第八章 男・清倉 元輔①

 醍醐家の付近で、裏世界の入り口が開く。むしろ、そういう場所に屋敷を建てたのかもしれない。黄泉観察吏として、そうすることが義務、と考えるのなら、そうするのが自然だからだ、

「オマエも黄泉渡りできる体質なんだな……」

 清倉からそう言われ、ボクも「体質なんですか?」

「呪われた血……などともされるが、出やすい者と、そうでない者がいる。それって体質だろ?」

 清倉はそう考えている……という感じか。直情型で、直感タイプの清倉らしい考え方だ。

「戦う術ってあるんですか?」

「追儺師は、戦う術をもっているから、黄泉渡りをするんだ。もっとも、人間と戦うとは思っていなかったけれどな」

 そう、今回は醍醐家のもつ軍隊との戦闘だ。腐朽や、その親玉と思しき、強力な力をもつ鬼魅とではない。

「可愛い子ちゃんも、戦う術がないと危険だよ~ん」

 坂神は相変わらずへらへらとする。腐朽と出会っても、大丈夫と確信しているからこそ、そうしていられるのだろう。二人ともまだ二十代半ばだけれど、追儺師としての実績は、桁違いのようだ。


 醍醐家の大きな門が開く。そこから出てきたのは、醍醐 元真を筆頭として、八名の兵士。それに囲まれ、中心には呆けた様子で両脇を抱えられながら歩く、八馬女の姿があった。

「おいおい、八馬女はどうしたんだ?」その姿をみて、清倉もそう尋ねる。

「腐朽になりかけている……と言われました」

「なりかけ?」

「でも、人を襲うことはないし、ボクには興味をもってからんでくるし、前とは少しちがってしまっているけれど、八馬女は八馬女なんです!」

 ボクが必死で訴えると、清倉も「わかった、わかった」といなす。

「今は八馬女のことを助ける。これが優先だ」

「助けられますか?」

 醍醐を先頭に、相手はマシンガンをもって、完全武装だ。

「助けられるかどうか……。そんなことは知らん。だが、天使からのお願いなら、オレは絶対に成し遂げる」

 シスコン……。

 清倉はもってきた金属バットのようなものをとりだす。

 銃をもった相手に、まさかそれ一本で戦うのか……? そんな疑問に答えるでもなく、清倉はそれを肩にかついで「行くぞ!」と、足をふみだした。


「よう。醍醐の旦那。今回は面白いことをしているな」

 清倉と醍醐は、どうやら顔見知りのようだ。それは裏世界で、こうして出会うこともあったのだろう。互いに良い感情でないことは、双方の顔を見比べるまでもなくよく分かった。

「オマエこそ、ここは縄張りじゃないだろ?」

「別に、縄張りなんてもってねぇよ。そのとき、近いところに開いた境界の入り口に入るだけだ」

 清倉はそこで目を険しくする。

「そこに、芸人の後輩がいる。だからオレはここに来た」

 清倉がヤンチャをしていた話はよく聞いており、それはネタにもなっている。そのため、銃をもった相手にも一切怯むことがないし、むしろそれはボクらにとって頼もしい限りだ。

 だが頼もしいけれど、その棒のようなもので戦うのか? 頼もしくても、その無謀は不安にさせる点でもあった。


「時間がない。行け!」

 醍醐にそう命じられ、兵士たちは八馬女を抱えるようにして、その場から連れ去ってしまう。

「おっさん相手は気乗りしないが、ここはオレに任せろ」

 清倉はそういって、一歩前にでる。「二人は任せたぞ」

 そう言われた坂神は肩をすくめて「あいよ。天使ちゃんのお願い、だからな」

 そういって、その兵士たちを追いかけるように歩きだす。ボクと小町が、清倉を置いていくことに躊躇っていると、坂神は

「ここにいられる方が迷惑だって。元輔の本気、心配する必要はねぇよ~」

 ボクと小町も、それを信じて清倉の前を去った。

「随分と相棒に信頼されているんだな」

 醍醐の嫌味のようなセリフに、清倉の顔は歪んだ。

「信頼? 勘違いするな。互いにどうなろうと、知らねぇって話だよ。ただ、互いの行く道は尊重する。ここで、オレがキサマを倒すという決断を、受け入れてくれたってだけのことだ。

 それに、オレと坂神は相棒じゃねぇ。相方だ!」


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