第70話男だから女だから

本妻としての威信を賭けた『うわなりうち』。

それをするのに一ヶ月かかったのには訳がある。


この時代、女人が夜中に出かける行為を禁じられていた。

別にダメって事は無いけど基本出掛けてはいけない風潮が漂っていたのだ。まあ、電気もない時代は月の灯が頼り。牛車で出かけるにしても松明がいる。はっきり言って物騒なんだよ。夜盗に出くわして身ぐるみ剥がれて殺されておかしくない位にね。それに……。


 

「困りましたわ。女房達は顔を曝すことを嫌がっているわ」


さもありなん。

平安時代の女達は基本顔を隠している。男に姿を見られることを「恥ずかしい行為」と思っている。どうも内裏で暮らしているとそういった事を忘れがちになっちゃうんだよね。


「世の女人たちにとって顔を曝すのは非常識だからしょうがないね」


「光、勘違いしてません?」


「え?」


「別に女房達は『恥ずかしい』と思っている訳じゃありませんよ?」


「違うの?」


「我が家の女房達は才色兼備揃いよ!寧ろどんどん隙間から除いてその良さを世間に広めて欲しい位だわ!けどね、流石に暴力行為をやらかせば評判はがた落ちよ」


暴力行為の自覚はあったんだ。


男が表の外で活躍し、女が裏の家庭で活躍する。

女性は男性と違って家に縛られていて自由がない。平安時代の女性は顔を見せる事も出来ない有り様。男尊女卑も甚だしい……と思っていたし、歴史的にもそうだと思っていた。物語の中とはいえ平安時代に生きていると、どうも少し違ってくる。四の君が言うように、宮中に出仕している女官や公家に仕えている女房達がいい例だ。顔を隠して仕事なんて出来ないもんね。



「なら、女房達じゃなくて男の家人を連れて行けば?」


何も「女」が表立ってやる必要はないもんね。

危ない事は男にやらせとけばいい。


「それはダメよ。こういった場合は『女』がやるから効果があるのよ」


「どっちがやっても結果は一緒じゃない?許可書を貰ってるから『罪』にはならないよ?」


「光、甘いですわ。こういった事をしでかすには『男』よりも『女』の方が効果覿面こうかてきめんなのよ!寧ろ『か弱い女人』がするからこそ効果があるといった方がいいわね。それに万が一『許可』がにされたとしても『女』を罪に問う訳にはいかない。そんなことになったら『男の沽券にかかわる』事態ですもの」


クスクスクス、と目を細めて笑う四の君。

僕には今一理解できない。破壊活動なんだから男だろうが女だろうが同じように「罪人」としてお縄になるのが常識だ。それが「女」だから「無罪」になるって訳でもない。


「分からないという顔ね」


あ、バレてた。


「うん。どう考えても理解できないよ。罪としては同じように重いものだ。検非違使 が『女人だから』といって見逃すとは思えない」


ここら辺は男女平等だ。「罪」は「罪」として裁かれる。


「『力なき女人』が『男の家人』がいる屋敷に押し入るのですよ?検非違使たちに素直に話すと思います?彼らは『男』として決して『女に負けた』などと口が裂けても言いません。そうなると検非違使たちは自然と盗賊に襲われたと勘違いしてくれます。検非違使にしても『男が女に力負けした』など思いつかないでしょうからね。私達、女人にまで手が回ってこない可能性が高いのです。仮に、疑惑を持ったとしても右大臣家の者を『疑わしい』という曖昧な理由で罪人にする事はできません」


なるほど。

男のプライドをつついての「完全犯罪」を四の君は目論んでいる。

女に負けた自分達を「男側」は認めることができない。ならば、どうするか。目を反らして「なかった」ことにするしかない。いやはや、何時の時代も女は強かだ。ああ!だからか!


「負けた側が妙な噂を流す場合を四の君は考えている訳だ」 

 

「そういう事です。卑屈になった者は何を言いだすが分かりませんからね」


「この場合、四の君の女房達がやり玉にあげられるって処かな?」


「格上の私に何か出来る訳ありません。彼らが狙うとしたら女房達の方だわ」


四の君は主人として仕える女房を守ろうとしている。うん、主人の鏡だ。


「なら、顔を隠して闇討ちすればいいよ!」 


 

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