第59話武家諸法度




まだ、九州の戦が残っているのに、俺は京へ呼び戻された。

その為に、白浜城へ帰った。

そこで、石見銀山で取ってきた銀を造幣場ぞうへいじょうへ置いて来た。




そして京へ向かった。

すると今川城がようやく完成していた。



その7階の天守閣からの眺めは凄かった。


「京一番の眺めですね。あれが御所ですか・・・」


静香も寄り添うように右手を握り、違う方向を見ている。

多分、実家の方向だろう。

今川城へ向かうついでに、静香に実家への里帰りをさせる為に連れて来ていた。

ここでの用事が済めば、連れてゆくつもりだ。


「殿、送り火の準備をしてます」


双眼鏡をのぞき込んだまま、静香がおっとりとした口調で言っている。


「ああ、五山送り火が近づいていたのか・・・もうそんな時期になっていたか・・・」


送り火では、大の字しかイメージはなかった。

京生まれの静香は、詳しく教えてもらった。


鳥居、左大文字、船、妙、法、左大文と六文字もあった。

おかしいと聞くと、妙法で二山二字だが一山一字として扱われるらしい。

俺は、夜の送り火を実際には見た事が無いので、「ふ~ん」とうなずくしかなかった。

テレビで見ただけで、その雰囲気は分からない。


「今度、一緒に見よう」


「はい・・・」




その今川城から渡り廊下を歩きながら、今川屋敷へ向かっている。

この今川屋敷は、新たに建てられた2階建ての屋敷だ。

前回のことを踏まえて、警護体制は万全であった。

屋敷内に奉公する者は、身元調査をしっかりと行い。

屋敷に住み込み状態で外にも滅多に出れないようにしている。

その奉公人の家族が人質とられて、脅されたり賄賂わいろを避けるためだった。


そして奉公人の中には、身分を隠して忍者も数人が紛れ込んでいる。




そんな一室で話し合いがなされた。

太原雪斎が、武家諸法度ぶけしょはっとを作るといいだした。

今川幕府が大名を統制する為のもので、大名が今川幕府に対して守るべき法律だ。

それを聞いた義元は、強い口調でいいだした。


「武家の本分は、だ。勇ましい心と軍事に詳しい知識とそれを扱える技術だ」


いった後に少し感情が高ぶっている。


「分かり申した。そのように書き残しましょう。本郷はどうだ」


「大名が勝手に婚姻を決めるのも不味まずいでしょう」


「・・・・・・そうなのか?」


「そうですよ」


「成る程な・・・」


銭の製造の禁止や密貿易の禁止も決められてゆく。

銭の製造は、本郷家が専属で行なうことも決まった。


新規築城や無断修補の禁止・徒党ととうの禁止など様々が決められた。


「参勤交代とな・・・それは必要なのか?」


「必要です。大名に将軍への忠誠心を示すことが大事です。そして正室と後継ぎを京に住まわすのです。そうすることで京育ちになり国許への結びつきが薄れて、幕府よりの考えを植えつけるのです。そうですね後継ぎ専用の学問所も作りましょう」


雪斎は、しばらく考えた。


「いい考え方です。参勤交代の費用もバカに出来ません」


話す内容を細部まで話し込んでいた。

途中、中座して静香を家臣に実家へ連れて行くように指示した。

話が徹夜になりそうで、静香が可哀想に思ったからだ。



俺は、参勤交代で大名の財力を弱らせたい訳でない。

参勤交代をすることで、物流が発展して道の整備や、船の航路が整備されることを願っている。

日本は、西洋に負けないように海洋へ打って出る必要がある。

その前の準備期間なのだ。


その為にも、川に掛ける橋が必要だ。

今後は、我が本郷家の土木隊が橋建設を担うだろう。

江戸幕府は、橋を作らなさ過ぎた。



「橋を作って、攻められたらどうするのだ」


「そこが間違いです。その時点で終わりです。そうさせないように事前にする事が一杯、ありますよね・・・」


「わからん」


「はい、ダメです」


「ダメなのか・・・」


「はい、これは1人で考えを見つけて下さい。もう遅いので帰ります」


悩んでいる義元を残して、さっさと帰った。

太原雪斎は、なにか言いたそうな顔をしていたが、見なかったことにした。


深夜1時を経過していたが、本郷屋敷では明かりを付けたまま待っていた。


静香は実家に帰らずに、玄関先まで出てきて待ってて居た。


「お帰りなさいませ」


「帰らなかったのか・・・」


「わたくしの家はここです」


「そうか・・・そうなのか」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る