第7話

 



 入学式。

 とある侯爵家の令嬢が王太子よりも後に学園へとやって来ました。

 式が始まる直前です。

 泣きながら会場へ入って来た令嬢は、自分の制服を行儀見習いに来ている子爵令嬢が着て学園へ向かった為、急遽新しい物を購入してから来たと言い訳をしていました。

 当時は「なぜ、すぐにバレる嘘を?」と、思っておりました。


 なぜなら、普通高位貴族であれば、制服は何着も用意しているからです。

 1枚くらいなくなっていても、通常は大丈夫なのですが、この従者の慌て方はおかしいですね。


「お話を聞いてあげて」

 一緒に馬車に乗っていた侍女見習いであるカレーリナへ声を掛けます。

 彼女は伯爵家の三女で、公爵家へ行儀見習いに来ています。同じ学園へ通うので、これからは一緒に通う事になります。

 前の人生では居なかった人です。

 これからは常に行動を共にし、私の行動のになってもらうつもりです。



「侯爵令嬢の制服を全て、勝手に子爵令嬢用にサイズを作り直されてしまっていたそうです」


 扉越しにカレーリナが話を伝えてきました。

 そのような事がありえるのでしょうか?

 昨夜までは確かに、侯爵令嬢のサイズだったそうです。

 それが今朝になり、全てスカートが短くなっていたそうです。


 うちの公爵家もそうですが、ここの侯爵家も制服はドレスとは違うクローゼットに保管しているのかもしれませんが……。

 制服とドレスでは、保存方法が違うのです。

 高価なドレスには真珠や宝石など、湿度や温度管理が必要な繊細な物が付いている場合が多いからです。

 私の学園の制服も、カレーリナの学園の制服の隣のクローゼットにあります。

 それでも侯爵家用と子爵家用では、見た目は同じに見えても生地が違うので間違うはずはないのですけれど……。


「私か貴女の制服は入らないかしら?」

 馬車に置いてある、制服を入れてある箱を見る。

 何かあった時の為に、私用は2枚、カレーリナ用に1枚入っている。

「渡してみましょう」

 馭者ぎょしゃを通して制服の件を伝えている間に、カレーリナが制服を用意します。

 ドレスと違って余裕を持って作られているので、余程体型が違わなければ大丈夫でしょう。



 切羽詰まっていたのでしょう。

 侯爵家の従者は、主人の了解を得る前に制服を持って行きました。

 でもそれが正しいのです。

 公爵家の馬車に遭っていなかったのに、入学式には間に合わなかったのですから。

 頼りない記憶ですが、あの時の令嬢なら私かカレーリナかどちらかの制服で入るはずです。



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