静奈のS、目覚めます
とある休日のこと、カラオケ店でのことだ。
「ねえ静奈」
「なに?」
静奈にとってそれは来るべくして来る質問だった。
「一昨日さ、獅子堂が体育祭の時に見た女の人たちと一緒に居たんだけど……」
友人の一人でもある夕陽の言葉に静奈は龍一の傍に居た誰かに合点が行った。
おそらく……いや、ほぼ確実に千沙と沙月になるのだろうが、こうして自分たちしか知らない関係性について聞かれたのは初めてだった。
「マジで?」
「うん……その……静奈?」
おそらく彼女が言いたいのは龍一が浮気をしているのではないかということだと思われるが、静奈としては全く心配をする必要がないので笑みを浮かべた。
「心配しないでちょうだい。その二人は体育祭の時の私たちを見て察したと思うけど知り合いなのよ。私も良くしてもらってるし、龍一君にとっても本当に大切な人たちなの」
「……そうなんだ」
「ごめんね? 変なこと勘ぐっちゃって」
気にしないでと静奈は口にした。
とはいえ、本当に事情を知らなければ勘違いしてもおかしくはないことなので静奈としても強く言えない部分はある。
彼女たちだけではなく、他にも学校の同級生を含め先輩や後輩の何人かは見たことがあるとは思うが特に困った出来事は起きていない。
「あの二人って大学生なの? 私たちよりちょっと年上って感じだし……というかなんで獅子堂の周りに集まる女の人って美人ばかりなの? 静奈を含めてさ」
「大学生よ。私は美人なんかじゃ……ううん、そうね。私も美人だわ」
「うわ、この人認めましたよ」
少しだけ夕陽たちに引かれたが静奈としては今口にした言葉には意味があった。
決してナルシストというわけではなく、こうして自分の容姿が優れていることを口にしたのはひとえに龍一の言葉があったからだ。
「龍一君がね、私のことを可愛くて美人だっていつも言ってくれるのよ。だからそんな風に言ってくれる人が居るんだから自分に自信を持とうと思ったわけ。でもだからって誰彼構わずこんなこと言わないわよ? 心を許してるあなたたちにしかこんなことは口にしない」
「……静奈ぁ!」
「もう本当にこの子はもう!」
「同性すら落とすその笑顔たまらんですわ!!」
両サイドから二人に抱き着かれる静奈であった。
その様子はかしましく、龍一が傍に居たら微笑ましく見つめた後に騒がしいなと困った顔になるのは容易に想像できた。
「……私、静奈になりたかったなぁ」
「何よいきなり」
もう一人の友人である
その胸は大きさを表す山は存在せず、控えめに言ってまな板同然だった。
「静奈って美人なだけじゃなくて頭も良いじゃん? それに獅子堂みたいなかっこいい彼氏も居て何より……何よりおっぱい大きいし!」
「大きくても肩こりとか大変なんだけど」
「ある人しかそう言えないんだよ!!」
ギャルっぽい見た目ではあるが、色々と小さいせいで自身が目指すエッチで色気のある女には程遠い。
そんな沙耶は勢いよく静奈に巨乳に向かって手を伸ばした。
静奈は特に避けたりすることなく、その手を受け入れたことで沙耶の指がむにゅりと柔肉の中に沈んでいく。
「……柔らかくて温かい……クセになりそう」
「やめときなよ。そこまで出来るのは獅子堂だけだって」
そうねと静奈は心の中で笑った。
まるで現実に打ちのめされたように落ち込んだ沙耶の頭を撫でながら、最近になってまた少し胸が大きくなり下着を変えたことは黙っておくことにした。
「静奈ってFあるんだっけ?」
「まあそれくらいかしら」
実はGであるということも黙っておくことにした。
「……ねえ静奈」
「なに?」
夕陽がモジモジとしながら静奈に声を掛けた。
ボーイッシュな見た目の夕陽がこうしてモジモジする姿は大変可愛らしいのだが、何やら静奈に相談したいことがあるようだ。
「実はさ……私、中学時代の友達から告白されちゃってさ。それで付き合おうかどうか迷ってるんだよね」
「そうなの?」
「え? 何それ初耳なんだけど!?」
これは中々のビッグニュースだと静奈と沙耶は興味津々だ。
その後、静奈は彼氏が居ることで齎される幸福について多くを語り、逆に二人から惚気過ぎだと呆れられることになった。
静奈はごめんなさいと謝ったが、正直まだまだ龍一のことを語り足りないと満足できていない。
「あの静奈がこんな風になるなんて予想出来なかったなぁ」
「そうだよね。でも獅子堂も幸せ者でしょ、こんなに良い彼女に想われるなんて」
彼女たちの言葉に静奈はクスクスと笑った。
何故なら彼女たちが言ったことは全て真実であり、その逆も然りで静奈も龍一にこれでもかと愛されているからだ。
「エッチの時はどっちが強いの?」
「アンタはそういうことを聞こうとしない!!」
流石にそれは静奈も答えられないことだ。
まあ言ってしまえば静奈はドМなので激しいことが好きなのだが、最近では龍一に教わった技を進んで試すこともあって静奈も経験値は貯まってきていた。
「基本的には龍一君が強いわね。あの腕に抱かれてしまったらもうダメよ」
「……わお」
「えっろ」
これくらいは良いだろうかと考え静奈はそう口にした。
しかし今のは龍一との夜を想像しての言葉だったため、若干彼女の持つ雰囲気が絶妙なまでの色気を醸し出してしまい夕陽と志保が顔を赤くしてしまった。
その後もかしましい女子トークを繰り広げてからカラオケ店を出るのだった。
「今日はもう解散にする?」
「そうだね。静奈もそれで良い?」
「分かったわ。それじゃあここで……あら」
そこで静奈は見覚えのある後姿を見つけ、クスッと微笑んだ彼女は二人に別れを告げてその後姿に近づいた。
「龍一君、母さんも」
「あん?」
「あら、静奈?」
その後姿は龍一と咲枝だった。
どうやら買い物をしていたらしく、龍一と咲枝は買い物袋を抱えていた。
「俺もさっきまで真たちとブラブラしてたんだが、買い物中の咲枝を見つけてな。俺としてはそんなところを見ちまったら手伝わないわけにはいかないだろ」
「そうだったのね」
「ふふ、本当に嬉しかったわ。それに龍一君ったらあんなお茶目なことをするんだものビックリしちゃった」
「お茶目なこと?」
「……………」
それはあまり聞いてくれるなと龍一は顔を背けた。
微妙に頬が赤くなっているのでお茶目なこととはいえ恥ずかしくなることだと予想できるが、考えても静奈にはそれが分からなかった。
「ねえ教えてよ龍一君」
「良いだろ別に」
「……むぅ」
頑なに教えてくれなさそうだった。
それから静奈も二人に合流して買い物をする中、龍一がトイレに向かったところで咲枝が教えてくれた。
「龍一君ね。最初に声を掛けてきたんだけど、その後に目隠しをしたのよ」
「目隠し?」
「えぇ。それで誰だって問題を出してきたけど、私が龍一君の声を聞き間違えるわけがないから」
「でしょうね。あ、そういうこと」
「それがきっと恥ずかしかったんでしょう」
確かに子供がやるようなことなので、あまり龍一がそういったことをするイメージはなかった。
もしかしたらと咲枝は言葉を続けた。
「もしも本当のお母さんと仲が良かったとしたら、そんなやり取りをしていたのかもしれないわね。ああいう可愛いところを見てしまうから私はあの子のもう一人の母親になりたいと思うのよ」
「……そうね」
愛を与えられなかったからこそ、無意識に母への愛を求めるのだろうか。
別にそれは龍一がいまだに過去を引き摺っているわけではなく、咲枝に心を許しているからこその行動だ。
「……どうしたよ」
「ううん、何でもないわ」
「えぇ。何でもないわよ」
トイレから戻ってきた龍一だが、笑顔の静奈と咲枝から何を話していたのかを察したらしい。
「……言ったな咲枝」
「ダメだった?」
「別にダメじゃねえけど……」
なら良いじゃないかと二人は龍一を見て笑うのだった。
恥ずかしそうにしている龍一を見ていると、不思議と静奈の中で彼に対する可愛いという感情が膨れ上がる。
それをもっと見てみたい、もっともっとと思い始めて彼女は気付いた。
(……あ、これがSってことなのかしら?)
静奈の中に新たな可能性が生まれた瞬間だった。
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