4話 メンバーカラー黄色 ヒロの証言①
【アスタリスク メンバーカラー黄色 ヒロ 松蒲公英 の証言】
コウと初めてに会ったのは、オーディションに受かり、初めてレッスンに参加した日だった。
SNSに「これからレッスン!」とか芸能人らしい事を始めて投稿出来て浮かれたのを、今でも覚えている。
そしてその浮かれた気持ちが、レッスンが始まって10分もせず地の底に落とされた事も、今でも思えている。
ダンス経験は高校時代、お遊びでやっていた部活程度だったけど、それでも学校内で一番上手い自信があったし、素人にしては才能があると思っていた。
でもコウは、そんなレベルじゃなかった。
あまりの自分との違いに「天賦の才」というのはこういうものなんだなと
高校生以来に言葉の意味を学ぶ事になった。
正直アイドルの安っぽいダンスなんてさせるのは勿体ない。
ダンサーとしてだって十分プロを目指せる程だ。
一緒に踊れば俺やセイの様な殆どダンス初心者は、お遊戯会に見えるし
アイやレンの様な経験者とですら、上手すぎてバランスが取れなかった
ここまで来るとグループとしては武器というより異物だった。
当初、事務所はコウのダンスセンスを見込んで他に「そこそこ」踊れる奴らを集めて
ダンスメインのグループにするつもりだったらしい。
だが、実際に踊らせてみた結果、この実力の差では無理だと判断したようで
そこから急遽、歌メインに切り替える事にした。
全てがコウ主体なのは不満があったがダンスより歌の方が自信があった俺はその決定を喜んだ。
そして初めてのボーカルレッスンの日
「俺、田舎育ちだからカラオケとかもあんました事なくて……足引っ張ったらごめんな」
と困ったような照れ笑いをしながら言うコウに俺は内心、恥をかけばいいと思った。
別にダンスの事をコウから直接馬鹿にされて訳じゃないのに、見下されてる気がしたから
こっちも何かコウを見下す要素が欲しかった。
カラオケには自信があった俺は完全に勝ちを確信した。
でも、コウは歌も上手かった。
確かにカラオケは殆どしたことがなかったが、子供の頃地元の聖歌隊に所属していて
発声の基礎は出来ているし、何より声が良かった。
コウは少し歌い方を直された程度で指導が終わったが
反対に俺はカラオケで点数を取るための変な癖が付いていると、一番長い時間がかかった。
もうそのレッスンが終わる頃には、俺の中にあったなけなしのプライドは跡形もなく砕かれて、すり潰されていた。
ここまで差があると、嫉妬も通り越して諦めだ。
これでせめて性格が悪くあってくれれば、少しは違ったのかも知れないが、アイツは良い奴だった。
常にメンバーを気遣っていた。
面倒見の良さの理由を聞いたら下に兄弟が居るからかな?と言っていた。
その時の照れ笑いですら絵になるような完璧さで
俺は心の底の対抗心に死刑宣告を言い渡された気分だった。
でも、俺達はコウの性格の良さで迷惑する事態になった。
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