目が合ってしまい…僕の顔はすっかり煮えたタコのように赤くなってしまった。


 そんな僕を見て、みんなニヤニヤしながら先輩から少しだけ身を引いて、先輩と僕だけの空間になった…。


 洸なんか、無言で顎をクイクイっとしながら僕に向かって『喋ろよっ!』と口パクをかましてきたんだ。


「り、凌空先輩…!本当にカッコよかったです…///」


「ああ、ちゃんと聴きにきてくれてありがとな…?///」


「の、喉は大丈夫ですか…?」


「少し枯れたぐらいで、大丈夫そうだよ」


「よ、よかった…!あ、そうだ!喉、温めた方がいいと思うのでタッカンマリ食べませんか?」


「そのつもりで来たよ?」


「…っ…!い、今、用意しますね…!///」


「…それと…」

「え、それと…?」


 この後の先輩の要求に僕の心はまた、彼に鷲掴みにされてしまう事になるんた…。


「ジューシーは握ってくれるんだよな…?」


「ええ、一個ずつ握りますよ…?」


「な、なら…手袋、外してくれないか…?」


「…えっ!!?///」


「つ、紡の温もりで握って欲しいんだよ…///」

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