第69話加藤段蔵
京から白浜城へ行く道で、広く整備された道を荷物を運ぶ馬が往来している。
なんて、のどかな風景なのだ。
それに熊野参りの一行なのか、一列になった集団も見かける。
昔に比べて、道の往来が便利になった。
きつい峠を通らないですんでいる。トンネルが貫通しているからだ。
あれ? 変だ。急に人の往来がなくなっている。
嫌な違和感を感じる。
「なにか居るみたいだから、周りには注意しろよ」
「・・・・・・」
「なにかとは・・・・・・」
「あ!化け物だ。こっちに襲ってくるぞーー」
1人の男が狂ったように叫びながら逃げ出した。
「おい!!待てーー」
「化け物なんか居ないではないか? あれに見えるは、美しい女子で・・・あ、あ、あ、許してくれ、裏切るつもりなどなかった」
その男は、頭を抱えたままひざまずいた状態で、白目をむき「ドサッ」と倒れ込んだ。
又も2人は、恐れおののきながら逃げてゆく。
そして、地面に倒れ込んだ者は、8人にも及んでしまった。
どれもが普通でない言葉を発して倒れた。
「誰だ!!正体をあらわせろーー」
「うふふふふ、あまり驚いていないな。やはり不思議な男だな」
「お前は、
「ほう、何故名前が分かったのか知らないが、やはり恐ろしい奴だな」
「お前に言われたくない」
「そうかな・・・まあいい。世間では『とび加藤』で有名なのだが・・・」
「とび加藤・・・何故、俺の前に現れた」
たしか、戦国時代に幻術使いとしての名は有名だった。
武田信玄のもとにとび加藤と名乗り、どんな
しかし死ななかった。上杉謙信のもとに「牛を呑む」幻術をみせていた。しかも謙信は、信玄と同様に殺害したはずなのに・・・
そのとび加藤の眼は赤く充血して、
「復讐だ。風魔一族と言えば分かるか? あの中にワシの家族が居たのだ。久し振りに帰ってみれば、あんなことになっていようとは思いもしなかった」
「復讐する相手が違うぞ。風魔一族を殺したのは、太原雪斎だ。俺の場合は、殺され掛けたから殺したまでだ。それでも復讐するのか・・・」
「太原雪斎を殺してどうなる。ほっといてもすぐ死ぬ老人を殺しても意味はない。太原雪斎や今川義元へお前の首を届けて、やっと復讐が完了するのだ」
こいつは、復讐に取り付かれている。まともな思考もできないだろう。
ステータスの末端に狂気と表示されている。
俺は、ジャンプして一気に離れた。
そして、とび加藤に向かって雷撃を1回、2回、3回と放った。
これでも仕留められなかった。
空に人の姿が見えた。今度は風の
そのたび、姿が右や左に瞬時に動いていた。
どうして空中で自由に動けるんだ。
この風魔法もダメなのか? それならば火魔法の最大の魔法ではどうだ。
火が立ちのぼり、火柱になると徐々に火の龍となってとび加藤を襲い続ける。
大きく口を開けて食らいつくが、寸前に逃げられている。
急に後ろに気配が「う、まさか」倒れる瞬間に、とび加藤の顔を見た。
胸から刀が生えている。
「取ったぞーー。ワシは
その瞬間に、とび加藤の頭は地面に転げ落ちていた。
俺は仕上げに火を放ち、消し炭になるまで燃やし尽くした。
「お前だけが、幻術使いではない」
そして俺の前に、急に果心居士が現れた。
「遅かったみたいだな。このばか者が」
消す炭になった地面に向かって、独り言のように言い放った。
「え、知り合いか?」
「昔の出来の悪い弟子だった・・・あんなに逃げ回っていたのに~」
深い訳がありそうだ。
それに果心居士は、感傷にふけりながら呪文のような言葉を唱えている。
あ、消し炭が消えてゆく・・・
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