第4話
第4話 - 1 報告
「ちょーーーっと、ヘイ!」
「何でしょうか姫様」
「『何でしょうか姫様』じゃないわよ! ぜんぶ保留じゃないの。何しに行ったの!」
「いや、しかしそれはこれから回収される伏線でして…………」
「伏線とかいいから! あと話難しすぎ! 最初の軽いノリはどこいった!? ヘイ!
「何でしょうか姫様」
「だから、もっと具代的な報告をしなさいって言ってるのよ! 」
「いえ、結構具体的だったかと思うのですが……注釈足りませんでした?」
「ち! が! う! もう、これじゃあ、誰一人正体を明かせてないじゃないの! しかもあなたも巻き込まれてるじゃない。がっつり渦中の中心人物じゃないの。何よ、もう」
超能力者にいずれ条件が整えば披露してもらえると意味深な言葉を貰い、未来人から最重視最重要課題人物に指定され、宇宙人もとい地球外生命体からは弟子入りされた。確かに、それだけ聞くとまるで物語の主人公のようだ。
「全く、これだけ面白そうなネタを三つも用意したのにほとんど収穫がないなんて。秘密結社同好会が聞いて呆れるわ」
ちなみに姫様は他にテニスクラブ同好会、姫川桃子同好会、雰囲気カクテル同好会を催している。新たに五つ目が立ち上がる噂もあるほどだ。暇なのですか?
「あっ、そうだ。それはそうと、今日はヘイにお客さんが来ているのよ」
「私にですか」
全校にファンを抱える姫様ならまだしも、私に来客とは初めてのことだ。任務で人と会うことはあっても、それはあくまでも任務。公的(?)か私的かは会ってみれば分るだろうが。
「ええ、私はいつでも構いません」
「そう。じゃあ、入ってきていいわよ」
姫様の合図があるやいなや、個室の扉が開き一人の少女が入ってきた。前髪がすっかり目を隠しており、その表情は見て取れない。しかもその態勢。片膝をつけて頭を下げる。まるで主君に仕えるクノイチのような振る舞い。スカートから見るに、当校の学生で、上履きの色から下級生のようだが……。
「黒川要黒です。ええと、はじめまして? かな?」
「はい。お初お目にかかります。
「はあ、どうも。ええと、私の漢字はーー」
「存じ上げております」
「そ、そうですか」
「この
「いや、知らないですね。夢野さんは、知ってくれているみたいだけど」
はじめましてと言っていたし、初対面だよ……な?
「お会いしとうございました」
へ?
「ああ、私の愛しきヘイ様。この日を待ち望んでおりました。不肖、私ネネはヘイ様の手となり足となる所存にございます。秘してはーー」
「えっ、ちょ、ちょと」
「我が身はヘイ様の領土、我が心はヘイ様のーー」
「ストップ! それ以上は著作権に関わる」
「はい、ヘイ様」
おいおい、そんな文言どこで知ったのだ。私がライトノベル通でなければ気が付かなかったぞ。いや、もう半分以上アウトな気もするが。
ふぅ、困ったなぁ。
いや、自分が相手を敬うとかは全然構わないんだ。しかし、相手からそれを無条件にされるとなると、どうにもむず痒くて嫌だ。しかも人間が嫌いで、人間関係が嫌いで、人間と関係になるということが嫌な私である。他人の秘め事への興味関心が尽きることはないが、それはあくまでも自分が第三者だからだ。当事者となるのは違う。
「姫様、ネネさんは新しい団員ですか?」
「必要ならばそうしてもいいわ」
「私以外に付けるのは駄目ですか」
「本人があなたを望んでいるじゃない」
「私はあまりこういうのは得意ではないというか……」
「ヘイ様。私は如何様に扱われようとと構いません。奴隷のように働くのも、お望みならば性奴隷となって奉仕するのも、また、よからぬ敵から守るなどでも構いませぬ。物事のように扱かわれて構いませぬ。お側につけさせていただければ、それ以外は望みません。何もするなと申されるならば、そのようにいたしましょう。命令とあれば一文字残さず遂行してみせましょう」
「いや、だから」
そんなに急に言われても。友達でも、同好会仲間でもなく、奴隷志望って。常識的な人間関係の作り方じゃ少なくともない。知り合いならまだともかく、初対面だ。何も知らない。何を考えているかわからない。恐怖のほうが大きいかもしれない。
「私が断ったら、ネネさんはどうします?」
「お願いします。ヘイ様。側に付けてください。これは運命なのです、ヘイ様。それ以外は望みませんから、どうかどうか」
「ほら、なんとかしなよヘイ様」
姫様まで。くぅ、この人に関わるべきでなかったと、つくづく後悔する。面白そうな人だと思ったんだと、好奇心のままに近づいたらばこれだ。使役するだけ仕えさせて、あれやこれやを調査。報告。まだ、謎や不可思議など、興味ある事柄だから良いものの……。
「お願い申し上げます。なんでも好きなようにお使い下さい」
ここまで頼まれると弱る。無碍にできない気になってくる。しかし、だからといって人を物のように扱えるほど私は人間が腐ってはいない。そんなことはしたくない。うーん、まあ、面倒ではあるが、害がないのなら。
「じゃあ、一時的に。同好会の活動のときなら、まあ、いいですよ。でも、邪魔になるようだったらすぐ関係を絶ちますから。そのつもりで」
「はい、ヘイ様。心してお側付かせていただきます。よろしくお願いします」
こうして私は、なし崩し的に美少女的宇宙人より先に同好会の弟子を付けることとなった。
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