第37話

 



 王太子の成人と誕生日を祝うパーティーは、偽りの笑顔が溢れております。

 フローラが王家の護衛に連れて行かれ、王太子は私の横に座っております。一度下げられた椅子は、私が座る為に戻されました。


 そして王太子がパーティーに参加している間に、フローラの部屋は敷地内にある小さな屋敷に移されました。

 2代前の王が妾を囲っていた屋敷です。今回の為に掃除はいたしました。

 ただし、メイドは一切付きません。


 部屋の掃除等は一週間に一度、王宮から派遣されます。子供が乳離れするまで限定です。

 料理は王宮で作られた物を運ぶので、温かいものも冷たいものも、同じ温度になってしまう事でしょう。

 メイドと同じものですが、平民よりは豪華です。

 子供が育たない事は無いでしょう。



 今までとは全然違う生活ですが、生きていられるだけ幸せですわよね?



 子供は、父親が誰か知らないで育ちます。

 ある程度判断出来るようになったら、市井の孤児院へ行くか、王宮の下男になるか選択させましょうか。




 今日は、私と王太子の結婚式です。

 とても病弱でいらっしゃるので、この次に公の場に出るのは、王位継承の儀と次代への継承の儀になるでしょうか?


「王太子様、今日の体調はいかがですか?」

 王太子へと問い掛けます。

 何も返答はなく、目だけがギョロリとこちらへ向きました。


「まったく声が出ないのは困りましたね。薬を少し飲ませますか?」

 前から薬関係には強いネイサンです。

「あら、ギリギリじゃないと暴れたら困りますわよ?」

 私よりも先に結婚したカレーリナが、旦那であるネイサンと同じ笑顔を浮かべます。

「私が支えて歩きますから、最終手段として声真似しますよ」

 タイラーが学生時代から変わらない笑顔で笑いました。


「アンシェリー。学生の頃から懸想してた男を哀れに思うなら、誓いの言葉を言わせてやりなよ」

 ネイサンがとても良い笑顔です。爽やかなのに黒く見えます。

「違う男の名前でも良いのですか?」

 思わず私が言うと、「そこは脳内変換してあげて」とからかうように笑われました。


「初夜も済ませてから、のですよね?朝食はどうされますか?」

 結婚してからも、私の侍女を続けているカレーリナがに問い掛けました。


「いっそのこと、一週間位子作りでこもったらどうだい?」

 サンドラの付き添いで来られたローガン様が提案してきますが、それはご自分達の子供と同じ年に王家の子供が欲しいからですわよね?

 サンドラは、つい先日妊娠が判明したのです。

 本当に今回は幸せそうで、安心しました。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る