PM18:45 ~その頃の柚月~
「ふふふふ……」
都内某所。柚月家が借りるマンション、の、柚月の部屋。
主の奇行が常態と化してしまったその部屋で。柚月は一人、ひたすらに笑っていた。
にやけ倒していた。
「んふふふ……えへへー」
にったらー、と、蕩けた頬が元に戻らない。そもそも当人には、顔が溶けている自覚すらない。
(そっかぁ……真山くん、やっぱり女の子と付き合ったことないんだ。良かったぁ)
満ち足りた気持ちで、ゆったりとベッドに横になって。
「――違う!!!! 何今の!? 何、『良かった』って!! 何を喜んでるの、私は!?」
これじゃ、まるで。
「あー!! あーううあああ、あー!!」
それ以上は、たとえ頭の中でも口に出したくなくて、柚月は床を転がる。一連の動作も、最早慣れたものだった。
「違う違う違うー! こんなはずじゃないもん! そういうんじゃない! 私はあいつのことなんて、なんとも思ってないんだから……!!」
……だって、そうじゃないと。
『――僕たちはまだ、子供だから』
ぎゅっ、と無意識に両手を握りしめていた。
転がるのをやめて、柚月はその場で体を丸める。頭を過った嫌な記憶を、押しつぶしてしまおうとするように。
「……そうよ。もう同じ轍は踏まないんだから。そのために、ずっと頑張ってきたんだもの……!」
負けない、と、もう一度、呟くように口にする。何に負けたくないのかもあやふやなまま。
そのためには、勝負に出ることが必要だった。
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