第2話002「転移ではなく転生」



「我が召喚に応じていただき、誠にありがとうございます! ようこそ、異世界の救世主たちよ!」


 俺たちはお昼休み⋯⋯教室にいるときに突然『大地震』に見舞われた。そして、気がつくと、目の前に見慣れない光景が広がっていた。


 そこは、すべて大理石のような石で張り巡らされた地面でかなり広い空間だった。まるで、外国の『王宮』のような⋯⋯。


 そして奥を見ると『大きな肖像画』のようなものが飾られている。見ると、その肖像画のモデルは『王冠』を頭にのせた老人。そして、目の前にいる美女の周囲には『神官』とか『宰相』みたいなお偉いさん・・・・・っぽい人たちや、『鎧』を身につけ、剣や槍を持った兵士たちが並び立っている。


 もう、間違いないだろ⋯⋯これ。


 異世界確定だわ。


「な、何だ、ここは?」

「え、何? どういうこと?」

「ここは⋯⋯一体⋯⋯?」


 俺は声のする方に目を向けてみた。すると、そこには柊木拓海ひいらぎたくみ吾妻翔太あづましょうた小山田信二おやまだしんじ⋯⋯。あと『クラス委員長』で『一年のマドンナ』と言われている女子『古河美咲ふるかわみさき』と、クラス担任の嶋由美しまゆみ先生こと、通称『ユーミン』。そして、オタクの『吉村稔よしむらみのる』の姿が見えた。しかし⋯⋯⋯⋯それ以外の生徒は見当たらない。


「クラスにいた生徒全員⋯⋯じゃない?」


 そう。ここにいる生徒は、あの時教室にいた生徒の半分以下の人数だった。俺がそのことを疑問に思っていると目の前の『水色スレンダー美少女』が話し始めた。


「ようこそ。我が『異世界召喚』により選ばれた異世界の救世主たちよ。私はここ⋯⋯エルクレーン王国の女王『シャルロット・エルクレーン』。ぜひ、異世界の救世主様たちの力で邪神を倒し、世界の平和を取り戻してくださいませ!」


 そう言って、シャルロットが跪くと周囲の兵士や官僚っぽい人たちもそれを見て同じく跪いた。


「いや、ちょっと待⋯⋯」

「ちょっと待ってくださいっ!!!!」


 俺が女王に声をかけようとした時、その上から『通る声』で女王に声をかけたのは『イケメン腹黒リーダー』こと、柊木拓海である。


「いきなり、そんなこと言われても困ります! 元の世界に帰してください!」


 柊木は最もな意見を女王にぶつけた。しかし、


「すみません、それはできません。異世界召喚魔法は一方通行の召喚しかできませんし、何より、救世主様たちは前の世界に戻ることはできません・・・・・・・・・・

「え? 戻ることはできないって、どういう⋯⋯」

「なぜなら⋯⋯⋯⋯救世主様たちはすでに死んでいるからです」

「し、死んで⋯⋯いる?」

「はい。この異世界召喚魔法で呼び出される異世界人の条件の一つは『召喚に選ばれた者』、そして、⋯⋯⋯⋯『元の世界で命を落とした者』です」

「なっ?!」

「え⋯⋯?」

「う、嘘⋯⋯だろ?」

「⋯⋯」


 つまり、女王の話が本当なら俺たちはあの『大地震』の時に命を落としたということだ。


 となると、俺たちはこの異世界に『転移した』のではなく⋯⋯⋯⋯『転生した』ってことか。


 あと『召喚に選ばれた者』という条件だが、これがたぶん『教室にいた生徒全員』が異世界ここに召喚されていない理由なのだろう⋯⋯。


「確認したいのですが、今ここにいる我々以外にも生徒はいたのですがこの場に召喚されていないのは、先ほどお話しした『異世界召喚魔法』の条件である『召喚に選ばれた者』に選ばれなかったからですか?」

「そうです」

「あともう一つ⋯⋯僕たちは一度死んでこの世界に召喚されたということは、つまり『転生』⋯⋯⋯⋯『一度死んでこの世界に生まれ変わった』ということになるのですか?」

「そうです。一度死んだあなたたちの『魂』をこの世界に召喚したので、あなたたちは『転生』したということになります」

「そ、それって、つまり、一度死んだ俺たちの命をこの世界で復活してくれたということですか?」

「言い方を変えれば、そういうことになります」


 確かに、女王の言う通り、俺たちは『命を救われた』と言えるだろう。望んだわけではないが、本来ならあの地震で『人生を終えていた』のは間違いないのだから。


 釈然とはしないが、そう考えれば『異世界召喚魔法』で俺たちをこの世界に召喚した女王は、ある意味『命の恩人』とも言えなくもない。⋯⋯全くもって納得はできないが。


 まあ、少なくとも今のところ召喚された俺たちを『奴隷扱い』していない分、まだマシか⋯⋯。


 そんな風に、俺が一人いろいろと現状把握に努めていると、


「そ、そんな⋯⋯私たちは⋯⋯あの地震で本当は死んでいた⋯⋯なんて⋯⋯」


 嶋先生⋯⋯ユーミンが『自分達は本当はあの地震で死んでいた』という事実にショックを受けてポロポロと泣いていた。他のみんなは一応泣いてはいないものの、それぞれ思い思いに感傷に浸っていた。無理もない⋯⋯⋯⋯俺たちは一度死んだのだから。


 だが、怖いのは『死んだ実感』がないってことだ。


 だって、今こうして『大地震のときの自分の姿』でここにいるのだから。


 まだ、よくある異世界転生もののように『赤ちゃんスタート』なら、多少は『以前の自分は死んだ』という実感も沸くのだがな⋯⋯。


 そんな憔悴した俺たちにシャルロット女王が、静かに言葉をかける。


「皆さんが混乱する気持ちはよくわかります。なので、一度気持ちを整理する意味でも、一旦、今日は城でゆっくり休んでから明日改めて話をしましょうか?」


 と提案した。しかし、


「いえ⋯⋯できれば、話を続けていただきたい。なにせ、あまりにも突然なことで混乱しているし、何よりこの世界の、あと自分達の置かれている状況がわからないまま横になっても、落ち着いて休むことなどできませんから!」


 と、柊木が勝手にそんなことを言って、女王に話を続けるよう促した。


 いや、ぶっちゃけ、俺的には一度ベッドで休んで頭を整理したいのだが!


 他のみんなはどうなのだろう? 俺は周囲の表情を見てみた。すると半分以上は『今、話を聞きたい』というような表情をしていた。⋯⋯嘘だろ、おい?


 それにしても柊木は、どうしてこんなにも『異世界召喚』をすんなり受け入れているのだろう?


 俺は普段からアニメやラノベをよくたしなんでいたので、ある程度『耐性』はあるつもりだが、でも、柊木は特にそんな趣味はなかったはず⋯⋯⋯⋯と思ったが、いや、あいつのことだ、こういう知識も最低限持っていたのだろう。なんせ、普段から『全方向で俺は何でも知っている』というアピールをしていたくらいだからな。


 だとしたら、柊木はこの異世界でも『自分は特別だ』とでも思っているだろう。しかし、ここは『異世界』⋯⋯地球の常識は通用しない世界だ。いくら何でも柊木がこの異世界でも『特別な何か』になるなんてことないはずだ!


 しかし、そんな俺の願いにも似た『想い』は数分後——砕け散ることとなる。



********************



「わかりました。ではお話をしましょう。まず、あなたたちがこの世界に来たのは、先ほども言いましたが、私が『異世界召喚魔法』を発動して召喚したからです」

「「「「「い、異世界召喚⋯⋯⋯⋯魔法っ!!!!」」」」」


 皆が『魔法』という言葉に大きく反応した。それはそうだろう。これまで生きてきた世界にはなかったもので、映画やアニメ、マンガによく出てくるファンタジーな力なのだから。


「はい。人類は今、邪神率いる魔の軍団⋯⋯『魔族』により危機に瀕しています」

「「「「「ま、魔族⋯⋯!?」」」」」


 まあ、予想通りの展開だな。


「しかし、邪神はまだ復活しておりません。今、人類に仇なしているのは、その邪神の下僕である魔族たち。そして、その魔族とは現在、一進一退の攻防を繰り広げていますが、現在、後手に回っている状況です」


 なるほど。それにしてもラスボスっぽい『邪神』とやらはまだ存在はしていないのか。ということは⋯⋯、


「そんな状況の中、魔族たちが遂に『邪神復活』のために動いていることがわかりました。このまま邪神が復活すれば我々人類は完全に滅亡するでしょう。なので、我々はこの『邪神復活を阻止すること』、または『邪神を倒すこと』を目的として『異世界召喚魔法』で救世主たる異世界人⋯⋯あなた方を召喚した次第でございます!」


 まあ、ほぼそんなところテンプレ通りだったか。


 しかし、俺たち異世界人に対して、この『救世主』という言葉をつけるのはどういうことなのだろう? そんなことを考えていると、柊木がそのことを質問した。


「す、すみません。あなたは⋯⋯シャルロット様は⋯⋯」

「シャルロットで結構です」

「シャルロット⋯⋯あなたが私たちを呼び出し邪神復活を阻止したいということはわかりました。ですが、非常に申し訳ないのですが、私たちはただの高校生⋯⋯学生です。そして、私たちは争いのない、戦争のない世界で生きてきました。なので、非常に申し訳ないのですが、あなたたちが期待するような力など持っておりません」

「いえ、そんなことはありません」

「え?」

「異世界から転生した異世界人は平等に皆、『何らかの特別な力・・・・・・・・』が備わっています」

「何らかの特別な⋯⋯力?」


 柊木の目が一瞬、強く光る。


「はい。過去にも何度か異世界人を召喚したという記録が残っています。そして、その文献には『異世界人は誰でも特別な力を持って転生してくる』と記されています。そして、異世界人は過去『救世主』として崇められていたということも⋯⋯」

「救世主!」


 さらに、柊木の瞳が鈍く光った。というか、もう隠そうともせず、普通に興奮して声が上ずっている。


「そうです。あなたたちには『特別な力』が何かしら宿っているはずで⋯⋯」

「それは、どうやったらわかるのですかっ!!!!」


 柊木が、女王の言葉を食い気味・・・・に確認のやり方を聞いた。


「は、はい。声を出して『ステータス』と仰っていただければ、目の前に『自分の能力一覧』が出てきます。ちなみに、これは他の方も見えるようになっています。ではちょうど良いタイミングですので、皆さん、ステータスを開いてみてください」

「「「「「「ス、ステータス!!!!」」」」」」


 ブン⋯⋯!


 俺以外の皆が一斉に「ステータス」と声を上げた。すると、各人の目の前にゲームでよくみる自分の能力値が書かれたあの『ステータスの小窓』がホログラフのように出現する。


「な、なんか、いろいろ書いてあるぞ!」

「こ、これは、すごいな⋯⋯どういう技術だ?」

「え? 何、これ? まんまゲームじゃん!」


 各々が自分のステータスを見ては、それぞれの感想を述べている。俺も皆の様子を一度確認してから、少し離れた場所で「ステータス」と小声で自分のステータス値を開いてみた。

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