第80話閑話 祖母君side
なんという悲劇。
私の最愛の娘が生んだ皇子が今日、尊い御身から下賤な臣下にと降りてしまわれる。
神から愛されたかのような美しさと天賦の才能をもつ
このようなことは有り得ない。
いいえ、分かっているのです。
娘は身分低き更衣。
桐壺帝の寵愛を一身に受けていたため、それを妬む妃達から疎まれた上に数々の嫌がらせを受ける哀れな
皇子が三歳の夏に病状が急変し、命を落としかねた時に、神が娘を助け見事に病が回復させてくださった。あの時はどれほど嬉しかったことか。それなのに、母の身分が低いために東宮にはなれないなど……なんと哀れな二の宮でしょう。しかも
ああ、我が家の悲劇は夫、按察大納言が死去した頃に始まっていたのかもしれません。夫が急死し、一人息子が理由も言わずに出家してしまったことで我が家は没落の一途を辿り始めてしまったのです。
私に残された一人娘。
夫の遺言で娘を入内させるべく尽力し、娘は一族再興の期待を背負って入内していきました。しかし、後宮では後ろ盾が無いこともあり、局として清涼殿からもっとも遠く不便な淑景舎の桐壺を与えられたことから、帝の寵愛はないものと落胆していたのです。ですが、そのような不運にもめげず娘は帝の寵愛を頂きました。それも一時の戯れではなく、長く続く寵愛だったのです。数多の女御や更衣を押しのけて、帝の愛を一身に受けた娘はほどなく懐妊し、玉のような男宮を産んだことは実に目出度い事でした。娘の強運はまさしく前世の徳を積んだからこその出来事でしょう。
生まれた二の宮と共に帝からの愛は増すばかり。
成長した二の宮は美しさもさることながら天賦の才覚を発揮されたのです。
次代の東宮にと噂されるまでに。
なのに……何故、臣下に降りなばならないのですか。
世間では「後ろ盾がないせいだ」と噂されております。
なんとも愚かなこと。
左大臣は何をしているのでしょう。
何故、二の宮を『親王殿下』としてお支えしないのか。
二の宮が固辞したのでしょうか?
謙虚な二の宮のこと、兄である一の宮に対して遠慮があったのかもしれません。
ああ~~~~~。
一度、臣下降格してしまえば、もう皇族には戻れません。
帝の地位になれないのです。
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