【写武者】 中の七
そろそろ頃合いだろう。刀を手に怪異に斬り込む。
その様子を見て、待ってましたとばかりに嬉々として【写武者】も真っ赤に染まった刀を振り翳し、此方に向かって来た。
案の定、私の攻撃は相手の見事な剣術によって止められる、が。
「っ!?!?!?」
言葉を発しない怪異だが、刀と鎧の動きから動揺が伝わってきた。
それはそうだろう。武器同士を接触させても私が弱体化せずに、いつまでも同等の力で抵抗してくるのだから。
このままでは奴もマズイと思ったのか、一旦刀を引き私の首を狙って再度攻撃を仕掛けようとして来たので、此方もすれ違いざまに切り裂いた。
鎧の僅かな隙間……奴の首に刃が入り、弾力のある肉と硬い骨の感触を刀を通して感じ取る。
……この刀は確かに抜群の切れ味を持つが、それは最初だけ。何度も刃を酷使させたり汚れたりすると、次に手入れされるまで切れ味は落ちてゆく繊細な物だ。
つまり本来この武器は、隙を見つけて一気に斬り込む事に特化した、いわば短期決戦向けの物。
【写武者】の刀は、悪戯に太腿や脇腹などの大量出血しやすい所を攻撃し、無闇に振り回した所為で、乾燥した私の血と脂で汚れていた。もはや刀では無くタダの棒切れに近い。
その証拠に、相手の刃は私の首の薄皮を軽く裂いただけで終わった。
それだけでは無い。汚れでコーティングされた事により刃同士の間に壁ができ、条件が満たせず怪異としての能力も使えていないのだ。
「真っ当に剣の道を歩んだ者は、自分の武器の性質を理解した上で一緒に強くなるんだ。……お前の力は所詮、借り物だったな。」
一拍置いてから、ゴトリと背後で重い物が転げ落ちる音がした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
【写武者】と冠原さんの剣戟は、目で追うのが精一杯な程の速度だった。
思わず、声が漏れる。
「……か、かっこいい!!!」
冠原さんの見事な刀捌きによって【写武者】の首が転げ落ち、残された胴体から血が噴き出していく。
ぐぉああああああああっ!!!!
身体の何処から出ているのか分からない地鳴りの様な叫び。小さな滝の様に勢いよく流れて鎧を赤く染める血。冠原さんの手の中で月明かりに照らされて光る、紅い刃。
「怪異よ、その能力(ちから)と共に我の糧となれ。」
刀を構えた冠原さんが唱え、既にボロボロな【写武者】に、最期の仕上げとばかりに腹に突き刺す。呻き声と共にその姿は砂の様に消散し、冠原さんの刀に全て吸い込まれていった。
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