弐 世界線β=0.99879546321≒1=α

第5話

第5話 - 1 タイム・トラベル

「へぷし」



「おい。黒川ヨウヘイ。何をしている。祈っている暇があったら問題を解け。この不届き者」



 え? あ、あれ?


「なんだ、解けんのか?」


「あっ、いえ、そういうわけではーー」


「では、ほらっ!」



 数学の沖田にチョークを渡される。そしてこの問題。



【問】f(x)=x2(1+e−2(x−1))とする。


x0>12のとき、数列{xn}をxn+1=f(xn)で定める。

このとき、limn→∞xn=1を示せ。



 違う。以前解いたのは不等式の証明だったはず。これは、テイラーの定理とか、か? あれ、まだ二年時じゃあ……。



「おい、黒川。東大の過去問だぞ? ちゃんと、予習してきたのか?」 


「え、あっ、はい。すみません……」


「まったく、しょうがないやつだな」



 他にできるやつは、と沖田は次の解答挑戦者を探した。そして、同時に私は窓の外を見て驚愕する。




 観覧車が無くなっていたのである。




 ※ ※ ※



「ヘイ様? 大丈夫ですか?」


「あっ、ああ。少し考えていてな……」


「はい、あーんですよ。ヘイ様」



 ユメに弁当の卵焼きを口に運んでもらい、それを咀嚼しながら考える。ふぅむ。さて、これはどうしたことだろう。何が起きたのだろう、と。


 

 私の記憶に残っているのはエデン・レイが本当の地球外知的生命体で、地球侵略を目的としていたこと。寸でのところで姫様に救われたこと。姫様がなにか手にしていたこと。その手の“”モノ“”から少女が出て、おそらく夢野根底であろう少女がレイにキスをしたこと。そして私が姫様の“”モノ“”によって何かしらの事象が起こり、現在に至った事。今は上履きの色からして第三学年。先程沖田から出されていた課題を見ても、それは明らかだ。私は三年次で、夢野は二年。私が夢野と話す時には敬語ではなく、タメぐちになっていること(これまでの敬語を使用した話し方をしたら、体調を心配されるほど驚かれた)。昼飯の前に秘密結社同好会に顔を出してみたが、既にそこは跡地となっていた。姫川桃子は既にこの学校を卒業しており、時が一年経過した事を示している。この奇怪な現象を聞こうにも、当の本人がいない。放課後に当てを探してみるか……? 



 仮に時間が一年経過した場所へ一瞬で移動したのだとしよう。

 


 タイム・トラベルだ。



 そしてここ数日で時間移動が可能だった人物、モノ・コトは無かっただろうか。ああ、思い当たるのは一人だけである。



 自称未来人の彼女だ。



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