第26話閑話 蔵人の中将side
なんだこの胸の高鳴りは……。
北山の姫君はまるで
戦の女神が乗り移っているかのように神々しいのだ。
ドスッ!!
姫君は長刀を地面に突き刺すと、再び声を張り上げる。
「聖域の最後の砦は我々だ!奴らは必ずやってくる!」
「「「「「「はい!」」」」」」
「畜生以下に慈悲は要らぬ!殺し尽くせ!」
「「「「「「はい!」」」」」」
凄まじい気迫だ。
姫君の闘志もさることながら、女人達の一糸乱れぬ行動。鍛え上げられた剣捌き。
ここまで結束力と統率力を駆使して集団をまとめ上げるとは並々ならぬ努力があったはずだ。
美しい……。
「ちゅーじょ、ほれた?(訳:中将、惚れた?)」
「な、な、なにを仰るんですか!二の宮様!」
幼い二の宮様が上目遣いで見上げてくる。
「こいにじゅかんはかんけいにゃいよ?ひめきみもじょうしゅきてきなひとじゃから、じゃいじゅおぶよ?(訳:恋に時間は関係ないよ?姫君は常識的な人だから、大丈夫だよ?)」
私は幼い二の宮様に気遣われている。
北山に来て以来怒涛の日々だ。
縺れに縺れた男女関係を間近で見て、父上が、この北山行きを反対した理由が分かった。
「ちゅーじょ、あいはせかいをちゅくうけどじょうじにほろぼす、きぃつけよう(訳:中将。愛は世界を救うけど同時に滅ぼす、気を付けよう)」
ああああああ!
二の宮様!!!
このように幼い身でありながら、それに見合わない賢さをお持ちなのも無理からぬことだ!
御両親が御両親なのだ。
桐壺の更衣様だけが理由でない事は今回の件でよく分かった。
二の宮様は子供ではいられぬのだ!
誰よりも早く大人にならねばならなかったに違いない!
無邪気な時など無かったのだろう。
なんと…憐れな。
私がこの幼くも賢い皇子の将来が少しでも幸多からん事を神仏に願った翌日、部下からの報告があがった。
主上一行の一部の者達が、今宵、北山の姫君たちが滞在する僧坊を襲撃する――というものであった。
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