第2話

 



「フローラは私の子供を宿している!それを殺そうとしたという事は、王族殺しでもあるという事だ!」


 側妃は結婚式をしない事も多い。

 特に下位貴族が相手の場合は……

 それでも普通は、正妃になる私に対して何らかの連絡があるはずなのに、それすら無かった理由はこれなのですね。


 正妃より先の側妃の懐妊。


 後継者争いの火種にしかならない案件。

 後ろ盾もない子爵令嬢が第一子を生むリスク。

 貴方達は私が居なければ、第一子を生む令嬢を正妃に出来ると思ったのでしょう。

 しかも、正妃候補の私の方に非がある婚約破棄となれば。



「私には、覚えのない事でございます」

 正直に答える。

 私は彼女が妊娠している事も知らなかったですし、彼女が側妃に上がる事も了承しておりました。

 彼女を害する理由が無いのです。


 王太子様を愛しております。

 ですが、彼を独り占めできるなどと考えるほど愚かではございません。

 私は正妃として後継者生み、正妃として王太子様を、いては王国を支えられる事を誇りとして生きる事に決めておりました。


 だから、辛い王妃教育にも耐え、王太子様の時に理不尽な要求にも応えてきたのです。

 本来ならば王太子様がやるべき事が私の方へ回されても、「将来お前は俺を支えるのだから、今から覚えておけ」と言う王太子様の一言で耐えました。


 王妃教育に王太子様の業務、側妃となる子爵令嬢の教育、学園の勉強に課題。

 全てをこなし、自分の自由になる時間を全て犠牲にして頑張ってきたのに、得られた物は冤罪ですか。


 王太子様が自ら陣頭指揮を取って行った冤罪のなすりつけ。

 どれほど反論しても、嘘の証言や証拠が出て来るのでしょう。

 こっそり視線で家族を探すも、会場のどこにもおりません。


「娘が犯罪など犯すはずがありません!ちゃんと調べてください!」

「長年に渡り王家を支えてきた公爵家に対する最後の仕打ちがこれか!」

「お姉様は清廉潔白な方です!」


 遥か遠い場所から声だけが聞こえた。

 扉の閉まる音が妙に大きく聞こえ、家族の声が聞こえなくなった。

 何て愚かなのでしょう。

 たかが子爵令嬢を娶りたいが為に、王家の忠臣である公爵家そのものを排除する気なのですか!



「王族を殺そうとしたお前とその一族は、全て処刑する!そして後継を産む彼女を正妃とする!」


 婚約破棄だけではなく、処刑!?

 しかも一族郎党全てですって?

 それは、自分に非があると認めているような物ではないですか!

 後々調べられて、反逆されるのが恐ろしいからではないですか!

 何も言えず立ち竦む私を、王太子とその傍らの女が勝ち誇った顔で見下ろしていた。



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