第65話 荷物整理とスキルの見直し



 夕方の女子チームとの夕食会は、まぁそれなりに盛り上がったかな。主に変な方向にだけど、何しろメダルの数が全然足りていないので。

 数々のイレギュラーさえなければ、今頃は目標の55枚を突破出来ていたと言うのに。管理者に没収された10枚と、それから静香が友達2人に寄付した10枚。

 合計20枚の消失が、痛過ぎたのは紛れもない事実。


 女子チームの面々は、特に吊るし上げみたいな言動は取らなかったのは何よりだった。まぁ、静香の貢献度を考えれば当然でもあるのかな?

 それより残り1日で、22枚のメダル獲得は果たして可能なのか……難しい数字だが、幸いにもチケットは充分に余っている。


 団体戦は2回可能だし、個人ダンジョンのチケットも相当数残っているので。昨日までみたいに、練習戦闘メインで無ければ何とでもなりそう。

 そうであって欲しいな、切にそう願う。


 とにかく疲れた……主に精神的にだけど、それを大浴場でサッパリと洗い流して。一緒だった嶋岡部長とは廊下で別れ、自分の部屋へと辿り着く。

 周囲を確認するけど、妙な黒猫の姿も同級生の影も存在しない。チームメイトからも今日は新しい到達チームは無かったと、聞き及んでるからそうなのだろう。

 そんな訳で、施設の滞在者数に変化は無い様子。


 俺は大人しく部屋に入って、一息つきながら明日の予定を考える。とにかくチーム戦と個人ダンジョン、両方を頑張ってメダルを22枚集めなければ。

 おや、だとしたら今日の20枚が仮に手元にあっても、2枚ほど足りなかった計算か。まぁ、2枚程度なら何とでもなっただろうけど。

 とにかく20枚の差異は、とことん痛過ぎる。


 ベッドに深く沈み込むと、睡魔がすぐに襲って来た。最近は恒例となってるな、何しろ部屋の中に娯楽と言うモノがまるで無いから。

 寝ても夢空間で、作業やら経験値稼ぎやらが出来ると言う特異体質なので。いやこれもスキルの恩恵か、そんな訳でこのまま寝落ちしても何の不都合も無いと言う。

 “勇者”明神をチートだと思っていたが、俺も人の事は言えないな。


 ジェームズが、相変わらず部屋の片づけとか勝手に動き回っている気配を感じつつ。そんなに汚している訳では無いのだが、脱ぎ散らかした靴や服を集めてくれる優秀な従者なのだ。

 寝落ちしても、部屋の灯りはちゃんと消してくれるしな。本当に頭の下がる思い、余り迷惑を掛けないようにしなくちゃな。

 とか思っている内に、まぶたが重くなって行き――




 気が付けば夢世界といういつものパターン、そして従者たちが勝手に暴れ回っていると言うね。俺は急いで、定番のスキルをセットして行く。

 夢魔の群れは、案の定ほぼ壊滅して地に倒れ伏していた。これもすっかり恒例の風景だな、そしてジェームズが夢魔の死体剥ぎを嬉々として行っている。

 シルベスタとキャシーは、残りの雑魚を片付けている所。


 どうやらこの群れには、強敵の類いは存在していなかった様子。慌てるまでも無かったかな、でも取り敢えずはスキルセットと武器の手配だけはしておこう。

 最近恒例の二刀流だが、この時間にまた練習しておくかな? 福良木は怒ったけど、俺的にはこのスタイルは悪くない感触を得ている。

 主に多様性だ、俺の一番の売りでもあるし?


 そう言えば午後の団体戦だったけど、“勇者”に勝利した時点で結構な経験値を獲得した。さすがチート職と言うべきか、倒されても凄い恩恵があるよな。

 皮肉でも何でもないけど、こちら的には大助かりのプレゼント。お陰で今日だけで、レベルが2つも上がってくれた。スキル+6Pである、何を上げようかな?

 大ボス討伐報酬とSPジュエル×2個分もあるし振り分けも大変だ。


 今回も薬品系やらスキル書やら、オーブ珠やら換金可能なアイテムやらと。特別生成ダンジョン内で、結構なドロップ品を拾えたりはしたのだけれど。

 スキル書や金目の物は全て女子チームに融通して、俺はSPジュエルの中を2個と、CPカプセルを2個貰う事にして。あれだけ働いたのだ、決して貰い過ぎでは無い筈。

 特別チケットも俺の持ち出しだからな、皆も融通され過ぎって言ってたし。


 そして大ボスの討伐報酬はスキル+15Pで、2匹分では妥当な数値なのかな。あれから戻って、鍵付き宝箱を持木ちゃんに開けて貰ったんだけど。

 中には『水妖の長槍』『水妖の剣』『水妖の弓』と、水属性らしい割と上等な武器が入っていた。それから恒例のアイテム類や薬品系も、これまた結構な数出て来てくれて。

 そして肝心のメダルだが、たった2枚と言う残念な結果に。


 まぁ、他の回収品が今までになく豪華だったから、それで良しとするべきなんだろう。このダンジョンでのメダル獲得は、結局は4枚のみとなったけど。

 とにかくその豪華なドロップ品は、女子チームで公平に分けて貰えれば良い。俺の分け前は、さっき言ったアイテムと、後はジェームズの拾って来たガラクタ程度で全然オッケーだ。

 そしてその使い道だが、これも全部彼にお任せと言うね。




 皆轟春樹:Lv23   職業:召喚士    HP:153(153)  

==----------------------------------         MP:252(312)

物理攻撃:237(152)    物理防御:246(156)

魔法攻撃:199(129)    魔法防御:196(114)


スキル【24(+3)】《夢幻泡影Lv2》《光魔法Lv4》《硬化Lv2》《罠造Lv3》《日常辞典Lv3》《オーラ纏いLv2》《購運Lv2》《空間収納(中) Lv2》

予備スキル《餌付けLv3》《平常心Lv2》《観察Lv2》《投擲Lv2》《追跡》《エナジー補給》《耐性上昇Lv3》《潜行》《糸紡ぎLv3》《剛力Lv3》《高利貸Lv2》《波動術Lv2》《木霊術Lv2》《借技Lv2》《等価交換Lv2》《人形使役Lv2》《魂魄術》《召喚魔法Lv2》《氷魔法Lv3》《剣術Lv2》《時空Box(極小)Lv3》

獲得CP【9、008】   獲得SP【43/14】   JP【2、300、000】 


『称号』:《安寧》《天真爛漫》《飛竜乗雲》

状態異常:呪い《衰弱》《悪夢》《陽嫌》

装備:金剛剣、オーガ爪の槍、銀の槍、手作りフレイル、ワニ革の手甲、蜘蛛糸のマフラー《空気浄化》、木綿のポーチ《収納倍加》、蜘蛛糸の作業着、髑髏の指輪、手斧、古びた腰帯、ニルムの革帽子《感知》、器用のリストバンド《スロット枠+3》

使役:狂乱綿熊、亡霊重鎧、隠密鼬


持ち物:ポーション×6、マナポ×3、薬草軟膏×4、架空スマホ、灰狼神の木札、竜の宝、竜の爪、竜の鱗、竜の心臓、大樹の枝、大樹の樹液、マミーの心臓、マミーの死霊布、インプの被膜、蜂の毒針、骨くず、妖怪の石壁、巨大植木鉢、魔石×9、魔術師の家具一式、襤褸布、ワーム肉、聖水×2、毒消し薬、爆裂卵×7個、リッチの魔杖、リッチの法衣、オーガの骨、魔鷹の矢羽根×10、魔狼の牙、グールの毒爪×3、コピー札、宝石、壊れた部分鎧(耐水、腐敗)、豪奢な槍




 こちらは与えられた範囲で、粛々とレベルアップ作業を図るだけである。今回は割と豊富にSPが増えたので、スキルのレベルも幾つか上げるかな?

 取り敢えずは均等上げ、3回目でスロット枠が増えてくれたのでそこでストップして。お次はスキルだが……今回は《購運》と《オーラ纏い》をレベル2に上げてみよう。

 それでもまだ余るけど、そこは追々考えて行くって事で。


 何しろメインの戦い方が、未だに定まっていないからなぁ……前に出るべきか、後ろで支援に徹するべきか。ソロでも俺には従者が3体もいるし、直接殴り合う必要性は薄れて来ている。

 だからと言って、完全後衛の育成の仕方はちょっと怖い。そんな思惑が働いて、段々と器用貧乏の道へと入り込んで行く結果に。

 福良木が怒ったのも、何となく分かるよなぁ。


 とにかくレベル2になった《購運》だが、特に大きな変化は無し。どうやら幸運アップの効果期間が、微妙に伸びてくれたらしいのだが。

 《オーラ纏い》に関しては、一応は新たに2つの魔法と言うか技を無事に習得出来た。MP3で使用可能な《鋼のオーラ》は、防御力がアップするそうだ。

 うん、使い勝手は段々と良くなって来たな。


 もう一つの技は《透明のオーラ》の、気功飛ばしだった。これは確か、ネムも使ってたのを覚えている。威力はそこそこなのかな、確かに汎用性のあるスキルには違いないけど。

 攻撃アップとか敵の気を惹くとか、遠距離攻撃とか色々。ただ俺が最近覚えた《波動術》と、傾向が似ているのが気に掛かる点ではあるかな。

 とすると、伸ばすとしたらスキル3Pの《オーラ纏い》かなぁ?


 《波動術》の方には探査系の技があるから、そっちが凄く便利なら伸ばすのもアリかもだけど。どちらにしろ、今後は使うのと使わないスキルを取捨選択して行かないとね。

 何しろ取得したスキル数が多過ぎるので、全てを伸ばすのは不可能に近い。大抵の所持スキルをレベル2に上げてみたので、今後は上げるスキルを決めて行かないとね。

 ちなみに《購運》スキルのお金寄付だが、架空JPでも可能だった。


 お金に関しては、昨日と今日で結構ガッツリ減ってしまった。福良木に30万ほど貸したのと、またまた女子チームに30万ほど寄付したのとがあって。

 女子チームだが、魔法スキルを持たない生徒の活用方法に悩んだ結果。やはり遠隔攻撃が強いし有利だって事になって、全員分の弓矢を買い漁って訓練を始めた模様。

 俺たちがダンジョンに潜っている時、そんな感じで時間を費やしていたそうだ。


 いい事ではあると思う、お金の無駄遣いでは無いとも思うし。聞いた話では、講師まで付けて練習したそうで、日は浅いけど手応えはあるそうな。

 そして端数のJPを、試しに《購運》で運に変えてみた。これで幸運が次々訪れたら、定期的にお布施を投じるのに躊躇ためらいはないと言うか。

 もっとレベルを上げるのを含めて、多用して行きたいかな。


 何しろ、換金可能な品物はボックスにまだ色々と入ってるし。今日は夢魔を探しての戦闘はいいや、くどい真似はしたくないと言うか面倒だし。

 その代わり、ちょっと空間倉庫の整頓とかしようかな。《空間収納(中) 》からアイテムを取り出し始めると、途端にジェームズが張り切り始めて。

 自分の物のように、錬金机や鉢植えを構い始める始末。


 従者の中では長男の位置付けのジェームズだが、見た目も最近は様変わりしている。黒のマントは夢魔の襤褸ぼろ剥ぎの成果か、悪の幹部みたいな風貌に見える。

 それに加えて死者の王冠に隠者の杖装備である、クマのぬいぐるみの可愛さは既に半減以下に。そんな彼だが、どうも錬金の技術は本物らしく、成果はここまで順当に上がっている。

 特にガーゴイルの種は、見事に芽を出して今や葉を茂らせている有り様。


 鉢も大きいのを買って本当に良かった、ジェームズがそれに遠慮なくスライムジュースやら魔石やらを放り込むのはアレだけど。

 今も早速、今日ゲットしたばかりの獣人の墨をドバドバと鉢の中に流し込んでいる。水の代わりなのか肥料なのか、もはや俺には良く分からないけど。

 順当に育っているので、口を挟むべきでは無いのだろう。


 これのメインは、実はヌリカベのブロックの崩した岩っころである。そんなんで上手く芽が出るのかよと思っていたが、異世界の常識って常にこちらの想像の斜め上。

 今後もこの鉢植えは、ジェームズに全部任せるつもり。それより俺は、赤ん坊スライムの世話でもして癒されようかな……こいつも実は、そんなに手間は掛からないのだけど。

 餌やりとか、1日1回で良いみたいだし。


 さすが元は野生と言うか、スライムは飢餓や不衛生に強い性質があるみたい。これは《日常辞典Lv3》で得た何となくの知識だが、大体あっていると思う。

 1週間以上、何も食べなくても生きていけるとか、一般的なゴミだろうと消化出来てしまうとか。ただしスライム自体は、排泄をしないらしいから面白い生物だよな。

 ネムによると、このスライムは環境によって色々な進化を遂げるのだとか。


 良く分からないけど、変な子に育って欲しくは無いな……世話はちゃんと自分でするつもりだが、どれが適切な育成方法なのかがてんで分からないと言うね。

 ネムに詳しく問い質したいけど、彼女が再びこの施設にやって来るのは難しいとの事。何しろ他の管理者のテリトリーなのだ、見付かったら大目玉を喰らうそうで。

 前回に来た時も、割と必死で姿を隠していたそうな。


 まぁ、知識はともかくとして、スライムを入れるちゃんとした容器とか欲しい。商店通りをまた今度、きっちりと見て回ってみたい願望はあるのだけど。

 なかなか忙しくて、それが叶っていないのが切ない所。お金はまだ充分あるし、何なら換金していない竜の宝箱とか宝石とかも手元にあるのだ。

 貯め込んでいても仕方ないし、換金して使うのも手だよね。


 ジェームズが再び、錬金机に乗り上がって何かの作業を始めている。シルベスタが助手的な立ち位置なのが面白いが、彼の太い指では苦労するだろう。

 それを言えば、ジェームズなんてぬいぐるみの手だしなぁ……その辺も今後、考えて行く必要があるのかな? 例えば《召喚魔法》とか《人形使役》のレベルを上げて、指先の器用な従者の登場を願うとか。

 一応は出来ない話では無いから、計画の内に入れておこうか。


 そもそもこの2つのスキルは、重いからレベル上げが大変なのだけど。せっかく職を召喚士に選んだと言うのに、その根本のスキルレベルを上げ難いと言う弊害が。

 一応は、セットの際の数値は半分で良くなっているけど、レベルを上げる数値は下がってくれてはいない。レベル上げのポイントは、倍々に膨れ上がって行くので《召喚魔法》とかそりゃもう大変だ。

 レベル3で18P、レベル4で既に36P必要だもんなぁ。


 レベル5にするには72Pと、召喚職を上げるのは茨の道である。召喚士と言う職を選んだのは良いけど、その本質とかも実は良く分かっていないしね。

 いや、モンスターを召喚して従者として戦うのは分かっている。仮に倒されても、再召喚が可能なのもシステムとしては有りなのだろう。

 ただ《召喚魔法》と《人形使役》が、同じカテゴリーなのが良く分からない。


 システムの便宜上、そう表示されているだけなのだろうか? どちらも従者には違いないし、MPを消費して動いて貰う仕様も同じではある。

 ただし、魂のありようと言うか存在の主張の方法がまるで違うように、俺には思われるのだ。その程度の差異は、職システムにとっては関係無いのだろうか?

 深く考えても仕方が無いのかな、興味深い案件ではあるのだが。


 誰かにその辺の詳しい事情を訊ければ良いのだが、生憎と白の陣営の管理者連中は、揃って不親切と来ている。情報公開は、為されるとしてもずっと先になりそうな予感。

 それともこちらから、もっと積極的に情報をゲットするように動いた方が得策なのだろうか。時間とお金が掛かりそうなので、今まで敢えて案に加えてなかったけど。

 この先、そんな事を言ってられない事態に遭遇するかもだしなぁ。


 そんな俺の苦悩を知らず、ジェームズの錬金作業は今夜もはかどっている様子。大半は薬品類らしく、妙な色合いの液体が小瓶に蓄えられているみたい。

 そもそもこの長男は、どこからその錬金スキルを仕入れて来たのだ? これが《魂魄術》の仕業だとしたら、このスキルも未知なる部分が多い事になりそう。

 そう言えば、このスキルはまだレベル1のままだなぁ。





 ――分からない事だらけで、俺の苦悩は増えて行くばかり。







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