PM21:10 ~その頃の柚月~

「…………ふふ」

 ベッドの上でスマホを眺めて。柚月の頬に、満足げな笑みが浮かぶ。

 画面に映っているのは、アプリのプロフィール画面だ。見事聞き出すことに成功した、真山恭二のアカウント。

 アイコン画像もヘッダーもシンプル極まりなく、初期設定のまま。しかし、そんな飾り気のなさが彼らしい。「そういうの興味ないんで」とか、格好付けてる顔が見えるようである。きっとそれが恥ずかしくて、なかなか連絡先を交換したがらなかったのに違いない。『やっぱり子供ね!!』と、さらに笑みが深くなる。鼻歌なんかも出てしまう。

「ふーふふふー♪ ふんふんふー♪」

 しばらく、柚月はスマホを掲げてニッコニコとしていたが。

「――ハッ!? 違う!! そうじゃない!!」

 ガバーッ、と飛び起きて、ベシーン、とスマホをベッドに叩き付けた。そうではない。こうではない。

「なんっっっっっっっで私が喜んでるの!! これじゃ私があいつの連絡先を聞きたくてしょうがなかったみたいじゃない!! 違う違う違う!! 喜んでないし!! 嬉しくないし別に!!」

 なんか知らんけどとにかく腹立たしかったので、とりあえず、手近にあったぬいぐるみをベシンベシンする。

 ……そう。これも全ては、あの男に一泡吹かせる遠大で深淵な作戦の一部なのだ。……ちょっと意味が違う気もするけど、細かいことはいい。

「ふっふーん。見てなさい、真山恭二! まんまと私に連絡先を渡したのが運の尽きなのよ! 今日という今日こそ、私のすごさを思い知らせてやるんだから!!」

 早速準備に取りかかる柚月を、べこべこにへこんだぬいぐるみが、恨めしそうに見ていた。

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