第66話 巨大モール5日目
さて、いよいよこの施設での最終行動日を迎える事となった。今日中に目的の55枚、メダルを集めないとペナルティの強制労働が待っているって話なので。
頑張ろうとは思うのだが、どうなるのか先行きは全くの不明。幸いにも、チケットは存分にある。団体戦は後2回ほど出来るし、個人ダンジョンも静香と3連戦は突入可能だし。
後はそれなりの、勝ち星がつけば丸く収まる予定。
昨日までのメダル獲得枚数が33枚、1日の最高獲得枚数は18枚なので、目標の55枚へ到達は決して不可能では無いと思いたい。
団体戦で、最低8枚は稼ぎたいよなぁ……2戦して引き分け2つで可能なので、無理な数字では無い筈だ。これが到達出来ないと、個人ダンジョンで無理しなきゃいけない。
とか思いつつ、1階の大食堂へ赴く俺。
途中で迎えに来てくれた部長と静香と合流して、さっそくひと騒動起きてたけど。静香が足元のジェームズにちょっかいを掛けて、追い駆けっこが始まったのだ。
それを軽くあしらいつつ、既に集合していた女子チームと合流。食堂ホールには、他の生徒の姿もポツポツとだが見受けられるようになっていた。
さすがに滞在5日目だと、人の姿も増えて来るかな。
「さあっ、今日は最終日だから本当にみんなで頑張らないと! 静香がやらかしたのは申し訳ないけど、今日一日で取り返す気でやって行くよっ!
気合い入れて行こうね、みんな!」
「お~っ、頑張ろうっ!」
「……静香がその音頭に応えるのは、ちょっと違うと思うぞ?」
朝から気合入りまくりの玖子だが、自分がやらかした反省の無い静香もアレではあるな。まぁ、しょんぼりヤル気を落とされても、それはそれで困るけど。
玖子の計画では、午前は団体戦で消費するらしい。それから団体戦のチケットを、2枚余っているチームが無いかを玖子たち女子チームが探している間に。
俺と静香は、ひたすら個人ダンジョンを攻略する手筈。
朝食を適当に摘まみながら、俺は特にそのスケジュールに対して口出しもせず。確かにこれが一番、効率の良い1日……もとい、最終日の過ごし方には違いないだろう。
団体戦のチケットがもう2枚あれば、もう1戦団体戦が可能なので。個人ダンジョンに挑まない女子チームも、上手な時間運用にはなるだろう。
俺と静香が順調にメダルを獲得出来れば、そっちで全て解決するしな。
その後でチームの会計係、バレー部マネージャーの磯村さんから簡単な収支報告が。俺が渡した、個人ダンジョンで獲得したお酒やら銀食器、武具や防具は合計27万JPで売れたそう。
それから追加で融通したお金を加えて、弓矢やらの武具の買い足しを行って。午後の訓練やら、教官に付いて貰った費用に充てたそうだ。
それから後は、同じく融通したアテム類の配布報告か。
昨日の特別ダンジョンは、スキル書3枚に宝珠が1個と大豊作だったしな。スキルに関しては適当にチーム内で分配して、宝珠はしばらく手持ちにしておくそう。
お金に困れば売るかもだし、午後にまた故買屋に昨日渡した換金アイテムを売りに行くそうだ。そして俺用にと、渡したアイテムから幾つかアイテムが戻って来た。
SPジュエルやら成長カプセルやら、抜いて渡したからいいって言ったのにな。
そんな訳で、朝食を兼ねたミーティングは
とか思っていたが、余計な心配は無用だった様子。何と昨日の夜遅くに、新たなパーティがこの施設に辿り着いていたらしい。
えっと、あのギャルとチャラ男には見覚えがあるかな。
とは言え、恐らくは長時間の探索でその外見は散々だけど。制服のままって格好なので、衣類の途中回収エリアへは辿り着けなかったと思われる。
それより、見慣れない大人が2人ほどいるな……地下鉄ホームには一般人もいたので、そんな人たちとここまで来たのか。見知らぬ奴らとチームを組むなんて、度胸があるな。
いやでも、あのチームに漂う緊張感は何だろう?
ギャル&チャラ男チームだが、どうやら最初の試練のvsゴーレム戦をたった今クリアした所らしい。チラッと対戦表を見たら、何と3勝も挙げて勝ち越している。
意外とやるなってのが、俺の素直な感想だった。しかも負けは無くて、2つは引き分けにまで持ち込んでいるし。15分もゴーレムを封じ込めるのも、結構な技術ではある。
ってか、向こうもこっちの集団に気付いた様子だ。
「ちょっと、やっぱ学校の仲間がいるじゃん……良かった、この状況どうなってるのっ!? 助けてよ、何かノリで団体戦とか始めちゃったけどさ?
あっ、ハル君いるじゃん、ちょっと話をさせて!」
「久し振り、生きて辿り着けて良かったな、森脇。早速だが次の相手は俺達だ、団体戦のチケットを準備してリングに上がれ?」
「えっ、ちょっと待ってよハル君!!」
待たないし、ハル君なんて呼ばれる間柄でもない。森脇とは、確か合コンで一緒のメンバーだった事があるだけで、親しく遊び回る仲では断じてない。
その合コン自体も黒歴史だしな、玖子辺りにバレたら何を言われるやら。そのコンパで、必要以上に張り切っていたのが、誰あろう森脇である。
チャラ男たる
隣のギャルも、何か言いたげにこっちに近付いて来ているな。確か
玖子も
この人も割と、疲れ果てた顔色をしている。
向こうのチームで余裕がありそうなのは、もう1人の一般人だけかな。ダークな雰囲気を漂わせているが、こんな状況にも落ち着いて周囲を観察している。
若くて恐らく20代なのだろうが、何故かスキル構成が気になる人物だ。ピリッとした空気を
ウチの師匠、虫の居所が悪いと子供にすら当たり散らす困ったちゃんで。
当時は思いっ切り口答えしていたが、あの頃が懐かしくて
特に俺が目を付けたあの男、対戦時には要注意かも。
「決まったわよ、あのチームとの対戦……知り合いがいたのね、ハル? 合コン仲間とか言ってたけど、後でたっぷり事情聞くから。
いつも通りに先鋒お願いね、ハル」
「合コンってなぁに、クーコちゃん……?」
静香は頼むから黙ってろ、そして森脇は後で血の海に沈んで貰う。口の軽い野郎だな、長生き出来ないタイプではあるよな。そして蔑んだ目でこっちを見るな、玖子。
森脇上がって来いと目で訴えるも、野郎は殺気を感じたのだろう。全力で拒否して、先鋒に立候補したのはガタイの良い男性だった。
コイツは見た目、強さも威圧感も感じない。
闘いが始まっての印象も、全く同じで終始こちらのペースで進んで行って。3分も掛からず、俺の二刀流で相手のHPをゼロに削って戦闘終了。
特に見せ場も無く、こちらの思惑通りと言うか。何しろ相手は棒の切れ端を振り回すのと、時折指先で秘孔突きの構えと言う戦法だったし。
間合いもスピードも、全然違うし話にならないレベル。
ところが相手は、全く悔しがる素振りすら見せず。逆に試合が終わると同時に、森脇を引き連れてこちらに話し掛けに来る始末。丁寧に
森脇はさすがチャラ男だけはある、空気を読む力はとても長けていて。ゴメン、あの娘はハル君の彼女だったのと、見当違いの謝罪を口にして。
どうやら玖子と俺の怒りを、付き合っているせいと勘違いした模様。
それはさておいて、俺も嶋岡部長を呼んでパンフレットの配布をお願いする。異世界に突然、こんな豪華な施設とかパニクっていても仕方がない。
しかし、4人での臨時会合は思わぬ方向へ……あの発言は水に流すから、俺たちのチームの噛ませ犬になっておくれ――とか思っていた、俺の目論見は脆くも崩れ去って行く破目に。
まずは
「ウチのチームに、殺人魔が紛れ込んでいるかも知れないんだ……何とかして、その人物を特定出来ないだろうか?」
うん、確かに団体戦で勝った負けたと
それはそうだ、生きて日の目を見る確信が無いってのは、恐怖以外の何物でも無いわな。殺人鬼とは恐れ入ったが、いるとすればアイツしかいないだろう。
ただそれを、公衆の面前に晒す手段が無い訳で。
そんなの、スマホ情報を見せろの一言で良いとは思うけど。諸々の事情で、見せたくないメンバーがチーム内に多数存在するのが厄介だった模様。
そんなの知らん、我儘言ってる場合か張り倒すぞと言えないのが、大多数の日本人の現状である。俺は言えるけどね、森脇程度が相手なら幾らでも。
何とかならないかと相談され、俺は部長と顔を見合わせる。
「そうだ、生徒会役員の神楽坂さんなら、スキルで解決出来るんじゃ?」
「おっ、冴えてるな部長……内緒で生徒会チームを呼んでこようか!」
部長と俺の会話に飛びついたチャラ男の森脇が、じゃあ俺が連れて来るよと立候補。それを押し留めたのは部長で、君は対戦が残ってるから動くべきでは無いとの真っ当な理由付き。
そんな訳で、嶋岡部長が内密に動いてくれるとの事。本当に部長には頭が下がるな、こんな厄介事にまで助け舟を出してくれるなんて。
日下部も感謝してるし、この男は容疑から外れるのは間違い無いな。
チャラ男やギャルにもそんな大逸れた犯行は無理だろうし、限りなく黒なのは
そして、彼の治療中に亡くなった生徒が約1名……努力の甲斐も空しくって話だったが、今考えると思い切り怪しい話ではある。
しかし、スマホ情報を見せたがらない人物が、他にもいたって話で。
それが現在、次鋒戦で戦っている古野橋と言うギャルである。そして対する静香の様子がヘン、面識など無い筈なのに急に戦闘態勢を解除して。
宥められるように大人しくなったと思ったら、何と自ら舞台を飛び降りてしまった。その瞬間に負けが確定、呆気にとられる敵と味方の面々である。
これはどうやら、あのギャル娘も服従系のスキル持ちが濃厚だな。
粕谷の服従スキルにも簡単に引っ掛かったらしいし、静香については何らかの対策が必要かもな。俺が丁度、《耐性上昇》とコピー札を持ってるから、それを融通するかな?
でないと今後、危なっかしくてソロをお願い出来ない。
幸い、負け確定の合図と共に、静香は正気を取り戻した様子。そして始まる中堅戦、向こうは
立派な剣と鎧を装備している所を見るに、セットスキル持ちなのかも。持木ちゃんには荷が重いかなと思って見ていたら、案の定の力負けと言う結末に。
まぁ仕方無い、相性も悪かったしな。
何しろ持木ちゃんは、クリティカル狙いの軽戦士だからな。鎧を着込んで盾まで持っている本格戦士の前では、極端に狙う箇所が減ってしまう。
女生徒に相手の首筋や顔面を狙えと指示するのも、鬼畜かとこちらが批難を浴びてしまう。次の宮島さんに、何とか1勝を期待しよう。
相手の副将、向こうも女生徒みたいだし。
森脇に訊ねたところ、岸那部と言う人物は戦闘には全く参加しないらしい。回復系のスキルを持っているとの触れ込みでチームに入ったらしいけど、今となったらそれも怪しい。
そんな事を考えている間に始まった副将戦、相手の女生徒は天海と言う名前で。俺とは面識は無かったが、宮島さんとはある様子でちょっとやり難そう。
それでも《千手法》を展開して、じりじりと近寄って行く構え。
向こうが手にするのは、これまた粗末な棍棒である。制服もそうだが、どうも他のチームは探索中に武器装備が揃って行く過程が皆無っぽいのが不思議だ。
食料程度は、何とか補給エリアを活用出来ていたらしいけど。武器ともなると、敵から奪い取るしか方法が無かったみたいで。
まぁこんな格差も実力の内と、割り切って勝負に徹して欲しい。
俺の願いが通じたのか、ゴメンと叫びつつ先手で撃ち込む宮島さん。対する天海さんだが、どうも奥の手スキルを隠し持っていた模様。
気合いの叫びと共に、何と宮島さんの《千手法》が封印されてしまったのだ。ぽろぽろ落ちて行く盾や剣に気を取られ、思い切り相手の魔法をその身に浴びてしまう宮島さん。
森脇の説明では、あれは《粉砕魔法》と言うらしい。
威力はそれなりにあったようだが、団体戦の痛み無効化のフィールドが良い方に作用した。一瞬怯んだ宮島さんだが、天海さんに思い切り体当たりして、そのまま両者もつれる様に舞台下へと転がり落ちる。
んむっ、見事な引き分けだな……最終的に勝負の行方は、大将戦に委ねられる事になった。隣に立ってた森脇が、一丁前に
そして大将戦のコールと同時に、嶋岡部長が戻って来た。
「用件は向こうチームのメンバーの《看破》らしいな、皆轟……あれだけ他人へのスキル使用を注意しといて、いいように神楽坂を利用するのは腹立たしいが。
これも一般生徒の頼みだ、危機的状況を回避するのも生徒会の役目だと割り切ろう」
「またまた面白い騒動に巻き込まれてるのね、ハル……一体犯人は誰かしら? そうね、まずは今対戦している森脇君からチェックしてみて、
「は、はぁ……分かりました、副会長」
そう言う訳で、内密のステータス画面チェックが始まった。とは言えそんなに広くない闘技場内、生徒が団体で入って来て何かし始めたのは皆に知れ渡っている模様。
そんな中、神楽坂のスキル読み上げが始まった。森脇のスキル並びは《軽業師》《手技足技》《遊戯》《調教》と、後半はやけに妖しい並びとなっている。
読み上げた神楽坂を始め、聞いていた女性陣はドン引き。
まぁ、辛うじて戦えるスキル並びだからいいんじゃね? とか思う俺は変なのかな。ってか、意外と森脇は頑張っているな……玖子相手に、懸命に逃げ回って致命的な一撃を
試合時間も半分は過ぎたので、玖子も苛ついて来ているかな。このまま引き分けだとこっちの負けだ、頑張ってくれよチームリーダー!
とか思っていると、今度はギャルの古野橋を《看破》し始める神楽坂。
服従系のスキルは持ってる筈と思ったが、その並びは想像以上にエグかった。《爪操術》《演舞法》までは分かるが、《魅了》《美人局》はどんな経緯で取得した?
でもまぁ、これで悪さをするとしても男限定とかに絞られないか? 他人には知られたくはないスキルには違いないが、夜な夜な殺人に及ぶには弱い気もする。
ってか、あの憔悴具合で殺人鬼は無いだろう。
問題はあの男だと、俺は自称医者の人物の鑑定を頼む。岸那部のステータスチェックを始めた神楽坂は、すぐにその顔を蒼褪めさせた。
スキルは全部で4つあって、《殺人術》《並列思考》《苦痛無効》《手当て》と物騒な名前のモノが存在する。そして何より、称号に《同族殺し》があったとの報告がなされて。
これはもう、言い逃れ出来ない決定的な証拠だろう。
こちらの騒動に割と早めに感付いていた、肝心の岸那部と言う殺人鬼だが。皆の視線が自分に集中するのに気付いたのか、素早く身を
その瞬時の反応に、その場の誰も反応出来ず。結果として、犯人は判明したけど捕らえる事は出来ずと言う結末に。いや、俺らには罪を裁く権利も能力も無いけどね。
だからまぁ、追い掛けても無駄だから良かったのか?
――そんな遺恨を残しながら、殺人鬼事件は幕を下ろしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます