多分これが一番早いと思います。

るなっぺ

第1話 [1分20秒]

 授業終了のチャイムが鳴ると同時に、教室を出る。

 階段を下り、昇降口に向かうのではなく、あえて上の階に上り、今は使われていない空き教室を抜け、そのままベランダまで通り抜ける。

 その時注意しておかなくてはならないのが、事前に靴を用意しておくということ。そして誰にも見つからないということ。

 そうしてベランダに出たら、後は校舎の縁をひたすらにまっすぐ進むだけ。

 最後にいくつかトタン屋根をパルクールし、道のり的にはまっすぐ進むだけで、部室の前にたどり着くことが出来る。

 多分これが一番早いと思います。


「やっほ、桜君。どうだった」

 予想以上の運動量に汗だくの俺を横目に、お気楽な一声。

 彼女の名前は羽土詩織。桃色の長い髪は腰の丈ほどあり、ゲームをする時なんかは髪を束ねている。今日はポニーテールのようだ。

 昨晩は"近道"と称して、[件名:世界取るから最速で来い☆]と送られてきた。しかも深夜の2時

 今日はホームルームが早く終わったらしい。最短で来ているはずの俺よりも先に部室で待っていた。

「どうだった、じゃないんだよ。まったく。深夜にまたこんなメッセージ送って来てさ、そもそも俺が走る保障なんてないでしょ」

「タイムは?」

 翠色の瞳をキラキラとさせ、得意げにこちらをのぞき込む。

「一分二十秒」

「ほら、走ったんじゃん。ってえ?早すぎない?」

「の、短縮」

「あー、ビックリした。流石にそんな速かったらびっくりだよ」

 そんな事を良いながらも、いやでも相当早くない?流石私。などとしつこく称賛を求めてくる。

 まったく、くだらないと思いつつもついつい付き合ってしまう。

 前に無視をしたとき「え?やらなかったの?あ、できなかったのか~桜君にはちょっと難しかったか~」とバカにされたからというのもあるが、それ以上にTAとなるとついムキになってしまうのだ。

 実際近道には間違いないし、たまにやる分には良い運動になったりするので、まったくの無駄にはなっていない。

 ここは電子遊戯研究会。昨年羽土さんと2人で立ち上げた部活だ。

 人数と実績が足りないので、今はまだ同好会といった形になる。

 部員は現在三人で昼休みと放課後に、ほぼ毎日活動している。

 活動内容としてはまぁ、RTAの研究だ。

 もう一人の部員は一つ下の後輩で、名前は長谷川葵、俺の中学の頃からの後輩で、羽土さんとはネット上で知り合っていたらしく入学してすぐにこの部活に入ってくれた。

 もちろん、活動内容を知ったうえで入部してくれたのだが、思った以上の熱量に、最初はいろいろと戸惑っていた。

 実際入部したての長谷川さんに、羽土さんが「0.1秒でも縮めるのに命を懸けるの。命を!」なんて熱弁していたし、

 最初の頃は先輩風を吹かそうとしてたが三日も持たなかったな。

「ところで、今日長谷川さんは?まだ来てないの?」

「あー、葵ちゃんなら一旦家帰るから少し遅くなるって」

「今日は来月のスマイル動画RTAマラソンでやるゲームを決めるって言ったのに」

「ふっふっふ、今回こそ本走でTop100入り目指すからね!世界に名を刻むよ!」

「そんなに張り切らなくてもいいでしょー、あれはただのお披露目会というか、交流会的なやつなんだから」

「まったく、わかってないな~。そういう場所で決めるからかっこいいんじゃん」

 そういって彼女はゲームを起動した。

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