第63話右大臣家の四の君


「式神召喚前に光が現れてしまったのか。それは残念だったね、四の君」


「まったくですわ!折角、野良の犬を捕獲しましたのに二の宮様のせいで全てが台無しです」


「す、すみません」


なんで謝ってんだろう…僕は。


「四の君、光を許してあげてくれないかい?偶々居合わせてしまっただけなんだから」


「偶然にしては出来すぎのような気がしますけどね」


たまたま。本当に偶然です!

僕は必死に首を横に振るい続けた。


「反省しているようですから、今回は許しましょう」


「ありがとう、四の君」


兄上のフォローもあって、少女のお許しを得た。


「光、改めて紹介するね。彼女は母上の妹君で、右大臣家の四の君だ」


少女は弘徽殿の女御様の妹か。

どうりで凄い美少女な訳だ。

皆、お父さん似じゃなくて良かったね。


「ふふふ。四の君ですわ。仲良くしてくださいね」


楽しそうに笑う四の君は、弘徽殿の女御様とは違った魅力があった。

華やかな顔立ちに、悪戯好きな目元、さくらんぼうのような口。


「こちらこそ、よろしくお願いいたします」


基本の挨拶は大事とばかりに、手を揃えて少し前かがみでニッコリスマイル。四の君の機嫌は随分と直ったようだった。後から兄上から聞けば、最初からあまり怒ってはいなかった模様。式神召喚の現場に居合わせたにしては、泣き叫ぶでもなく、腰を抜かすことも無く冷静な態度だった僕に、四の君が興味を持ち、からかっただけのようだ。


それにしても、あの狂気の現場犬の生き埋めに関与しているとは到底思えない美少女。気になる。


「ところで、は何だったんですか?」


初対面で既に聞いてはいたけど聞き間違いという事もある。


「あら?聞いてませんでした?勿論、犬神ですよ」


答えが普通に返ってきた。

クソ!

やっぱり聞き間違いじゃなかったか!!!

あっけらかんとしてるけど、それって呪詛では?


「え…と。呪いの?」


「はい」


肯定しないで欲しい。否定して欲しかったのに。悪戯を見つかった子供のように軽く受け流す姿は、ドロドロした呪いをしていた人物とは思えない。


「……因みに誰を呪ってたの?」


「私の夫です」


はい!?

夫?

何故?



「浮気性の夫でしてね。あっちへふらふら、こっちへふらふらと、蝶のように花から花へと渡り歩いているような男ですの」


「最低だ」


「ええ、最低の夫です。なので、時々呪詛をして懲らしめているんですよ」


すげー奥さんだ。

普通の女性は相手の女を恨み呪うもの。

流石、右大臣家の姫君。

他の姫とはひと味違う!


「呪詛すれば相手の命がないのでは?」


「あら、それは素人がすれば、の話です」


四の君はプロなの?

大貴族のお嬢様なのに?


「四の君は凄いよ。あらかじめ、形代人形を数百と用意しているからね。最近では、使役した式神も形代に出来るようになったみたいだから」


兄上の補足説明は有難いけど、式神の使役ってなに?

本当に出来るの?

その前に、大貴族のお姫様が呪術を平然と使いこなせる事に疑問しかない。



「左大臣家お抱えの呪術師たちは有能揃いですもの。呪詛返しなどお手の物です」


「それだけではないようだけどね。少将は聡い方だからね」


「聡い?」


「感が鋭いといった方がいいのかなこの場合?四の君が呪うのと同時に何かの気配を感じるようでね、直ぐに対策を立ててくるんだよ。光、そんな顔をしないでおくれ。四の君に夫君は大層悪運が強いお人だから大事には至らないよ。それに……少将はどうも女難の相があるみたいだからね」


兄上の言葉を理解するのに時間は掛からなかった。



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